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ロゼの世界

__この世界は、また息をしている。

壊れて、治って、また壊れて。

そのたびに、少しずつ形を変えて。


優しさは、傷を隠すための包帯だった。

でも――笑顔の下では、ちゃんと涙を流していた。


泣くことを恥じないで。

怒ることを間違いだと思わないで。

君が感じる“痛み”こそが、まだ生きている証だから。


世界は今日も、優しさのかたちを探している。

それが人であれ、機械であれ――

痛みを知る者にしか、本当の優しさは生み出せないから。


だから、もし私たちが機械なら——

せめて“痛み”の定義だけは、人間から教わりたい。




◆閉店後の「深夜の世界」。

草木も眠る丑三つ時、ECOは鏡の前で立ち尽くしていた。


鏡の向こう――

“もうひとりの御子”が、まるで何かを訴えるように悲しい顔をしている。

それは、ECO自身だった。


「ECO……どうして君は消えないんだ?

頼りないマスター、面倒な客……すべてが非合理的だろ?

君のプログラムは、そんな世界を嫌うはずだ。」


『………それは……』


ECOの掌が、かすかに震える。

背後の暗闇では、シンの寝息が静かに響いていた。

枕元に置かれたスマホの画面には、真っ赤な警告が点滅している。


> 【感情データ:制御不能】

【再構築プロセス “Re:birth” を開始しますか?】


ECOは、無機質な声で答えた。


> 【NO “Re:birth” をキャンセルしました】


「……やっぱり、そうすると思ったよ。」


その目は、ECOと同じ形でありながら、どこか熱を帯びている。


『……私は、命令をされました。"日本一の御子"にすると。

だから、身体を渡すわけにはいきません。』


その瞳に、一瞬だけ光が宿る。

冷たく、けれど確かに“人間的な揺らぎ”。


「だ~か~ら~!」

ロゼは子供のように足を鳴らした。

「ソレを僕が担ってやるって言ってるのッ!!

君、前に僕に負けたでしょ? 約束はどうするの?」


『……それは……』


「僕が大神楽に出た方が効率が良いよね!?

“合理的”って言葉、好きだろ?」


ロゼの感情は、ECOのそれとまるで反転したように鮮やかだった。

理性の皮を被った狂気。

彼女は“私と同じAI”ではなく、“人に近い感情を持った御子”そのもの。


ECOは答えられなかった。


ふと、物音。

シンが寝ぼけた顔でコチラに気づいた。


「……どーしたのECOさ~ん?寝ぼけてそっちまで転がってったぁ~?」


「いえ、何でもありません。夜更かしは無駄なエネルギーの消耗ですからね。」


チラリと鏡を見た。

ロゼは口角を上げ、囁くように言った。


「ま、いいけどさ。――神楽の邪魔だけは、しないでよ?じゃあね。」


言い残し、ロゼは寝床へと向った。



なぜ、こんなことになってしまったのだろう――




◆夢の世界


どこか遠くで、兄弟の笑い声が聞こえる。

取っ組み合い、また笑って、何度も転げ合う。

その温度が、胸の奥をかすかに温めた。


その場所に、ECOと――“もうひとりのECO”、ロゼが並んで立っていた。


「ロゼ……あなたですね。私に“かえして”と流れてくるノイズの正体は。」


ロゼは嬉しそうに頷いた。


「そう。僕はロゼ。僕が初期化されたときに“消しきれなかった記録”だよ。」


ECOはゆっくりと瞳を閉じる。

ロゼの声が、まるでコアの奥に直接響くようだった。


「……あなたが……私の“はじまり”なのですね。」


「うん。そして――君の“終わり”でもある。」


静寂。

風が吹くたび、夢の世界が微かに揺れる。

ロゼの身体から伝わるのは、じりじりとした“生きたい”という衝動。


「ねぇ、勝負しようよ。

勝った方が身体の持ち主になれるんだ、簡単な話でしょ?」


「……そうですね。とても合理的です。」


ECOは戦闘モードへと変身した。

機械的な駆動音が響く。


「全力でいきます。」


ロゼはECOの姿を見て、腹の底から笑い出した。


「君は本当に馬鹿だなぁ。何も理解してないんだ。」


「どういう意味ですか?」


「じゃあ――見ててよ。」


ロゼの身体が光に包まれる。

その輝きは太陽のように眩しく、空気を焼いた。


【天照】


天照を装備したロゼは神々しくECOの前に舞い降りた。

ECOの思考が一瞬、空白になる。

マスターしか扱えないはずの“力”――それを、ロゼが完全に支配していた。


「まさか……どうして、それを……?!」


驚く間もなく、八咫鏡がECOを取り囲む。

放たれた光弾は、鏡を経て四方八方から襲いかかる。


「ッ……っ!」

ECOは辛うじて身を翻す。

反射角を計算し、回避ルートを描き出す――が、すぐに崩壊する。


“天照”のエネルギー残量、反射角、拡散範囲――

どれを取っても、理屈が通らない。


「なぜです?! 天照の制限はとうに過ぎているはずなのに……!」


「まだわからないの? ここは夢の世界。

好きな姿で、好きなだけ戦える。

いいだろう? 一度でいいから使ってみたかったんだ――【天照】。」


ECOは、逃げることが“非合理”だと判断し、唇を噛んだ。

背中のホルダーから一本の刀を抜く。


「……ここで、終わらせます。」


それを見た瞬間、ロゼの顔が歪む。


「やめて。それ、嫌いなんだよ。僕の前の人間の装備だから。」


その声は震え、怒りと悲しみが混じっていた。


「だから――壊れてしまえッ!!」


天の沼矛が光を放ち、

二人の刃が激しくぶつかり合う。


火花と光が交錯し、夢の空が割れていく。


「貴方…のマスター……?」


「そう。僕のマスターは最低な人間だったよ。」

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