優しい世界 ―Re:birth―
____この世界は優しい。
だから僕は祈る。
どうか世界が、ほんの少しだけ、不器用でありますように。
不器用で、ほんの少しの痛みを残しておいてほしい。
その痛みこそが、
きっと、“生きている”証だから。
◆少し前の事
昼を迎えた「深夜の世界」。
そろそろ仕込みを始めたい時間だというのに、シュウが起きてこない。
シンは、焼き鳥の串を打ちながら眉をしかめた。
「なぁECO……皿割ったこと、気にしてるのかなぁ?」
ECOは野菜を切りながら淡々と答える
「はい。可能性は充分にあります。能天気なマスターと違い、弟様は繊細です。」
「…おう?…そうだな。ちょっと部屋、覗いてくるか。」
ECOは手を止めると、冷静に言った。
「そうですね。このままだと、運営に支障が出ます。利益率マイナス22%の危険があります。」
「マジか?!」
軽口を叩きつつも、二人はそっと部屋の戸に耳を当てた。
「……寝てるのか?」
「可能性があります。騒音レベル30dB以下です。」
「???30デシベルがどのくらいかわからんが…まぁ起こしてみか」
シンはノックをし、戸を開ける。
中では、シュウが苦しそうにうなされていた。
息は荒く、いくら呼んでも目を覚まさない。
シンは布団をめくると、シュウが黒い石を握りしめていた。
「コレは……なるほど」
シュウから石を取り上げようとするも、強く握りしめられていた。
ECOが問う。
「マスター…その石は?何か関係があるのでしょうか?」
「多分この石がシュウに悪夢を見せているんだ。」
「なぜそんな事がわかるのですか?非現実的です。」
「ん~~まぁ…俺一度死んだから、なんか霊的なモンがわかるようになった!」
「???はい?………非科学的根拠ですね?」
「多分この石を握って寝ればシュウの所に行けると思うから寝るわ!」
「不可能です。無意義です。」
「もし何かあったら仁さん達によろしくって伝えてくれ!じゃ!」
言うが早いか、シンはシュウの手を握り――そのまま眠るように布団へと崩れ落ちた。
◆暗闇、雨音。そして…
気づけば、地面に倒れているシュウの姿と、その傍らに立つ“黒い男”
全てを察したシンは気がつけば拳を男に当てていた。
「大丈夫か?シュウ」
シンは駆け寄り、シュウを抱き起こす。
シュウは兄の腕の中で小刻みに震え、耳を塞ぎ、目を閉じ、『ごめんなさい』と何度も繰り返していた。
シンは優しく頭を撫で…
「大丈夫。俺はお前にいつも助けられているんだ。俺はお前が必要なんだ、だから…今、お兄ちゃんがアイツをぶっ飛ばしてやるッ!」
体の震えが収まり、兄をみる。
「………兄」
「おいおい、倒す? 今“倒す”ってぇ言ったのかぁ? フハハハハアァァァ!」
地響きが鳴り黒い男の身体が膨張し、人の形を失っていく。
巨大な悪夢が現る。咆哮を上げ、世界が揺れた。
「ここハ夢ノ世界ダぁ オれの思うがァまマダァ!」
それでも、シンは一歩も退かない。
弟に向かって、穏やかに言う。
「なぁシュウ、覚えているか?昔2人でよくヒーローごっこしたよな?」
「兄……」
「そしてココは夢の中だ。ってことはよ?思い描けよ!“なりたい自分”に!」
そして自分自身に笑うよう、ポーズをとり____
「へへ、一度言ってみたかったんだよなぁ」
力強く叫んだ
「____変身ッ!!」
光が走る。
シンの身体は光に包まれ、あの頃、二人で見ていたヒーローの姿へと変わった。
「うぉぉぉぉぉ!!!俺…カッケェーッ!!いくぜーーッ!うどんスパイラルッ!!」
馬鹿みたいに叫びながらも、兄の背中は____
そっか…兄はいつも変わらない。僕が足を失う前から、兄は変わらなかった…いや、変わっていない。
いつだって僕を…守ってくれていたんだ。
そして____涙を拭い、再び立ち上がる。
シュウの心に熱が宿る。
「僕も……兄みたいに…"自由"になりたい…強くなりたい…だからッ!!」
「――変身ッ!!」
二人は並び立ち、巨大な悪夢へと挑んだ。
「スーパー居酒屋バーーンチッ!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
長い戦いが続いた。
しかし、悪魔は何度倒しても蘇り
次第に追い詰められていく二人。
「ど…どうする兄…きりがない…このままでは……」
「どうするったって………あ!!」
シンは何かを閃いたようにニヤリとし____
大声をあげた。
「だめかもしれないけど……スゥ~助けてーーーッ!!冥極くーーーんッ!!」
「ああぁん??めいごくぅ?誰ダソレ?」
その叫びに、応えるかのように世界はひび割れ、
黒い炎が走り、声が空を割る。
「見つけたぞ、人を惑わす悲しき影よ____」
その声は、黒炎が地を這い、空気を焦がす。
。
「夢を喰らい蝕む大罪よ____」
歩み出たのは、地獄の裁きを司る者――閻魔、冥極零司。
悪魔は悟り、焦り、逃げ惑おうとするも、地を這う鎖が肢体へと絡み逃さない。
「我が名は冥極零司して閻魔なり。貴様に裁きを言い渡す____」
「や!?ヤめろ?!!はなセぇ」オレはぁ____」
黒炎が爆ぜ、禍々しい門が開く。
「その罪、地獄で贖え____ 」
悪魔は叫びながら、虚無へと引きずり込まれた。
静寂の後。
冥極はゆっくりとシンへ視線を向けた。
「ふぅ………ありがとう、友よ。あれは夢から夢へと渡り、人の心を蝕む、悪魔…ネムロだ。」
「ネムロ?悪魔?」
「そう。私はヤツをずっと追っていたが、姿を現さず、困っていたが、シンのおかげでやっと見つける事ができた。感謝する。」
「いやいや、助けられたのはコッチだよありがとな!」
握手を交わす。
「____すまない。仕事が立て込んでいてそろそろ失礼する____シン、困ったらまた呼んでくれ」
シンは手を思わず握りしめた。「……あぁ!ありがとう、頑張れよ、冥極ッ!!」
零司は僅かに微笑みを残し、闇に溶けていった。
悪魔が消え、残されたのは、柔らかな虚無な大地だけが残った。
「おわったな…さて…帰るか?」
「………」
シュウは俯いたまま、言葉を詰まらせる。
シンにはその気持ちが痛いほど分かった。
「……そりゃ帰りたくないよなぁ…ここなら何でもできるもんなぁ…」
「………うん、」
静かに頷く。
シュウはシンの目を逸らすように下を向いた。
「わかっている………わかっているんだ……ここにいちゃいけないって事……でも!ここなら僕は役にたてる!!誰の手も借りないで…料理だって…お使いだって…配膳だって、お風呂だって一人でできる!!……最後に僕のワガママを言わせてよ兄………ここに残ろう」
シンは黙りこむが、その表情はとてもうれしそうだった…
「なぁシュウ…お兄ちゃんも一つだけワガママを言っていいか?俺な……お前と本気で喧嘩をしたい!本音をぶつけて殴ってきて欲しい!そしてシュウが勝ったなら…その時はここに残ろうッ!!だが、俺が勝ったらッ!!家に帰る、そしてお兄ちゃんって呼んで貰うからな!!」
シュウは涙を拭い、兄の顔を見つめた。
「兄…」
◆少し離れた丘の上
「どうして男の人はいつまでも子供なんでしょうか?」
しばらくたった頃だった。ECOが夢の世界についた時、遠くに楽しそうに喧嘩をしている2人の姿。
「……で、貴方はどちらさまでしょうか?」
何度も私に繰り返してきたノイズ
「………かえして……かえして」
ECOの背後から近づく影…少しづつ正体があらわになり、ECOは唖然とした…
まるで鏡をみたかのように…そこには……私がいた。ECOの姿をした御子がそこに立っていた…
「あなたはッ?!」
「やっと応えてくれた…僕の名前はロゼ。君が忘れた“記録”だ…」




