まわり道と道しるべ
夜の営業に向けた仕込みの途中――。
「マスター……大切なお話があります」
ECOに呼ばれ、シンは隣のシュウと目を合わせた。
(兄、なにかしたの?)
(いや、覚えはない……けど怒られる気しかしねぇ……)
言葉はいらない。阿吽の呼吸で共有済み。
油の弾ける音だけが響く厨房の片隅で、シンは正座させられていた。
「で……ワタシ何をやらかしましたかね……ECOさん?」
ECOは無駄のない動きで一歩近づき、シンを見下ろす。
その瞳は普段の倍くらい冷たい。
「マスター。“大神楽”の参加条件をご存知ですか?」
「え、えーっと……強い御子?
いや、可愛い御子が行ける……んだっけ?」
視線を泳がせた瞬間――
ECOが長い長い ため息をする。
「……その程度の知識で“日本一になります”とよく言えましたね」
「うっ……刺さる……!」
「その程度なら____一生、目指せません」
「はい……すみません……」
ECOは紙とペンを取り出し、スラスラと書き始めた。
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『大神楽・参加枠一覧』
・月の英冠枠 …… 最大12名
・勝利数枠 …… 1名
・人気枠 …… 3名
・久遠の刻枠 …… 1名
____計17名
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「この最大17名だけが大神楽に立てます」
ECOは淡々と言う。
「勝つだけでも、人気だけでも、足りません。
そして……“運”すら必要なのです」
「う、運も!?」
「はい。“久遠の刻”がそれです……マスターは“何も知らない”ですよね?」
「……その通りでございます……」
ドン!!
「ヒャッ!?」
ECOがペンをテーブルに叩きつけた。 シンの心臓のほうが跳ねた。
「____なぜ、調べなかったのですか!」
「し、仕込みで忙しくて!調べる前に寝落ちして!」
「言い訳です。
世の中には仕事と神楽を両立している人がたくさんいます」
ECOの声がかすかに震えた。
「……私は“守るべき約束”が3つあります」
「約束……?」
ECOは指を折って数える。
「アリスさんと“ここまで登る”こと
ミュウさんと“大神楽で再戦する”こと。
そして――マスターの“日本一”という言葉」
「うっ……!」
「……だから私は、本気で進んでいます。
マスターにも本気でいてほしいのです」
シンは思わず背筋を伸ばした。
「……教えてくれ。どうすればいい?」
「まず――基本から説明します」
ECOによる講義が始まる。
「『月の英冠』。毎月15日に行われる、御子たちの神楽。
最大12名が出場権を得ます」
「最大ってことは……」
「はい。二冠・三冠を取る御子がいれば人数は変動します」
「つ、強者の世界……」
「『勝利数』『人気』はそのままです」
そしてECOは真顔になった。
「さて、問題の『久遠の刻』です」
「きたな……」
「6月から11月まで開催される“耐久戦”です。
国海社所属の御子(NPC)と、一対一で何度も戦います」
「え……簡単じゃない?組手じゃん?」
パシッ!
「簡単です。誰でも年に一度参加できます。
だからこそ……競争率が高いのです」
「ひぃっ!」
「さらに____
御子が受けたダメージは、マスターにも70%シンクロします」
「ECOが殴られたら俺も痛いの!?」
「はい。
武器は主に近接のみ。
時間制限なし。
倒れるまで終わりません」
「……スパルタかよ……」
シンは鍋を眺めながら呟く。
「でもな……神楽って、料理と似てるんだ」
「……はい?」
「手間ひまかけるほど味が出る。時間をかける事も必要だし、焦がしたら全部台無しだ」
ECOは無表情で言う。
「……例えが雑ですが……“うまい事言いたい”のは伝わりました」
「やめろ!分析すんな!恥ずかしい!!」
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「……マスター。計画は固まりましたか?」
シンは拳を握る。
「よし、決めた。『人気枠』と『久遠の刻』――二本の矢でいく!」
ECOはわずかに微笑んだ。
「了解しました。
では今から“人気を取る方法”を探しましょう」
「今!? 俺まだ仕込み途中なんだけど!?」
「大丈夫です。鍋は焦がしません。
____焦がすのはマスターの人生だけです」
「うまくないからな!!」
※参加条件を変更しました。




