月影の魔女―アリス・ゲート―
――ショッピングモールの簡易アリーナ。
ざわめきが走った。
「おい……あれ、アリス・ゲートじゃねぇか!」
「ランキング7位の!? 本物かよ!」
「『月影の魔女』がなんでこんなとこに……?」
噂を聞きつけた人々が雪崩れ込み、観客席はすぐさま埋め尽くされた。
「信じらんねぇ……本当に『月影の魔女』だ……!」
「おい写真撮れ! これ絶対バズるぞ!」
「いや、撮るな! 呪われる!」
白と黒のドレスを纏った御子・アリスが、優雅に舞台に降り立つ。
隣には、息を切らしながらも誇らしげに立つマスター
流水寺。その御子 アリス・ゲート。
「旧型がいると聞いてね。見たくて……4時間もかけて来ちゃったわ」
アリスが小さく微笑む。
その仕草ひとつで、観客が息を呑んだ。
流水寺が俺たちの前で勢い良く土下座を始めた。
「突然申し訳ないでござる! 拙者のアリスがどうしても某の御子と神楽がしたいと申すので、少しばかり相手をしていただけないでござるか?! この通りッ!!」
「マスター……いつも言っているでしょ? 貴方はわたくしのマスターなのよ。胸を張りなさい」
「は、はい!! おいッー、御子ランキング7位! の アリス・ゲートが! お前たちにお相手してやるぅぅ!!」
ざわめきが爆発する。
「マジかよ!」
「無理無理! ガラクタが相手できるわけねぇ!」
シンは唾を飲み込んだ。
7位の御子__。だが、これはいい経験になる。
「……受けるよ。ECO、行こう」
「了解しました」
アリスが口元を隠しながら、涼やかに告げる。
「条件をあげるわ。……そうね。一度でもわたくしにダメージを与えられたら、あなたたちの勝ちにしてあげる」
シンもECOも、一瞬息を呑んだ。
会場は大爆笑。
「いいハンデだ!!」
「いやいやソレは無理ゲーだろ!」
――審判の声が響く。
――開始。
瞬間。アリスの背後から十18機のビットが展開した瞬間、空気が震えた。
光が空間を削ぎ、風圧だけで砂埃が舞う。
その姿は、まるで使徒を操る魔女のようだった。
「展開……速い!」シンの目が見開かれる。
次の瞬間、光束が奔る。
轟音と共にECOの体が吹き飛び、床を抉って転がった。
「ECOッ!」
『問題……ありません』
よろめきながら立ち上がるECO。
だがすぐさま、ビットが再び火を噴く。
ECOは身をひねって回避――しかし背後のビットが追尾し、光線が肩を撃ち抜いた。
「ぅ……!」ECOが苦鳴をあげる。
アリスは涼やかに笑う。
「反応は悪くない。でも――それだけじゃこの【魔女の檻】は破れないわ」
ECOは体全体を駆使し、必死に盾で身を守る。
光が弾け、衝撃がアリーナを揺らす。
煙の中から、なお立ち上がる影があった。
「アイツ…まだ……立てる」
その声に、会場からどよめきが起こる。
だが、ビットの猛攻は止まらない。
右から、左から、上下から。
一斉射撃、足払いのような斜線、射角を変えての三重攻撃――
ECOは一つ一つに反応しようとするが、処理が間に合わず遅れを突かれ吹き飛ばされる。
「ECO! くそ!全部に構うな!アリスに向って突撃だ!」
シンが喉を裂くように叫んだ。
『……了解』
シンは瞬時に高速重視の装備を切り替える。
捨て身タックル――だが、狙い澄ました一撃が脇腹を抉る。
「ぐっ……!」
観客が息を呑む。
「もろはいった!もう立てないだろ……!」
「さすがに無理だ!」
それでも、ECOは立ち上がった。
膝が震え、回路が赤熱し、煙が上がっても。
「大丈夫か!?……もう…やめるか?」
『……問題ありません。続行します。』
返答は震えていたが、その瞳だけは濁っていなかった。
アリスが小さく目を細める。
「――へぇ」
18機のビットが再編成され、最後の一斉照準を組む。
「じゃあ、これで終わりにしてあげる」
閃光。轟音。衝撃。後方からの砲撃に
ECOの体が大きく弾き飛ばされ――
そのまま、アリスの足元へと転がり込んだ。
静寂。
観客すら息を呑むその一瞬。
「終わったか?」
けれど、ボロボロになりながら、それでも片腕を伸ばす。
震える指先が、彼女のブーツに触れる。
「……やっと……近づけまし……た」
アリスは目を見開き、やがてしゃがみ込み、ECOの頭を優しく撫でた。
「……お疲れ様。意外だわ、あなたの勝ちよ」
掲示板には【WINNER:ECO】と表記された。
会場はざわついた。
「……え?」
「言ったでしょう? 一度でもダメージを与えたら、勝ちだって 」
アリスは柔らかく微笑む。
「気に入ったわ。あなた、ゴスロリが似合いそうね。今度、わたくしの家に遊びに来なさい。いいわよね、マスター?」
流水寺は満面の笑みで即答した。
「はいっ! 喜んで!! 何時でもお越しください!」
観客が大爆笑し、アリーナは拍手に包まれる。
アリスは立ち上がり、去り際にふと振り返った。
「……それと。ビットの使い方を教えてあげるわ」
その一言に、会場が再びざわめいた。
シンとECOは、汗と傷にまみれながら顔を上げ――
確かに聞いた。




