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清朝の時代へ②

再び展示物に目を移してしていると島野は不思議な絵画を見つけた。

 円明園(えんめいえん)で女官と思わしき服装の女性がピアノを弾いているのである。

円明園とは紫禁城の離宮の事を言う。

 西洋建築が盛んに行われていたが、アロー戦争で破壊されてしまった。

 その為にほとんど残されていない。分かっていることは西洋文化が盛んに取り入れられていたということだけ。

今は重点保護文化財として一部復元されている。


(おかしい。女官…奴婢、だよね。奴婢がピアノを弾けるはずがない。そもそもこの肖像画自体がおかしい。)


 その絵を描いたのはジュゼッペ・カスティリオーネ、郎世寧(ろうせいねい)が描いたものだった。

郎世寧とは3代の皇帝に仕えた実在したイタリア人宮廷画家である。

 康熙帝(こうきてい)雍正帝(ようせいてい)、乾隆帝と3人の皇帝に仕えた。

絵画はこのように描かれている。

 建設途中の噴水の近くにグランドピアノと思わしき楽器が置かれており、女官がピアノを弾いているのだ。

 東屋でその女官はピアノを弾いている。

女官の姿が小さく、詳しく見ることはできないが姿勢と手の位置、ペダルの踏み位置、これらを視界の限界まで見る限り自分と同じプロだとすぐに島野は把握できた。


(どうして…?何故誰もこの絵のおかしさに気が付かないの…?)


 止めとばかりに絵の下の展示物を見ると、グランドピアノの足の一部が置かれていた。

 戦争で破壊された物の一部なのであろう。

だがどう見ても現代のピアノに近いグランドピアノの一部であった。

それをピアニストである島野は見逃さなかった。

嘘でしょ、と彼女は思わず口を覆ってしまう。


──まるでその女官が実際に弾いていたピアノの一部だとでも言わんばかりにそこに置かれていたのだから。


異常な光景に呆然と立ち尽くす。

目線だけはピアノの一部に釘付けになっていた。

 すると突然、ピアノの一部と絵が同時に強く光り出したのである。

眩しいと思わず腕で顔を覆う。

それはまるで島野を囲い込むかのようで強い光は止まらなかった。

 体感時間にして5分ほどだろうか。

恐る恐る島野は目を開いた。

すると──。


(う、そでしょ…?)


目の前に居たのは清朝の文官等が着ていた青い朝服を着ている人間。

傘のような形をした赤色の帽子を彼は被っていた。

瞳の色は碧眼。

白人独特の乳白色の肌色。


(この服装で東洋人でないとすると該当人物は1人しかいない…。)


「えっと、大丈夫デスカ?」


カタコトの言葉で話しかけてきた人物── 郎世寧がそこには居た。


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