居酒屋の泥臭い勝ち方
観客席からざわめきが響く。
「“ガラクタのECO”と“弾幕のクロム”か……」
「ま、勝負になんねぇよ。今月のクロムは無敗だぜ?」
「オッズ見たか? 10秒も保たねぇってさ!」
ECOは冷静に対面の御子・クロムを見つめる。
重厚な装甲、六機のビットを従えたその姿は、まさに弾幕のクロム
マスターは不敵に笑みを浮かべ、勝利を確信していた。
――試合開始。
「行くぞ、ECO!」
「了解」
シンが2機のビットを制御する。だが――
「くっ……出遅れた!」
反応がわずかに遅れ、ビットは軌道を外す。
その隙を逃さず、クロムのビットが弾幕を形成。
六方向からの一斉射撃がECOを襲い、数発を受けた彼女は床に叩きつけられた。
「ECOッ!」
『……軽傷です。問題ありません』
そう返す声は落ち着いていたが、彼女もこの弾幕を突破する術を持ち合わせておらず、
盾に切り替え、一方的な守りへと変わった。
光弾の雨が降り注ぎ、金属が悲鳴を上げる。
床を叩く衝撃が、観客席まで震わせた。
ECOは盾を構えるしかなかった――防御ですら、精一杯だ。
観客から失笑が漏れる。
「ほら!やっぱガラクタじゃ無理だな」
「おーいクロム! 早く終わらせろよ!」
対するクロムのマスターは勝ちを確信した笑みを浮かべた。
「良い点数稼ぎになる。これが“旧型”の限界だ。弾幕の雨に沈め!」
次々と迫る光弾の壁。
絶望的な状況の中――
シンの脳裏に、あの日の特訓が蘇る。
流水寺邸。
「ぎゃぁぁぁあ! だから俺に発射すんなッバカァァ!」
ビットに追われ、シンが全力で駆け回る。
バシュンッ! 光線が背中をかすめる。
「……命中率、3%へ向上」
ECOは淡々と学習結果を口にする。
「俺の服が台無しだよ! その学習やめろォォ!」
流水寺は高笑いしながら叫ぶ。
「それで良い!!避けろ! 考えるな、フィーリングだ! それがビット操作の極意ぃぃ!」
「抽象的すぎんだよ変態野郎ッ!」
その横でアリスが一言だけ残す。
「――全てを完璧にこなそうとしないこと。当たりたくなければ、囮を作りなさい。アナタの時に“貧乏くさい考え”が、一番の邪魔になるの」
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シンは奥歯を噛みしめた。
「……ためしてみるか…“全部”に構う必要はねぇ……!って言葉…信じるぜ!」
声を張り上げる。
「ECO! 全力で突っ込め! 俺を信じて突き進め! 道は俺がつくるッ!!」
『……了解』
ECOは低く身を沈め、盾を捨てた。
そのまま一直線に突進する。
クロムは嗤った。
「愚かだな。正面突破? 悪あがきにしか見えん!」
六機のビットが弾幕を放ち、光の壁を築く。
『アリスさんの弾幕と比べたら、この程度――!』
「な?!その名を口にするなぁ!!」
クロムは激怒し、ECOに集中砲火を始めた。
その隙に、シンは震えるビットを操作し、クロムの目前で急停止させた――
「ECO!!俺のビットを撃ち抜けッ!」
『了解』
ドンッ!
破片が飛び散り、白煙が一瞬で視界を覆う。
光が遮られた、その刹那――
ECOの影が煙を切り裂いた。
剣が閃光となり、クロムの装甲を抉る。
『停止している物なら、私でも当てられます」
視界を遮られ、グロムの射線が乱れた。
わずかに開いたその隙間。
「今だッ!」
ECOは剣を抜き、一閃。
刃が装甲を裂き、鈍い音と共にクロムがよろめく。
「ECO! 押し込めぇッ!」
「はぁぁぁぁッッ!!」
全身を震わせながら、ECOは剣を深々と突き立てた。
重装の巨体が揺れ、轟音と共に床へ崩れ落ちる。
――審判の声が響く。
「勝者――ECO!」
一瞬の沈黙。
そして大歓声。
「嘘だろ……!」
「旧型が……弾幕を突破した!?」
「くそ、俺の賭けが……けど……最高に痺れたッ!」
荒い息を吐きながら、ECOは膝をつく。
回路は焦げ付き、装甲は割れ、煙が立ち昇る。
『……どうですか…マスター。見苦しくて、泥臭いやり方でしたが…』
シンは拳を震わせ、涙を堪えながら叫んだ。
「最高に……カッコよかったぜーー!!、ECOーッ!!」
ECOは僅かに目を見開き――小さく、誇らしげに笑った。
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控室。
ECOはリペアキットで処置を受け、シンはスマホをスピーカーモードに切り替える。
『お疲れさま。配信で見ていたわ。おめでとう。』
アリスの澄んだ声が響く。
「おう。……正直、ボロボロだけどな」
『フフ。泥臭い勝利ほど、観客の心を打つものよ』
『おうよ! 熱くて……最高だぜぇ!』流水寺の声が割り込む。
ECOは小さく問う。
「……アリスさん…見苦しくなかったですか?もっと上手く立ち回れると思ってましたが…」
少しの沈黙。
そして、アリスは柔らかく告げた。
『いいえ。泥臭さは、美しさと同じ。
……あなた達の必死な姿、とても綺麗だったわ』
ECOは目を伏せ、頬をわずかに赤らめる。
アリスの声がさらに強くなる。
『そして――いつか、ここまでおいでなさい。その時は……わたくしも本気でお相手してさしあげますわ』
「「………はい!!」」
シンはスマホを握り締めた。
ECOも、静かに燃える瞳で前を見据えた。
胸に深く刻まれた――強烈な約束。
『――期待しているから』
通話が切れ、静かな余韻だけが残る。
それは敗北を超えた「初めての本物の勝利」だった。
◆帰り道、居酒屋の常連たちからもメッセージが届く。
『やったじゃねぇかシンさん!』
『おめでとう♡今夜は祝勝よ♡』
さてさて、俺の戦いはコレからだな…
…祝勝会…派手にやるっきゃないでしょ?




