お星様に約束を
残響のように、電子音がゆっくりと消えていく。
「すごいね、ECOちゃん☆ 電波妨害してたんだけど……効かなかったのかな?」
ECOはシンをチラリと見て肩をすくめるように言った。
「いえ、ちゃんと受けてました。ただ――私のマスターが変り者なだけです」
その瞬間、彼女の“マスター”がすっと間に入る。
「ミュウ様、このあともライブの予定が入っていますので、3分ほどで区切ってください」
「了解☆」
ECOが目線を戻すと、ミュウが楽しげに笑っていた。
「……あなたのマスターも、ちょっと変わってますね。
マスターっていうより……“マネージャー”のようです。」
汚れた頬を軽く拭いながら、ミュウは明るく笑った。
「そうだよ☆ミュウの今のマスターは、ただの“マネージャー”なの☆
ミュウの“本当のマスター”はね……今はお星さまなの☆」
「え?」
ミュウは少しだけ空を見上げるような仕草をした。
「ミュウのマスターはね、たくさんの歌を作ってたの☆
ミュウもね、マスターの歌が大好きだったんだ。
でもね……誰も聴いてくれなかったんだって」
声が少しだけ震える。それでも、彼女は笑顔を崩さない。
「でもね、でもね☆ ミュウが歌ってみたら――人気が出てきたの!
やっぱりマスターが作った歌はすご~く良い歌なんだよ☆
マスターはもう、お星さまになっちゃったけど……」
ミュウは胸に手を当て、静かに言葉を重ねた。
「だからね☆ミュウは歌うの☆大好きなマスターの歌を☆
ミュウが歌い続けることで、今もず~~っと輝いてるんだよ☆
――あの空で輝く星みたいにッ☆」
ECOはその言葉に、一瞬だけ息を呑んだ。
そして、そっと自らの胸に手を当てる。
“死後”のマスター――
私にとって、それはプログラムの終端を意味する。
けれど、ミュウは“続き”を選んだ。
誰かの歌を、誰かの想いを、生きるように歌っていた。
お店、マスター、弟様、常連の皆様……私にとってそれは……
「ミュウ様、お時間です」
「はーい☆ あ、最後に写真撮っておこうよ☆」
ECOはミュウに肩を組まれ、不器用な笑顔のままシャッターを切られた。
ミュウがスマホを覗き込みながら楽しそうに笑う。
「SNSにあげとくね☆ これで知名度もアップ☆
もしかしたら出られるかもね☆」
「……何にですか?」
「え、なにって……“大神楽”だよ☆」
ECOはその言葉を反芻するように小さく呟いた。
「大神楽……」
ミュウは星空を指差すように、人差し指を高く掲げてみせる。
「うん☆戦う御子の祭典! 全国の猛者達が集い、"日本一"の御子が決まる、ミュウ達の誰もが憧れる“星のステージ”☆」
「……“星”のステージ……」
ミュウはにっこりと笑い、肩をポンと叩いた。
「ECOちゃん、君もきっと出ることになるよ☆ その時はまた、バトルしようね!」
「……はい。必ず――」
夜空のどこかで、誰かの歌が響いている気がした。
それはまるで、“未来”が音になって、胸の奥で静かに鳴り始めたようだった。
ECOは空を見上げ、そっと呟く。
「……次は、私の番です」




