行儀の悪いやつ
夏の夕日、というには余りにも湿り気のない赤い日。 その赤は、まるで極彩色の上に粘度のない、まったくイライラするほど見にくい仕様だ。
なんの意図もなくスマホを取り出してみるが、すぐその無意識に気づき自分の人生を省みたくなる。
駅に住まう電車とやらは、この地域じゃ自分勝手で、約束の時間に合わせて来ることなどありゃしない。
私は電車の機嫌を伺いながら、ため息をついた。
―――
電車は来ない。永遠に。
永遠なんて私の中では、とうに過ぎている。
腹が立つ。ひどく。
この世で一番行儀の悪いものを挙げろと言ったら、少なくとも今の私は電車だと答えるだろう。
「はぁ……」
草木の匂いがした。
田舎特有の、クソの混じった自然の匂いだ。
私はこの匂いが嫌いだ。
こんな自然なんだ。人間の都合で都会にされるのも納得がいく。
もっとも、都会なんか行ったって私のような田舎者なんか相手にもされないだろう。
結局、私はこのまま生き死にを彷徨い、死んだ末には骨を肥料まみれの植物に養分とされる始末に違いない。
幻想か、はたまた現実か。
耳の奥に鉄の塊を放り込んだみたいな、鈍い音がした。
(来るのか……?)
と、内心期待しながら、どこか物寂しさを覚える。
このくだらない、いらいらする、でもどこか心地のいい思索が終わるのか。
レールの軋む音は一段と大きくなり、今は耳を透過して脳までに届いている。
今すぐにでもホームの端に寄り、音の正体を確かめたくなるが、なぜか動けない。
そうする内にも段々と電車の音は近くなり、私の中庸な思考を刺激する。
ホームの端が、遠い。
もはや空気の振動だけで分かる。
あの行儀の悪いやつがすぐさま顔を出すと。
私はまだ、座ったままだ。
(あぁ……)
あいつが顔を出した。
自らの慣性を、他者の勝手で殺し、その敷かれたレールに沿って、また去っていく。
それは、今まで待った永遠とは真逆の、刹那だった。
気まぐれな鉄の塊は1人で帰り、私もまた、1人になる。
刹那と一緒に、他者を手放しながら。




