知らない顔、いつもの顔、
――あれから数日。
シンは気づけば、ECOをじっと眺めてしまうことが増えていた。
食器を片づける姿。注文を無表情で読み上げる姿。
何も変わらない、いつもの“ECO”だ。
「……不快です」
不意に刺さる視線。ECOが眉一つ動かさず、淡々と告げた。
「やっぱりECOだな」
シンは苦笑して、胸の奥に沈む違和感を誤魔化した。
あの日の異様な笑み――「やっぱり楽しいや」。
あれは本当に、ただのバグだったのか。
そんなある日。
「兄……! 国海社から……!」
シュウは荒い息を吐きながら、車椅子を必死に進めた。
震える手で差し出された封筒には、重大な知らせが込められていた。
『――御子・ECOの戦績および、その話題性・観客動員数への寄与を高く評価する。
よって、神楽競技会管理局ならびに製造元・国海社の承認をもって、
本日をもって御子ECOをグレード3(G3)からグレード2(G2)へ昇格させる。
これにより、ECOは公式テレビ中継対象となる試合への参加権を得るほか、
一部特別試験枠の優先出場資格を持つことを認める。
――ただし、本決定は例外的措置であり、今後の戦績次第では即時降格処分もあり得る。
従って本昇格は、神楽競技の新たな可能性を示す“試金石”として扱われるものである。』
「……マジか」
シンは思わず声を漏らした。
G2。それは、テレビ放送される“舞台”。
誰もが知る世界に、ついにECOの名前が刻まれる。
「ECO! テレビに映るんだぞ! これでお前は……みんなに認められたんだ!」
その夜。
居酒屋「深夜の世界」は、大宴会に包まれた。
狭い店に溢れるほどの常連客たちが集まり、祝いの声が飛び交う。
「シンさん!♡ECOちゃん♡ やったわねぇ♡」
「唐揚げと熱燗だ! 今日は飲み明かすぞ!」
「テレビだってよ! 俺もついに全国デビューかぁ!?」
「誰もお前を映すとは言ってねぇだろ!」
笑いと拍手で、店の梁が震えるほどだった。
シンはグラスを掲げ、隣のECOに視線を送る。
「なぁECO。これで……俺たちは世間に認められたんだ」
ECOは一瞬瞬きをし、小さく首を傾げた。
「合理的に考えれば、ただの昇格処理です。ですが……なぜ私なのでしょうか」
その真顔に、店中がドッと笑いに包まれる。
「そりゃあ美人で可愛いからだよ!」
「髪の艶だろ!スタイル良いし…… まぁ、胸は……」
バシィッ!
飛んできたしゃもじが、発言者二人の頭に直撃した。
「……不快です」
ECOの淡々とした追撃に、一瞬だけ沈黙。
次の瞬間――爆笑。
「キッツいなECOちゃん!」
「最高だ、もう一杯!」
店はさらに盛り上がった。
笑い声と酒の匂いの中。
シンの耳には、あの日の声だけが確かに残っていた。
『……やっぱり楽しいや。』




