夢の影
遅くまで宴は続いたが、次第に
賑やかな笑い声が遠ざかり、布団の中でECOは目を閉じた。
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暗闇。
足元に、石畳の広場が浮かび上がる。
霧のような白煙が地面を這い、どこからともなく冷たい風が吹き抜けた。
――カン……カン……
遠くで鐘が鳴っている。
除夜の鐘のように重く、けれど一つひとつがやけに歪んで聞こえた。
ECOは気づく。
自分の手に見覚えの無い剣を握っていることに。
(……しかし……この武器は……)
カキィンッ!
反射的に振り下ろした剣が、誰かの刃とぶつかり合った。
火花が散り、視界の闇を一瞬だけ照らす。
そこに立っていたのは――影。
誰?どこの御子かも分からない。
黒い靄に覆われて判然としない。
ただ、瞳の奥だけが深紅に光り、底知れぬ哀しみを宿していた。
「……返して……」
声はひどく掠れている。
女のようにも、少年のようにも聞こえる。
「返して……返して……返して……」
同じ言葉を、呪いのように繰り返した。
ECOは必死に剣を構える。
「な、何を返して、ほしいのですか?」
問いかけても答えはない。
刃がまた振り下ろされ、重い衝撃が腕を痺れさせた。
(強い……! でも……返せって…なにを…?)
闇は広場を侵食し、背後に逃げ場はない。
世界が影に塗り潰されていく。
ガキィンッ!
最後の一撃で剣が弾き飛ばされ、ECOの手から離れた。
「____返して」
悲しみに包まれたその声は深くコアを抉り、ECOの胸を締めつける。
次の瞬間――
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ECOは跳ね起きた。
布団の中。
呼吸は荒く、コアは痛いほど熱を放っている。
(……夢……? でも……違う……?……)
指先には、剣を握っていた感覚が確かに残っていた。
重さも、冷たさも、震えも。
カタリ、と戸口で物音がした。
眠そうなシンが覗き込むと、古びた木箱が置かれていた。
宛名は一言だけ。
『ECOさんへ』
と達筆で書かれているのみ
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朝になりシンや常連さんが箱を囲むように眺める。
「兄、これは?」
「やだ~爆弾かしら怖いわ♡」
「戸の前に置かれてた。まぁ悪い物じゃないはず。開けるぞ」
蓋を開けると、中には丁寧に手入れされた近接武器がずらりと並んでいた。
刀、槍、ハンマー――古臭いはずのものが、まるで今鍛え上げられたばかりのように輝いている。
「……なんだこりゃ。誰が置いてったんだ?」
「ファンとかじゃねぇの? 最近ちょっと話題だし」
「おい、コレ俺らが子供の時のやつだぞ!懐かしいなぁ」
常連たちが冗談めかして笑う。
ECOが一本の剣を手に取った瞬間。
耳の奥で、確かに聞こえた。
「……えして」
息を呑み、振り返る。
シンも、周りの人達にも聞こえていないらしい。
誰も気づかずに談笑を続けている。
(……また……私に……?)
胸の奥が、氷のように冷たく締めつけられた。
囁きは微かなのに、コアを貫くほどの重さで。
ECOは剣を握りしめ、答えられずに立ち尽くす。
なぜ「えして」と言われているのか――
彼女自身も、まだわからなかった。




