第31話 陽剣×光剣
ゲンスとロウリは、『レジェンドソード』を与えられ、浮かれていた。
自分たちは、ガルフォードに認められたのだと。
実際は、実力よりも従順度を重視された訳だが。
それでも、レーヴァテインとティルヴィングは強力で、七剣星となってからは負けなし。
だからこそ、フレンやアリエッタと敵対しても、渡り合えると考えていた。
ところが――
「イヴさん……使わせてもらいます」
静かに瞑目して、呟いたアリエッタ。
右手にはジュワユーズ、左手にはフラガラッハ、そして周囲には――8本の光剣が浮いている。
5本から8本に増えた光剣。
シンプルではあるが、大きな強化だ。
そんな彼女を前に、ゲンスとロウリは動けない。
本音を言えば逃げたいが、ガルフォードの手前、それは不可能。
だからと言って、今のアリエッタに挑めるほど、彼らの志は高くなかった。
結果として立ち止まっている2人に、アリエッタは鋭い視線を向ける。
そして、極めて真剣な声音で告げた。
「悪いけど、すぐに終わらせるよ。 覚悟してね」
悠然と構えるアリエッタに、ゲンスとロウリは返事すら出来ない。
そのことに頓着せず、彼女は駆け出す。
ジュワユーズの能力を発揮しており、やはり凄まじいスピード。
狙うは、ティルヴィングの持ち主。
迫り来るアリエッタに表情を引きつらせつつ、ロウリはなんとか迎撃しようとした。
しかし――
「行って!」
「ぐぁ!?」
アリエッタが放った光剣が、ロウリに殺到する。
ティルヴィングを駆使して、数本は弾き返すことに成功したが、全てを凌ぐことは出来ない。
両腕と両脚を穿たれ、HPゲージが大きく削られた。
そのことに焦ったロウリは、とにかく逃げようとバックステップしたが、それはアリエッタの予想通りの行動。
「やぁッ!」
「な!?」
待ち構えていたアリエッタが、ジュワユーズとフラガラッハを交差するように繰り出す。
背中を十字に斬り裂かれたロウリは更にHPを減少させ、反射的にアリエッタに振り向いた。
この行動が間違っているとは断言出来ないが、少なくとも最善ではない。
何故なら今の彼女には、多角的な攻撃が可能だからだ。
「がら空きだよ!」
「が!?」
背後から飛来した光剣が、ロウリの背中に突き立つ。
圧倒的な戦いを見せているアリエッタだが、決して気を緩めてはいない。
片手剣であるジュワユーズと、細剣であるフラガラッハは同時に装備出来るが、アリエッタの双剣の技量はまだまだ途上。
訓練を始めたのが最近なので、致し方ないところだ。
それ以上に問題なのは、ジュワユーズとフラガラッハを同時に制御するのは、意外と難しい。
特に慣れないフラガラッハを上手く操るのは、彼女であっても至難。
考えることが多く、常に頭をフル回転させなければならなかった。
精神的な消耗が激しく、そう言う意味でもアリエッタは、早期決着を望んでいる。
そうして、柳眉を逆立てたアリエッタは、ジュワユーズを一閃させた。
それによってロウリはあっさりと脱落し、残りはゲンス。
この間、彼は手を出すことが出来ず、硬直していた。
これが本当に七剣星かと、アリエッタは溜息をついたが、今回に限っては助かると思っている。
左手のフラガラッハを、ゲンスに真っ直ぐに突き付けて、はっきりと言い放った。
「次はキミだよ」
「……!? こ、この、来るんじゃねぇよ!」
恥も外聞もなく叫びながら、レーヴァテインを振り下ろすゲンス。
ロウリがいなくなったことで、全力を出すことが出来て、辺り一面を獄炎が焼き尽くした。
それを見たゲンスはアリエッタを仕留めたと考え、歪な笑みを浮かべたが、言うまでもなくそうは行かない。
「雑にもほどがあるね」
「ぐは!?」
高く跳躍したアリエッタが、ゲンスの頭上から光剣を放つ。
8本全てをまともに喰らった彼のHPゲージが、ごっそりと削れた。
しかし、アリエッタの体は今、空中にある。
血走った目で上を見たゲンスは、逃げ場のない彼女に向かって、レーヴァテインを振り切ろうとして――
「遅いよ!」
天井に足を着けたアリエッタが、ゲンスに向かって跳び掛かった。
瞠目したゲンスは慌ててガードしようとしたが、ジュワユーズの効果によって加速しているアリエッタには追い付けない。
すれ違うようにして着地しながら、ゲンスを斬り裂くアリエッタ。
この時点でゲンスのHPゲージは危険域に達しており、泣きそうになりながら彼は何事を言おうとしていたが、アリエッタが容赦することはない。
「これで……終わり!」
フラガラッハを突き出すと同時に、全周囲から光剣を射出する。
滅多刺しにされたゲンスは脱落し、あとにはアリエッタだけが残された。
文句なしの感傷ではあったものの、彼女の額にはびっしりと汗が浮かび、肩で息をしている。
それほど、見た目以上に苦労していたと言うことだ。
とは言え、無傷で2人を処理出来たのは、上々の戦果だと言える。
大きく深呼吸したアリエッタは、意識を切り替え――思わぬ展開が待ち受けていた。




