表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/72

シュレディンガーの鍋 ①

ある昼下がり。


年に一度のガラクタ市が、商店街で開催されていた。

焼きそばの香り、子供の笑い声、値切り交渉の声。

どこを見ても人、人、人。まさにカオスの祭典。


シンは買い物袋を両手に歩いていた。

ターゲットは皿とグラス。居酒屋の備品は、割れたり欠けたりして消耗が激しい。


「だいたいみんな割りすぎなんだよ。半年で20枚は割ってるよ」


「ご、ごめんなさい………兄」


素直に謝るシュウ。割った犯人の一人だ。


「おう、次割ったらまた一週間、“お兄ちゃん”って呼ぶ刑な!」


「な!?……わ、割らないように努力するよ」


「いや、割っていいぞ(ニヤニヤ)」


くだらないやりとりに周りの人たちもクスリと笑った。


買い物はひととおり済み、帰ろうとしたそのとき――。

「……お?」


シンの視線がある一点に止まった。


高く積み上げられた土鍋の山。

素焼きの質感、黒く艶めいた蓋のフォルム。なぜか心を奪われてしまう。


「なぁシュウ、コレ……かっこよくね?」


「兄、まだ冬でもないのに土鍋は要らないよ……」


「いやいやいやッ!!今から新メニューを仕込めば、冬には土鍋料理デビューできるんだよ!

うちの店の未来のために必要なんだって!」


「……冬の新メニューよりも夏の方が先では?」


シンの早口プレゼンが始まった。

一目惚れからの暴走は、いつものことである。


ECOが後ろから冷静な声を落とす。

「マスター、鍋の営業は非合理的です。滞在時間と単価が釣り合いません」


「いやいや、どうせうちの客はビール一杯で4時間居座るんだよ?!単価とかそんなもん最初から無いから!! 無いからぁッ!! 論破ァッ!!論破ァッ!!」


「……それは論破ではなく、感情論です。」


必死である。

結局ECOとシュウは根負けし、土鍋を一つ購入する羽目になった。


「買っちゃったぁ~!」


鍋を抱えて上機嫌なシン。まるで少年が新しいオモチャを手に入れたかのようだ。


「非合理な出品です…」


「いいんだよ!衝動買いってのは魂の叫びなんだ!今1番求めているもんが土鍋だったって話さ!!」


「衝動的浪費、とも言います」


シンとECOの温度差が、6月の空の下で妙に映える。


◆帰り道


ちょうど角を曲がったところで、資さんが声をかけてきた。


「お?シンさん、市場にでもいってきたのか?」


「お!それ鍋か?いいねぇ~。鍋と言ったらやっぱ“鍋焼きうどん”でしょ。蓋を開けたら空へと昇る湯気、広がる香り……たまらん……よし、今日は鍋焼きうどんにしようぜ!」


「甘いな資さん! 鍋っつったらまずはモツ鍋だろ?!」


「はッ!!流石だよシンさん……モツ鍋は締めのうどんが最高に輝く、いいセンスだ!!」


すると、ちょうど通りかかった、みっちゃんと仁さんが参戦。


「あら~♡鍋の話? もちろん“豆乳鍋”よ♡ 美容にいいし、野菜もたっぷり摂れてお肌つるっつる♡ 仁さんもそう思うでしょ~?」


「……いやいや、鍋と言えば水炊きだ。シンプル、だが奥深い。出汁を楽しみ、焼酎を一口。……最高だねぇ」


「あ~ら♡ 渋いわねぇ♡お酒が進む話じゃな~い♡」


わちゃわちゃと鍋談義がヒートアップしていく中――。


「……統合案を提示します」


ECOがスッと一歩前に出る。


「各人の主張が対立する場合、全ての要素を一度に検証するのが最も効率的です。すなわち――」


「「すなわち?」」


「全て入れてください。」


「「____闇鍋!!!」」


皆が叫んだ。


「いいじゃな~い♡ 闇鍋♡ 一度やりたかったのよね~♡」


「いえ、そういう話じゃ……」とECOが止める間もなく、


仁さんも「……悪くない」と頷き、シンと資さんも「面白ろそう!!」と笑う。


シュウは諦めたかのようにECOを見て首を横に振る。

「こうなったらもう、誰にも止められないよ。」


こうして、居酒屋『深夜の世界』

今夜、闇鍋祭が決定した。


◆そしてルールが決まる。


集まった全員が真剣(?)な顔で向かい合う。

卓上にはなぜか手作りのホワイトボードが置かれ、ルールが書き込まれていった。


①【出汁】ルーレットで決定する。異論は禁ずる。

②【具材】一人一種持ち寄る。固形物のみ。汁物を禁ずる。

③【食】部屋を薄暗くし、一人お玉一杯食す。

④【命】素材に感謝。お残しは許しまへんで!!


「最後はなぜ関西弁なのですか?」


「私たちの子供の頃のおしえよ♡」


誰も止められなかった。

この瞬間、混沌の宴が始まったのだ――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ