表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2章完結】レイドボスAIは恋をした ― 最強剣姫と挑むVRMMO生存戦争  作者: YY
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/66

第32話 限定同盟

 アリエッタと同じく二刀流になっていたが、フレンはすぐにエクスカリバーを鞘に納める。

 どう言うつもりかと思ったガルフォードは警戒し、次の瞬間には目を見開いた。

 彼の視線の先にあったのは、通常よりも速く回復して行くフレンのHPゲージ。

 何度目かの舌打ちをしたガルフォードは、鬱陶しそうに声を発する。


「鷺沼の奴、こんな強化にしたのかよ。 これなら、適当に火力を上げてる方が楽だったぜ」

「アーサー王伝説に登場するエクスカリバーを思えば、回復能力を強化するのは妥当だ。 そう言う意味では、鷺沼を評価している」

「そうかよ。 つっても、ラグナロクと違って復活出来る訳じゃねぇだろ? だったら回復が間に合わないくらい、斬り刻んでやるよ!」


 本気になったガルフォードが、無数の次元斬を繰り出した。

 それを受けたフレンのHPゲージは、またしても危険な領域まで削られたが、彼は焦っていない。

 何故なら――


「ラグナロクの弱点を教えてやろう」

「あぁ?」

「それは、一撃の威力自体は高くないことだ。 空間を斬る力は強力だが、手数で押すタイプ。 要するに、敵を倒すにはある程度攻撃を当てる必要がある」

「だから何だってんだ? 結局テメェは、斬り刻まれるしか……」


 そこまで言って、ガルフォードは気付いた。

 斬撃を当てていたフレンのHPゲージの減り方が、徐々に少なくなっていることに。

 いや、現実には違う。

 攻撃を加えるごとに、HPの回復量が増えているのだ。

 それが意味することを察したガルフォードは、腹立たしそうに声を漏らす。


「ダメージを受けるごとに、HP回復量が増える……ってところか?」

「そう言うことだ。 増加量に上限はあるが、もう充分だろう」

「ちッ! 舐めんなよ、フレン。 いくら回復量が増えようが、完全にラグナロクの連撃を上回ることは……!?」


 ガルフォードは、最後まで言葉を言い切ることが出来なかった。

 フレンが防御を無視して、突っ込んで来たからだ

 ガルフォードは押し返そうとしたが、間合いまで踏み込んだフレンは、クラウソラスを両手で振り下ろす。

 対するガルフォードはラグナロクでガードしたものの、その間は斬撃の嵐が止んでしまった。

 いくらラグナロクが、武器を振るわずに次元斬を放てるとは言え、プレイヤーが別の意志を持っていれば発動しない。

 攻めることでガルフォードにガードを強要させ、攻撃の手を止めたフレンは、その間にHP回復を図る。

 どんどん回復する彼のHPゲージを見て、舌打ちしたガルフォードは、再び斬撃の雨を降らせようとしたが――


「させるか!」

「……!? ちぃッ!」


 防御や回避を捨てたフレンの猛攻。

 それでもガルフォードは被弾を許さなかったが、ますますフレンのHPは回復して行く。

 このままでは不味いと腹を括ったガルフォードは、リスクを承知で攻勢に転じた。

 フレンの攻撃をある程度甘んじて受け、その代わりに直接攻撃と次元斬の両方を確実に当てる。

 それによってエクスカリバーの回復力を上回り、徐々にフレンのHPゲージを減らして行った。

 ところが、その代償は大きい。


「おぉッ!」

「ぐッ! くそが……!」


 フレンの斬り上げがガルフォードに大ダメージを与え、2回目の復活能力を使わせる。

 これでガルフォードもあとがないが、フレンのHPゲージも3割近くまでになっていた。

 それでも、現状押しているのはフレン。

 認めざるを得ないガルフォードは、悔しそうに口を開いた。


「やるじゃねぇか、青二才。 まさか、ここまでとは思ってなかったぜ」

「話している時間があるのか? 今この瞬間も、僕のHPは回復しているんだぞ?」

「別に構わねぇよ。 こうなった以上、手段は選んでいられねぇからな」

「……何をするつもりだ?」


 フレンの問い掛けにガルフォードは答えず、ニヤリと笑ってウィンドウを開いた。

 それが何を意味するのかわからないフレンは、眉根を寄せていたが、次の瞬間には瞠目することになる。


「鷺沼、手を貸せ」

『ガルフォード!? 何がどうなっている!?』

「あとで説明してやるから、ラグナロクを更に強化しろ。 没にした案があったろ? あれで良い」

『ば、馬鹿な!? アップデート権は使い切った! そんなことをすれば……』

「良いからやれ。 俺が落ちたら、どうせSCOは終わりだ。 逆に俺さえ生き残っていれば、あとのことはなんとかしてやる」

『し、しかし……』

「良いからやれ! 時間がねぇんだよ!」

『ぐ! くそッ!』


 このとき、鷺沼は冷静ではなかった。

 もし冷静であれば、いくらなんでもルール違反をしてまで、強化を施そうとはしなかったはず。

 そんな2人を眺めていたフレンは、平坦な声で告げた。


「本当に、貴様たちは救いようがないな」

「何とでも言えよ。 最後に立ってた奴が、勝者なんだからな」

「強化の内容には察しが付いている。 どうせ、復活能力の回数追加と言ったところだろう?」

「……ふん、その通りだ。 ここまで追い詰められるのは想定していなかったから、攻撃の方に割り振ったんだがな。 こんなことなら、最初から復活回数を増やしておけば良かったぜ」


 ニヤニヤと笑ったガルフォード。

 今度こそ、自身の勝利を疑っていない。

 事実として、フレンがラグナロクの復活能力を全て使い切らせるよりも、攻撃に集中したガルフォードがフレンを仕留める方が早いだろう。

 そのことを正確に認識しつつ、フレンは大きく溜息をついた。

 どうしたのかとガルフォードが不思議に思っていると、彼は嘆かわしそうに言い放つ。


「残念だ。 所詮は貴様も、『レジェンドソード』に溺れたプレイヤーに過ぎなかったと言う訳か」

「何だと……?」

「僕は貴様が嫌いだが、実力は認めていた。 しかし、ラグナロクの強化を受けた辺りから、貴様は弱くなった。 はっきり言って、以前の方が手強かったぞ」

「……はッ! 何を言うかと思えば。 前の方が強いなんて、ある訳ねぇだろ」

「確かに、戦闘力は上がった。 だが、以前の貴様から感じていた鬼気迫るものが、完全に失せている。 これが第一星のなれの果てかと思うと、悲しくなるな」

「……うるせぇ。 いくら言葉を並べ立てようが、テメェが負けることは決まってんだよ。 そのあと、アリエッタも仲良く落としてやる」

「そうは行かない。 仮に僕が倒れるとしても、最低限復活能力は全て使い切らせてやる。 そうすれば、アリエッタちゃんなら負けない」

「ちッ……このウザさ、ロラン以上かもしれねぇな。 おい鷺沼、まだか?」

『む、無茶を言うな! いきなり言われて、そう簡単に終わる訳がないだろう!』

「使えねぇな。 おいフレン、取引しねぇか?」

「取引だと?」

「そうだ。 この強化をしちまえば、GENESISどもに目を付けられるかもしれねぇ。 そうなれば、SCOは最悪サービス終了に追い込まれる。 だが、お前が退くってんなら、俺はこの強化を中断してやるぜ?」

「……SCOを盾に取ると言うのか」

「どう捉えるのもテメェの勝手だが、俺は自分が落ちるくらいならSCOも巻き添えにするつもりだ。 それでも良いのかよ?」


 邪悪に笑ったガルフォードの言葉に、フレンは揺れた。

 ガルフォードを倒す為にここまで来たが、SCO自体を危険に曝しては意味はない。

 そう考えたフレンは、断腸の思いで刃を引こうとする。

 それを察したガルフォードは、笑みを深めたが――


「諦めるな」

「な……!?」


 横合いから飛来した真空刃が、ガルフォードの腕を斬り裂いた。

 突然の乱入者にフレンたちは驚いていたが、当人は平然として告げる。


「ラグナロクの強化には、もう少し掛かるはずだ。 その前にこいつを倒す」

「雪夜くん!? キミがどうしてここに!?」

「そんなことを言っている場合か。 良いから、行くぞ」

「……わかった、援護を頼む」

「任せろ」


 乱入者こと雪夜が鞘に手を掛け、フレンがクラウソラスを構える。

 2人を前にしてガルフォードは憎々し気な顔になっていたが、次いで強気な笑みに変わった。


「くく、CBOからわざわざやって来たのかよ? ご苦労なこ――」

「無駄話に付き合うつもりはない」

「……!? この……!」


 ガルフォードの言葉を遮って、【瞬影】で斬り掛かる雪夜。

 辛うじてガードに成功したが、そのときには背後を取っていたフレンが、クラウソラスを振り下ろす。

 反射的に前方に身を投げたガルフォードの背中を浅く斬り裂き、僅かにHPゲージを削り取った。

 舌打ちしながら、ガルフォードは立ち上がったが――


「これが第一星か。 期待外れだな」

「ぐ……舐めんじゃねぇぞ!」


 起き上がりを狙っていた雪夜の【閃裂】が、逆袈裟に斬り上げる。

 大きなダメージを受けたガルフォードは、最早脱落寸前。

 それでも諦めなかった彼は、大きく後方に跳びながら、多数の次元斬を雪夜に放った。

 いくら彼でも、初見で全てを避け切ることは出来ず、何発か受けてしまう。

 しかし、仕留める気だったガルフォードは悔しそうに顔を歪め、再び雪夜を狙った。

 だが、それはあまりにも浅はかな行動。


「舐めているのはどちらだ?」

「な!?」


 1度目で完璧にタイミングを掴んだ雪夜が、【瞬影】で回避しながらガルフォードに『無命』を一閃。

 更に脱落への道を進んだガルフォードは、流石に焦りを隠せず叫んだ。


「鷺沼! 早くしやがれ!」

『も、もう少しだ! これが終われば……!』


 必死なガルフォードに鷺沼は答えたが、雪夜は淡々と告げる。


「やめておけ、運営。 無駄になるぞ」

「あ? 何を言ってやが……」


 ガルフォードの言葉が途切れる。

 目を見開いた先に立っていたのは、エクスカリバーに力をチャージしたフレン。

 咄嗟にガルフォードは何かを言おうとしたが、全てが遅過ぎた。


「はぁぁぁッ!!!」


 全力で振り下ろされた黄金の剣から、光の刃が放たれる。

 飲み込まれたガルフォードは、強化を受ける前に戦闘不能となり――脱落した。

 それを確認したフレンは大きく溜息をついて、武器を鞘に納める。

 同時に、雪夜に振り向いて話し掛けようとしたが、そこに駆け寄る者がいた。


「フレン様! セツに……雪夜くん! 大丈夫!?」

「アリエッタちゃん……僕はなんとか大丈夫だよ。 彼のお陰で、ガルフォードは倒せた」

「俺は少し手を貸したに過ぎない。 ガルフォードを倒したのは、間違いなくフレンだ」

「……有難う。 それはそうと、どうしてキミがここにいるんだ? 外はどうなっている?」


 フレンとしては、ずっと気になっていることだった。

 アリエッタも疑問に思っているようだったので、雪夜は勿体付けることもなく事実を明かす。


「キミたちの配下を名乗るプレイヤーたちが、応援に駆け付けてくれた。 ここは引き受けるから、キミたちを手伝ってくれと頼まれてな」

「そうだったんだ……。 あれ? でも、それじゃあ防衛は?」

「何でも、他のSCOプレイヤーが協力してくれたそうだぞ、アリエッタ。 要するに、ガルフォードを快く思っていなかったのは、キミたちだけじゃないってことだ」

「なるほど……。 それにしても、驚いた。 まさか、CBOプレイヤーのキミが助力してくれるとは」

「本当は、最後は手を出すつもりはなかったんだ。 だが、ガルフォードが無理を通そうとしていたからな、悪いが止めさせてもらった」

「それは良いんだが……。 どうしてキミが、そこまでSCOのことを考えてくれるんだ? 違反をさせて、SCOがGENESISから制裁された方が、都合が良いんじゃないのか?」


 フレンの真っ直ぐな眼差しを、雪夜は正面から受け止め、チラリとアリエッタを見てから言い放った。


「アリエッタを見捨てられなかった。 それだけだ」

「……! セツ兄……」

「その名で呼ぶな」

「ご、ごめん……えへへ……」

「まったく……」


 謝罪しつつ、頬を弛緩させているアリエッタ。

 そんな彼女に雪夜は呆れつつ、フレンに向き直って言葉を連ねる。


「フレン、提案がある」

「提案? 何だ?」

「CBOとSCOで、同盟を結ばないか?」

「同盟……?」

「そうだ、アリエッタ。 今回のことで、SCOは大きなダメージを受けた。 そこを狙われる可能性は否定出来ない。 違うか、フレン?」

「……その通りだ」

「そして俺たちも、いつ狙われるかわからない立場だ。 だからこそ同盟を結んで、互いに有事の際は助け合わないか?」

「わぁ! 凄く良いと思う! フレン様、そうしましょうよ!」


 雪夜の案に対して、アリエッタは喜色満面になった。

 しかし、フレンは即答することなく、おとがいに手を当てて考え込んでいる。

 その様子をアリエッタは固唾を飲んで見守り、雪夜は静かに待ち続けた。

 それから時計の秒針が1回転する頃になって、答えを出したフレンが声を発する。


「いくつが条件がある」

「聞こう」

「まず、あくまでも僕たちはSCOを守ることを優先する。 仮にSCOとCBOが同時に狙われたら、手を貸せないと思う」

「それは当然だな。 俺たちもそうなるだろう」

「もう1つは、限定的な同盟にして欲しいことだ」

「限定的?」

「そうだ。 僕たちは、他のSCOプレイヤーに強要しない。 だから、同盟を結ぶなら個人的な範囲に留めたいんだ」

「……良いだろう。 俺も、全CBOプレイヤーを纏められる訳じゃない。 いや、ほとんど俺の言うことなんか聞かないだろう。 ただ、主力と言えるプレイヤーに、話を通すことは出来るかもしれない」

「そうなると、同盟と言うよりは協力関係と言ったところか」

「あぁ。 だが、互いの主力が協力出来るなら、大抵の脅威には対応出来ると思う」

「そうだな……。 少なくとも、今のSCOにとっては助かる話だ」

「俺たちとしても、心強い。 最終的には敵対するとしても、それまではよろしく頼む」

「わかった。 こちらこそ、よろしく」


 そう言って、笑顔で手を差し出したフレン。

 一方の雪夜も薄く笑みを浮かべ、彼の手を取った。

 アリエッタは満面の笑みを浮かべて、嬉しそうにしている。

 こうしてフレンとアリエッタはガルフォードを討ち、雪夜と密かに協力関係を築くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ