一番星にラブソングを 前編
ある日の会場アリーナ
いつもの試合のはずなのに、今日はいつもとなんか違っていた。
「なぁ、今日の客……いつもより濃くないか?」
ECOは観客席を見渡した。
「そうですね。熱量と平均BMI値が20%ほど高いと思われます」
「……つまり太ってるってこと?」
「はい」
「あ、あ…あ~ぁねぇ…」
歓声が闘技場を揺らす。
「ミュウーーちゃーーんッ!!!愛してるぅぅうッッ!!」
観客の声はだんだんと熱を帯び、コールが始まった。
「つまり、有名な相手って事ね。と、なると、ココで勝てば注目度が上がるはず、このまま俺達も有名になれば大神楽へいけるな!」
ライトが一斉に消え、漆黒のステージを静寂が包んだ。
その瞬間――
一筋のスポットライトが、センターに差し込む。
「さぁぁぁあ! 本日の目玉試合ぁぁーーーっ!!」
「挑戦者は“ガラクタ”のECO&居酒屋のシン選手! そして迎え撃つはァァ――」
眩いピンクのレーザーがステージを切り裂き、紙吹雪のような光の粒が宙を舞う。
スポットライトの中心、ドレスを揺らしながらターンする御子が一人。
そのマイクからは、かすかに“歌”が、空気が波打っていた。
(なんだこの演出?)
ステージの中央に現れたのは、フリフリのドレスと、流れるようなロングツインテールの御子。
マイクを片手に、満面の笑みを浮かべ登場。
「――唯一無二!歌って戦うアイドル、"ミュウ☆ヴォイス"選手ゥゥッ!!」
観客席が爆発したような熱狂に包まれる。
立ち上がったファンたちがサイリウムを掲げ、闘技場が一気にライブ会場へと変わっていった。
「「……なんだ……(なんでしょうか?)あれ……?」」
ECOとシンが呆然と呟く。
ECOの視線も自然とミュウへと向かう。
彼女は軽くターンをして、スカートを翻しながらウインクした。
「初めまして、チャレンジャーくんとECOちゃん☆ 今日はミュウの“ライブ”に来てくれてありがとっ☆」
「ライ…ブ……?」
「うん! このステージは、ミュウとマスターの歌のためにあるんだよ☆」
始まりの鐘が鳴る。
「試合開始ィィィィ!!」
――直後、まるでライブの開幕を告げるイントロが流れる。
「キタァァァッ!《ハロー☆オープニング》ッ!!」
「おおっと観客も一斉に総立ちィィ! 彼女の歌声とともに、闘技場の空気が震えるッ!!」
「ECO、気をつけろ……ただの歌じゃねぇ!!とあ_がい_…とり_え…ガー…、……________ッ」
ECOのセンサーが警告音を鳴らした。
妨害電波検知――。
音の波形が解析不能のエラーを吐き出し、マスターとのリンクが途切れる。
『マスター?応答せよ、応答せよ…』
返答は、ない。つまり彼女の技はデバフ系統
しかし、シンはECOに通信を切られたと勘違いしていた。
「ちょ、ECOさん!? まさか怒ってる!? いや、この曲少しいいなぁって思っただけだから?!」
シンの変換により刀からシールドへ変換される。
『このままでは、マスターとの息が合わない…』
だが、観客席はヒートアップ!
「うおおおっ!ミュウちゃーーーん!!」
「開幕一曲目からブッ飛ばしてきたぁぁーーー!!」
ステージ中央でミュウはくるりと回り、マイクを高く掲げる。
そして観客に向かって、まるで挑発するように叫んだ。
「さあ、どうだった?開幕の一曲――まだまだ、いくよーーッ!!全力で楽しもうねっ♡」
轟音とともにステージ全体が光り輝いた。
ミュウが歌い出した瞬間、空気が震え、音圧が衝撃波となって襲う。
「――次の曲《スウィート☆Magical☆ビート》っ♡」
その瞬間、音が形を持った。
ピンク色の波紋が床を這い、光の弾丸のようにECOを襲う。
空気が裂け、ステージ全体がスピーカーの膜のように震えた。
ECOはとっさに腕を前に出し、シールドを使いガードする。
しかし――
『なんて音圧?!』
コアまで響く低音がECOの脚部を鈍らせ、身体のバランスが崩れる。
「おおっとォォー!ECO、防御に入るがっ……音圧に負けたかァァァ!
さすがミュウ☆ヴォイス!ステージ全体を共鳴させる“独壇場ライブ”が炸裂だァーーー!!」
「ECOっーー!」
しかしその声をかき消すように、ミュウはポーズを決めながら、次の一節を紡ぐ。
「届け――《メロディ☆インパクト》♪」
「♪この声が、あなたに届くなら――絶望なんて怖くない☆」
客席もヒートアップ。
「キターーー!俺達の青春ソング!!!」
宙に浮かぶスピーカー群からレーザーのような音波が発射される。
ECOは片膝をつき、受け止めきれずに後退した。
『くっ…守ってばかりでは……どうすれば__』
「いくよ☆ECOちゃん☆」
ミュウがウインクと同時に歌声のテンポを一段階上げた。
それはまるで“観客の歓声”と同期したように一気に加速する。
「なんという一方的な展開!! まるで闘技場全体が彼女のバックバンドだァーーッ!!」
「観客の声援を力に変える☆そ・れ・が・アイドルのお仕事☆」
その瞬間、妨害電波が解除された
「ECOさーーーん!!!」
ECOの頭にシンの声が響く
騒音?!!いえ、マスターの声?!繋がった!!
「怒ってる?!怒ってるの?!俺なんかした??」
慌てるシン、しかしECOは冷静に対応する。
『マスター手短に話します。聞いて下さい。________そして"私を信じて下さい"』
「――《ハロー☆オープニングRemix.ver》!!」
音が爆ぜた。
ECOの身体が吹き飛び、観客席ギリギリまで弾き飛ばされる。
「わかった、信じる」
『システム……ノイズ……また来……。作成……に』
「恥ずか__が…や__…る_ぞ_」
ミュウは片足でステップを踏み、くるりと回転。
まるで“勝利のポーズ”を取るように、マイクを唇に寄せる。
ステージの中央で、アイドルはまるで自分のライブを楽しむように、笑っていた。
「これはまさに、これは圧倒的ぃぃぃッ!!」
観客の歓声は波のように押し寄せ、闘技場全体がピンクに染まる
「ミュウのステージ支配が止まらないッ!!これは完全に押されているぞォーーッ!!
勝利は……この歌姫のものかァーーーッ!?」




