一番星にラブソングを 後編
マスターとの通信が途絶え、再び一人の世界へとなった。
ふと、ECOは、アリス・ゲートとの記録を思い出す。
『人間にはいつしか『死』が訪れる。
その時、わたくしの喜劇も幕を下ろすわ』
――いつか必ず訪れる未来。
もし、マスターに『死』が訪れた時、私はどうなるのだろう。
“日本一を目指す”という約束は途絶え、
私はまた、売りに出されるのだろうか。
その時は、ロゼのように違う私が生まれ、
私という存在は――消えるのだろうか。
それは少し淋しい。
でも――そんな未来をただ待つだけは嫌。
なら、今、証明します。私は一人でも戦えると。
見ていてください、アリスさん。
私たちが迎える未来を――私が変えてみせます。
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『では……いきます』
ECOの脚が地を踏み鳴らす。
シンはECOに合わせるように、足踏みと手拍子でリズムを刻み始めた。
ドンッドンパンッ──ドンッドンパンャッ──ドンッドンパンッ
ドンッドンパンッ──
ステージの音が、ミュウのリズムとは違うビートを刻み出す。
観客の一部が、一瞬、空気の変化に息をのんだ。
「えっ……なに?この……リズム……?なんか……心地いい?」
ミュウの完璧なライブ空間に、
ECOとシンの“異物”が割り込む。
「よっしゃぁ!ついでにそれっぽい装備に変換してやんよ!! クイックユニット!!」
《Sync Beat System――起動》
ECOの背面から展開したのは、光のウィング。
淡い青と白のリズムラインが、ピンク一色のステージに食い込むように走る。
「対抗ビート……!?」
ミュウの笑顔に、小さな焦りが走った。
観客の声援が、少しだけ分散する――
「おお?お?いいぞぉぉおッ!!」
「なにこれ…!この音……なんか…懐かしいような…!」
ECOが前に踏み込み剣を構える。
そしてシンがビートを刻み続ける。
二人のリズムが完全に調和した瞬間、ECOの装甲から光の残響が走った。
――行って来い、ECO。
――行ってきますね、マスター。
――ブォンッ!
音と光を纏った一撃が、ミュウのステージに割り込むように突き刺さる。
瞬間、ミュウの歌声に“ノイズ”が混じり、リズムが狂い始めた。
「なに……このリズム……!? あ、ミュウの……リズムが……!」
『ライブの邪魔をするのは心苦しいですが、勝たせてもらいます。私たちの“リズム”で』
シンの足踏みは、もはや一つの“楽器”のようだった。
そのリズムに合わせてECOの剣が舞い、ジリジリとミュウを追い詰める。
攻撃と防御、間合いとリズム――すべてが音でつながっている。
観客の中にも、このビートに身体を揺らす者が現れ始めた。
次第にその音は輪になり、客席を染めていく。
ミュウは息を弾ませながら笑った。
「いいじゃん☆……!いいじゃんいいじゃんッ☆
その音――ミュウ、大好きだよ☆」
彼女の声が少しだけ熱を帯びる。
「だったらさ……もっと盛り上げようよ☆ 本気の“ライブバトル”をさぁ☆!!」
ミュウはマイクを握り直す。
ECOも構えを取る。
場内の音が、二つのビートでぶつかり合い――揺れた。
ミュウがマイクを掲げる――一瞬、会場が息をのむ。
その“溜め”を破るように、
「みんなーー☆ッ!ミュウに力を貸してッ!! 《Connect☆Voice》」
「よっしゃああああ!! いくぜ野郎共ォォッ!!」
「「「オオゥゥゥゥゥッッ!!!」」」
戦いは、ライブから“セッション”へと変わる。
ここからが本当の勝負だ――!
ECOとシンのビートが鳴り始めた瞬間――
ピンク一色だった空間が、少しずつ“青と白”に染まり始めた。
観客のサイリウムが、自然と一部、色を変える。
まるで音が、世界を塗り替えていくかのように。
「いくぜ!ミュウ親衛隊ッ!! 今こそ本気で行くぜッ!!」
「「「ウオォォォォッッッ!!!」」」
会場が爆ぜた。
観客席全体が、一つの巨大な“合唱ユニット”に変わる。
音圧の波がリングを飲み込み、ミュウの背後にピンクの巨大な翼のような残響が生まれた。
「まじか……この声援が……彼女の“力”になるってわけかよ……!」
ECOの脚がリングを蹴る。
シンの手拍子と同期し、ECOの装甲ラインが淡く光を帯びる。
それは観客の声援に“割り込む”ようにして、もうひとつのビートを刻み始めた。
「こっちも行くぜECO――!!」
《Sync Beat System――Overdrive》
――音が、爆ぜた。
ECOの動きが、明らかに速くなる。
リズムが彼女を導き、まるで音に乗るように身体が空を舞う。
剣とステップが、歌とビートに溶け合い、ステージが戦場とライブの境界を失っていく。
ミュウも負けじと声を張り上げる。
「みんなーーー☆! もっと力をかしてぇぇえッッ!!」
「「「うおおおおおおおおおッッ!!!」」」
観客の声援がさらに跳ね上がり、ピンクの光が広がる。
ステージ中央に、二つの“リズムの波”が衝突した――
ピンクと青がぶつかり合い、光の壁となって弾けた!
『はぁぁぁぁああッ!!!』
ECOの剣が、ミュウの音波の渦を切り裂くように一閃。
「うううぅぅッ……でも……まだ、終わらないッ!!」
ミュウの声が震える。
しかし――折れていない。
むしろ、その声はさらに熱を帯びていた。
「行くよ――! 最後の一曲ッ!
《Starlight☆Finale》!!」
マイクを握るミュウの背後に、星のような光が生まれ、渦となって舞い上がる。
それはまるで“流星群”のようにECOへと降り注いだ!
『――コレでは近づけません…回避パターン、演算不可能』
接近を諦め、回避に専念しようとしたその時――
場内に響くシンの声。
恥も外聞も捨てたその叫びが、ほんの一瞬だけミュウの意識を逸らし、わずかな道を開いた。
『行けと言うのですね、マスター』
ECOの身体が呼応する。
光の翼がさらに広がり、足元に“青と白のサークル”が描かれた。
《Beat Break――起動》
「いっけぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」
「うそうそうそうそッ?!!」
――ドォォォォォンッ!!!
ステージが震えた。
ECOの剣は星の雨を砕き、かき消し――
一直線にミュウへと突き進む。
ミュウの足が一歩、後ろに下がる。
光の翼が揺れ、観客席からどよめきが上がる。
「ミュウ様が……押されてる……!?」
ECOの猛攻は、さらに速く、鋭くなる。
ステージ全体に、青い光が広がっていく。
――それはまるで、「二人の音楽」に会場が染まり始めているかのようだった。
ミュウはその光景を見て――笑った。
心の底から、嬉しそうに。
「いい音だね……ほんと、最高……☆」
彼女はマイクを胸に抱き、まぶたを閉じる。
「ミュウの負けだよ☆」
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