表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/54

継皇后②

その日の夜。

若汐は月を眺めていた。夜は冷えると春海に言われたが、今日は暑い日だったので問題なかった。若汐は前皇后のことを思い出していた。


「三年、経ちましたよ。娘娘。」

「若汐様?」

「見ておりますか。私のことを知りましたか。」

「……。」

「もしそうなら、嬉しいです。貴女に最期まで言えなかった。ごめんなさい。」


月に居るだなんて若汐は思っていない。ただ、あの世というものがあるのなら自分の正体も知ったのではないだろうかとそう思ったのだ。

誰にも言えない秘密をあの世で知っている人が居る。それだけで若汐は救われていた。


「私はそちらには行けないでしょう。きっと。」


自分という架空の人物は。

その言葉はきちんと口を閉ざす。島野蒼という存在は若汐の中にしか居ない事は伏せる。


「だから、事の成り行きをどうか見届けてください。」


この若汐という女の結末を。



翌日。

皆が皇后の寝殿に集まった。

 皇后就任を祝う為である。若汐も無事に式典も終わり、権力争いも終わったのを見届けた為に地味めな色合いの服装を着て皇后が来るのを待っていた。

 やがて真っ赤な服を着た皇后がやってきた。普段の皇后にしてはとても豪華な衣装だった。

 正妻となったのだ。序列を示すためでもあるのだろう。若汐は位が高いと面倒なことが多いんだな考えた。

皆が立ち上がる。そして挨拶をする。


「皇后娘娘にご挨拶致します。」

「楽に、座って。」


 皇后と若汐は視線が合った。弓形に形を変えた目は、久しぶりね。と語っていた。若汐は少し驚いたが、目礼で応対した。

 目立つわけにはいかない、そう咄嗟に考えたからだ。上手く出来ただろうか、反応を見ると嬉しそうにこちらを一瞬見ていたため伝わったのだと若汐は安心した。

 それから皇后への祝いと挨拶は滞ることなく行われた。

 雰囲気はそこまで悪くなかった。若汐は上位の妃嬪達の反応を正直警戒していたが、問題なかった。彼女はホッと胸を撫で下ろした。

 無事に挨拶を終えたのち、皇后の寝殿からそのまま真っ直ぐ自分の寝殿へと若汐は戻った。

 皇后に呼び止められそうになる前に退散。

 雰囲気は表面上は悪くなかったものの、裏では何があるかなど分かったものではない。

 世の中、知らないままの方がいいことの方が多い。これはその一つだ。若汐はそう考えていた。

 それから幾日も経った日のことの話。乾隆帝から若汐は呼び出されていた。内容は全くの不明。なんだろう、という疑問ばかりが膨れあがった。


「陛下と皇后娘娘にご挨拶致します。」

「楽にせよ。」

「感謝致します。」


養心殿には皇后も来ていた。何か話していたのだろう。二人の邪魔をするつもりは全くもってないのだが。

出来れば、自分に接してくるのは皇后と愉妃だけにしてほしい。

 もう2度と関わらなくていい。それくらい嫌な気持ちになっていた。

 皇帝と関わるとそれだけで目の敵にされる事があるのだ。それを権力争いを見てきた若汐は嫌というほど思い知らされた。

そんなことを思いながらも臣下として内容を告げられるのを若汐は待っていた。


「朕の息子や娘に音楽を教えているのはそなただそうだな。」

「左様でございます。」

「なら、朕に教えることも出来るか?」

「はい。ご命令とあらば。」


(いや待て。この皇帝、今私になんて言った!?)


反射的に返事をしてしまった若汐。

 内面は焦っていた。なんで返事をしてしまったのかと。

確かに教えることは可能だ。だが、皇帝も初心者。かつプライドが高い人間だ。

 そういう人間に物事を教えるというのはどの時代でも難しいものだ。

 それだけではない。父親として、皇子や公主に伝えたとしても恥ずかしくない選曲にする必要があった。若汐は考える。

 きっと皇后が自分のことを伝えたのだろうなと。だって、皇帝に自分が音楽を教えいてることは告げたことは一度もないのだから。

 考えを戻し、若汐は再び音楽の思考に耽る。皇子にも公主にもまだ教えていない曲にする必要があった。


「少しお時間を頂けますか。」

「そなたにしては珍しいな。」

「珍しい話ではございません。皇子や公主に是非お尋ねくださいませ。時間をかけて楽器や曲を選んだと口を揃えて言うはずです。」

「そうか。分かった。楽しみにしていよう。」

「御意。」


 前皇后の時に励ましてもらったことは感謝しているが、あまり皇帝に近づきたくないと若汐は思っている。

 妃嬪達の目が怖いのだ。関わりたくないと思うのは当然の摂理だった。

 だが、こうして命令されてしまっては仕方がない。一肌脱ぐか、と若汐は覚悟を決めて養心殿を去った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ