遅れた声
観客席には買い物帰りの人々が足を止め、ちらほらと集まっていた。
夕暮れの広場に設けられた簡易ステージ。観客たちは缶コーヒーを片手に、まるで余興を眺めるような気軽さで試合を待っている。
「今日の相手は誰だ?」
「中級プレイヤーのライメイだってよ。中距離の電撃系装備が得意らしい」
「へぇ……なら5秒だな。“ガラクタECO”が相手じゃな」
嘲笑が混じったざわめきは、シンの耳に嫌でも突き刺さる。
それでも彼は視線を逸らさなかった。ECOが静かに告げる。
「マスター、準備は整っています」
「……ああ。今日は絶対にクイックユニットを活かす。お前と一緒に、勝ちに行くんだ」
力強い言葉に、ECOの蒼い瞳が淡く揺れる。
__開始の合図。
雷鳴のごとき轟音。ライメイが雷を纏った長槍を突き出す。
青白い稲光が軌跡を描き、観客から歓声が上がる。
「おい、早速くるぞ!」
「このスピード……ガラクタに避けられるかよ!」
「いくぜ!ECO!」
シンの声と同時に、クイックユニットが稼働。――ガコンッ!
音を立てて巨大シールドが展開、雷槍を正面から受け止めた。火花が散り、床に焦げ跡が走る。
「ビックシールド!?」
「馬鹿な、あれ旧式じゃねぇか!」
「クイックユニットだ!まだ動くのかよ!?」
観客がどよめく中、シンは息を切らせながら次の指示を飛ばす。
「防御から切り替えだ――スピード重視に換装!」
ECOの装甲が一瞬でスライドし、重厚なシールドが消える。
代わりに駆動音が高鳴り、脚部が赤く点滅。
「ギュインッ!」
そのまま残像を残しながら間合いを詰め、短剣を閃かせた。
刃がライメイの肩をかすめ、青いスパークが飛び散る。
「いいぞECO! このまま畳み掛けるぜ!」
シンの叫びに、観客も息を呑む。
ライメイは舌打ちし、槍を旋回させる。
「チッ……だが、こっからだ!」
稲妻の弧がECOを薙ぎ払う。
観客席にまでビリリと電撃が走り、悲鳴が上がった。
シンは即座に判断する。
「もう一度シールドだ!換装――!」
ガコンッ。シールド展開。雷光が直撃する。
衝撃でECOの足がずるずると後退する。
「持ちこたえろーーッ!」
シンの声に応え、ECOは必死に踏み込み、シールドを押し返す。
観客から歓声が沸いた。
「おおおおっ! ガラクタが押し返したぞ!?」
「嘘だろ!? ……なんかすげぇ……!」
――だが。
その繰り返しの中で、わずかな“遅れ”が生じた。
換装の指示、盾へと切り替える__その1秒。
だが、戦場ではそれが致命傷だった。
ライメイの雷槍が死角から突き込まれる。
「しまっ――!」
ECOは反応するも、防御が間に合わない。
【機能停止】
無機質な電子音が響き、ECOは弾き飛ばされた。
床に転がる姿に、スマホ画面は赤く点滅する。
「勝敗は決した」
観客がざわつく。
「惜しかったな……」
「でも、確かに変わってきてる……ガラクタのくせに」
シンは駆け寄り、拳を握りしめる。
「…敗北です。マスター」
「……いいんだ。お前は間違ってなかった。足りなかったのは……」
ECOが首をかしげる。
その仕草に、シンの胸に熱いものがこみ上げる。
「__俺の判断力だ」
声を震わせながら吐き出す。
確かに前へ進んでいる。ECOも、自分も。
だが決定的に欠けているのは、自分自身の覚悟と判断。
観客のざわめきが遠ざかる。
シンは拳を強く握り、負けの痛みを心に刻んだ。
「次は……絶対に勝つ」




