砂まみれの反省会
日が沈み、活気が溢れる夜の町に、
満席の店内だが、座る客たちはただ静かに帰りを待っていた。
油の香り、グラスの音、笑い声――それらが一瞬だけ止まる。
カラン――
ドアが開く。
砂まみれのECOが入ってきた瞬間、拍手が起こった。
「お〜かえりー♡シンさん♡」
「今日の主役の帰還だー!!お疲れ様」
「……い〜や、お土産が砂とは、甲子園じゃな!!」
笑い声と共に、店中がどっと沸く。
ECOは無言で立ち尽くした。
髪から砂がパラパラと落ち、床に小さな砂丘ができていく。
「……掃除が、また増えましたね……」
「兄、初陣お疲れ!」
カウンターの奥からシュウが顔を出す。
カウンターの上には、なぜか「敗因分析ノート」と書かれた手帳。
「それじゃぁ、とりあえず座れ。作戦会議、始めるぞ!」
「……作戦会議、ですか」
「もちろん! “敗北”を知って、次こそ負けないように…だ!」
「敗北は既にしっています。」
「だ・か・ら♡次に挑む為よ♡」
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◆《作戦会議開始》
即席のホワイトボード風ダンボールに太い字で書かれている。
> 【久遠の刻・初戦敗退 反省会】
―副題:足がズボッといった件について―
テーブルの周囲には、常連たちが勢ぞろいしていた。
「司会を務めさせていただくのはこの俺、『マサ』だ!!じゃ、まずは気付いた敗因を各自発表してもらおうか!」
マサさんが言うと、全員が一斉に手を挙げた。
「はい!まず、この場に酒がない、あとつまみも」
「あと氷とハイボール!!水もね!」
「ただの注文じゃぁね〜か!!あと炙りイカも追加で!!」
「………会議ですよね?」
「気にしないの♡この位気を抜いた方が良いのよ♡私は手羽餃子♡」
〜10分後〜
「じゃぁ酒も揃ったし、真面目にやりますか!シン、その場にいたんだ、何かおもいつかないのか?」
「はい! まずは足場対策が甘かった! 滑り止め塗るとかどう?」
「砂は油吸うんだ。無意味だ!」
「EARTH社の靴を使え、土木には最強だ!」
「いやいや、あそこのは高いだけ、ZEAR社の靴にしとけ性能もそこまで変わらん」
「………急にレベルあがってませんか?なぜ皆さん詳しいのですか?」
「ここの客のほとんどが、そうゆう仕事関係が多いのよ」
「ってか、AI強すぎ問題っす! 絶対調整間違えてるっす!」
「かもな!」
「もういっそう水まいて地面固めようぜ」
「待て待て、それは物理的に無理!」
「いや、シンがバケツひっくり返せば…」
笑いが起こる。
ECOは首をかしげた。
「あの…お言葉ですが、飛行ユニットを装備すれば良いのでは?」
「「…………あ」」
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◆《映像解析タイム》
大型モニターに、“ECOの戦闘ログ”が映し出される。
「それでは検証開始。まず跳躍――」
ズボッッ!! (右足、沈む)
「――はいここ! ここですここ!!」
レーザーポインターで指す。
「あっははは…埋もれちゃった!!」
「砂だねぇ」
「うん、それ普通の人間もそうなるやつ!」
次の瞬間、画面のECOが吹っ飛ぶ。
砂煙が舞い、画面が真っ白に。
「痛ッ!?」というシンの記録音声が再生され、店中が爆笑した。
「ワハハハッ!!!!コレ動画投稿しようぜ!」
「稼げるならいい宣伝だろ? “最速敗北”で。」
「……不快です。」
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◆《再挑戦に向けて》
笑いが落ち着いたころ、シンがボードを叩く。
「まぁ、よくわからんが、無理して完璧に勝とうとしなくていい。俺達なりのやり方で行こうぜ!とりあえず笑っとけ!!」
「私は笑われているのですが?」
「そう、まだ笑って居られる。焦らず焦がさず、じっくり味を出して行こうぜ!
誰もECOを責めたりはしねぇよ。もしそんな馬鹿がいたら皆が黙ってねぇよ!なぁ?」
ECOは皆を見渡し…小さく頷いた。
「はい。……焦らず、焦がさず。次こそ“味”を出してみせます。」
「おっ、いいセリフ!今の動画のタイトルにする?」
「……冗談はやめてください。」
「いやマジでいいと思うぞ。“とりあえず笑え”!」
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笑い声が店中に響く。
窓の外、月明かりが、砂まみれの床を優しく照らしていた。
ECOは静かに床を見つめた。 散らばった砂のひと粒ひと粒が、次への道しるべのように見えた。
その横で、シンがにやにやしながら呟いた。
「なぁECO。“反省会”ってやつ、案外悪くないだろ?」
「……そうですね。馬鹿にされた気がしますが、少し……香ばしいです。」
「うまいこと言うじゃねぇか!」
「……そういう訓練データは、あなたから学びました。」
静かに笑いが広がる。
――そして、来年の「久遠の刻」への再挑戦が、また動き出した。




