埃まみれの景品
「いらっしゃい、みっちゃん」
「あら~? シュウちゃんとECOちゃんだけ? シンさんは買い出しかしら?」
シュウが少し言いづらそうに答えた。
「いえ……兄は、その、調子が悪いようで。いつものところに……あ、でも大丈夫です。仁さんが迎えに行きましたから」
みっちゃんさんはため息をつきながらも席についた。
「そう。……まったく、あの子ったら~。拗ねるとすぐ逃げる癖があるからねぇ」
ECOが小首をかしげる。
「なぜ、マスターは拗ねているのですか?」
みっちゃんがクスリと笑って肩をすくめた。
「う~ん……まぁ、それだけあなたを大事に思ってるってことよ。さて、熱燗ひとつとホッケの塩焼きもお願いね♡」
ECOは理解できずに首をかしげる。
「? 了解しました」
◆娯楽施設
――自動扉が開くと、外まで響く大音量。
煌々と光るパチ屋の島の中央で、シンは積み上げた箱に囲まれ、誰からも羨望の眼差しを向けられていた。
だがその顔は暗く沈み、誰も寄せつけない。
「よぉ、シンさん。出してんじゃねぇか。一箱もらうよ」
シンは横目で仁を確認し、再び画面に目を戻す。
仁はため息をつき、肩をすくめた。
「聞いたぜ。意地悪されたんだってな。……そりゃぁどれだけ出しても、楽しくねぇわな」
シンは拳で台を叩きつけた。
『やったねー大当たり!!』の音声が虚しく響く。
「……悔しいんだよ。努力を笑う奴らがいて、それに勝てない俺がいる……ECOとの価値観の壁にも…悔しかった……」
仁は視線を景品コーナーに向ける。
「そりゃぁ悔しいなぁ____なぁシンさん……。
道具ってのはな、最新のやつばかりが正義じゃねぇ。
誰も見向きもしねぇ、端っこの埃かぶったモンだってさ……見る人間次第じゃ宝になるんだ。
大切なのは“何を選ぶか”じゃなく、“選んだものをどう抱えて生きるか”だ。
拾ったもんでも、時代遅れでも……自分が大事だって思えば、それが宝になる。
……だからよ。バカどもが笑ってる価値観、俺たちでひっくり返してやろうぜ」
シンは息を呑み、仁の視線を追った。
ショーケースの隅――誰からも忘れ去られ、埃をかぶった古びた箱がぽつんと置かれていた。
シンはハッと息をのんだ。
仁さんの視線の先、ショーケースの隅。そこにあったのは、埃をかぶった古びた箱。
誰もが忘れ、色あせた存在。だが、その姿はどこか、今の自分たちと重なって見えた。
シンは、無言のまま歩き出す。
金属音と人々のざわめきに包まれながら、彼は静かに景品カウンターへ向かっていった。
◆居酒屋「深夜の世界」
その夜。
暖簾をくぐり、居酒屋に戻ったシンは大きく息を吸い込んだ。
「ECOーーッ!!!」
店の空気が一瞬止まる。
シンは皆の視線を浴びながら声を張り上げた。
「俺はお前を…日本一の御子にするッ!!」
突然の日本一宣言に周囲は唖然。
「……何を馬鹿なことを」
ECOが冷静に瞬きを返す。
シンはその言葉を遮るように、懐から小箱を取り出し、テーブルにドンと置いた。
パチンと木箱の留め金を外す音が、妙に大きく響く。
木箱の隙間には、古びた説明書の切れ端が挟まっていた。
色あせた印刷には「最新!クイックユニット!」と誇らしげな文字。
今では誰も見向きもしない換装パーツ。だがシンには、その鈍い光が眩しく見えた。
現れたのは――かつて流行した換装パーツ、クイックユニット。
埃を払われ、電球に反射して鈍く光るそれは、古びていながらも確かな存在感を放っていた。
「型落ちだろうがガラクタだろうが関係ねぇ。お前と俺なら活かせる。俺たちだけの戦い方を作るんだ!」
ECOの瞳がかすかに揺れる。
「……古い装備ですね。どう使っても勝てる保証はありません」
すると、居酒屋の隅から福ちゃんが声を上げた。
「おおっ、懐かしいのぉ! 一時期は皆コレばかり使っておったもんじゃぁ!」
みっちゃんさんも目を細める。
「そうそう、あの頃はいつ使うかハラハラしたものね♡」
資さんが笑いながら続ける。
「そうそう!だけどよ、いつしか“最初っからクライマックス”が流行りだしてよぉ…廃れていったよなぁ…懐かしいぜ」
シンは仲間の言葉を背に、力強く笑った。
「保証なんかいらねぇ! 俺は皆で勝ちたいんだ! 福ちゃんも、仁さんも、みっちゃんさんも、資さんも……この店の皆で__勝ちたいッ!」
沈黙が流れ、視線が交差する。
ECOはしばらく黙り込み、
「意味がよくわかりませんし、理解できません。ですが……いえ…私にもどう答えればいいのかわかりません」
その言葉には、かすかな迷いと、ほんの少しの熱が混じっていた。
■装備紹介:クイックユニット
◆ 名称:Quick Unit
◆ 分類:試合中装備可変・個人ユニット
◆ 形状:腕輪型ユニット(御子専用)
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■概要
“クイックユニット”とは、神楽創設期に広く使われていた換装ユニットで、試合中に武器・装備を切り替えられる可変機構。
本来、神楽とは“多様な状況への適応力”を楽しむ舞台であった。
敵の武器に合わせて、防具を変え戦術を変える。
それを可能にしたのが、このクイックユニットだ。
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■衰退の理由
だが、時代は変わった。
近年の主流は、最初から最高速・最大火力で瞬殺する“初手殺しスタイル”。
観客も、運営も、スポンサーも――
「派手で短い試合」を求めるようになった。
その結果、 クイックユニットを使いこなす“技巧派”は時代遅れとされ、今では使い手はほぼ絶滅。
> 「昔は当たり前に使われてたんだがな……」
――試合解説者・古橋
今となっては、
“使うだけで古臭く見える”という、気の毒なユニットになってしまった。
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■現在の評価
◆ 一般評価:★☆☆☆☆
◆ 専門家評価:★★★☆☆
観客はこう言う。
> 「最初から全力で行けよ!」
だが職人はこう言う。
> 「これを使いこなす奴は“本物”だ。」




