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【第2章完結】レイドボスAIは恋をした ― 最強剣姫と挑むVRMMO生存戦争  作者: YY
第2章

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第30話 受け継がれたもの

 フレンがガルフォードに喰らい付いていた頃、アリエッタはゲンスとロウリを手玉に取っていた。


「ほらほら、こっちだよ!」

「くそ!」

「待ちやがれ!」


 なるべくフレンたちから離れた場所に2人を誘導し、決して邪魔させないようにしている。

 その上で、レーヴァテインとティルヴィングを相手にしているのだから、やはり彼女も群を抜いた実力者。

 盾を使っていないことには訳があるのだが、副次効果として移動速度が上がると言う恩恵もあった。

 もっとも、余裕などない。

 2本の『レジェンドソード』を同時に捌くのは、アリエッタにとっても重労働。

 勝気な笑みの裏で、背中にびっしょりと汗をかいていた。

 それでも彼女が優位に立てているのには、いくつかの理由がある。


「おらぁッ!」

「おっと! 危ない危ない。 けど、当たんないよー」

「舐めやがって……!」


 ゲンスが放った獄炎を、サイドステップで華麗に回避するアリエッタ。

 ジュワユーズの能力で上がった速度が、大きな力になっているだけではなく、ゲンス自身の実力が問題だ。

 レーヴァテインを使うようになって間もない彼は、アルドほど使いこなせてはいない。

 広範囲に高火力の攻撃が可能なレーヴァテインだが、味方を巻き込む恐れがあると言う欠点を持つ。

 しかし、アルドなら威力を落とさず範囲を変更出来ていたのが、ゲンスは威力そのものを落とすことでしか、範囲を抑えることが出来ない。

 そのことがアリエッタに有利に働き、避けるゆとりが生まれていた。

 更に、もう1人の実力も、残念ながら武器に追い付いているとは言えない。


「ちょこまか逃げやがって!」

「ふーんだ。 悔しかったら、追い付いてみたら?」

「この野郎!」


 レーヴァテインに輪を掛けて、ティルヴィングは使用者の実力がものを言う。

 カインはそう言う意味では、彼なりにティルヴィングを使いこなそうとしていた。

 だが、ただ『レジェンドソード』を与えられただけのロウリは、様々なことが足りていない。

 たとえば、双剣使いとしての技量。

 元々彼は大剣使いであり、双剣には全くと言って良いほど順応出来ていなかった。

 そしてビルド。

 大剣使いだった為に、ロウリのビルドはパワー寄りで、ティルヴィングの適正であるスピードが不足している。

 そんな状態でも並のプレイヤーなら問題なかったが、アリエッタは並ではない。

 ジュワユーズの機動力に付いて行くことが出来ず、延々と追い掛けっこが続いていた。

 それが可能なのも、アリエッタがゲンスとロウリの位置を正確に把握して、上手く立ち回っているからではあるが。

 付け加えるなら、2人の連携が拙いことも一因。

 アルドとカインは現実でも親しい仲だけあって、息の合った動きが可能だったが、ゲンスとロウリは最近まで互いに存在すら知らなかった。

 そんな相手と意思疎通するなど、土台無理な話。

 ガルフォードは『レジェンドソード』さえあれば、使い手が誰でも大差ないと考えているが、実際には強者を相手にするほどその差が出る。

 こうした要素が絡まり合い、アリエッタは思うように戦えているものの、本当なら反撃したいところ。

 打ち合わせでは、今のようにアリエッタがゲンスとロウリを引き付け、フレンがガルフォードを仕留める予定だった。

 ところが、先ほど戦況を窺ったところ、はっきり言ってフレンは押されている。

 このままではジュワユーズの制限時間が来て、ゲンスたちを抑え切れなくなるかもしれない。

 いや、それ以前に、フレンがガルフォードに敗北する可能性すらあった。

 焦ったアリエッタは乱戦に持ち込んででも、フレンと一緒にガルフォードを狙うべきかと考え始めたが――


「……違う、そうじゃないよね」


 ゲンスの獄炎を跳躍して避けながら、ポツリと呟く。

 雪夜との決闘を経て成長した彼女は、焦る心を落ち着かせ、自分に言い聞かせた。

 まだ自分たちには、切り札が残されている。

 出来ることなら使わずに勝ちたかったが、こうなったからにはやるしかない。

 深呼吸して覚悟を決めたアリエッタは、フレンに呼び掛けようとしたが、考えていることは同じだった。


「アリエッタちゃん、やるよ」

「……! はい、フレン様!」


 ガルフォードの次元斬から必死に逃れていたフレンが、決意を込めた声でアリエッタに言い放つ。

 それを受けた彼女は破願し、2人が同時にウィンドウを開いた。

 その様をガルフォードたちは、怪訝そうに見やっていたが――


「……!? テメェら、まさか!?」


 あることに気付いたガルフォードが、叫喚を上げてフレンに次元斬を放とうとした。

 しかし、僅かに遅い。

 準備を終えたフレンの左手に黄金の剣が、アリエッタの左手には白い細剣が、それぞれ装備される。

 そう、紛うことなきエクスカリバーとフラガラッハ。

 信じられない光景にゲンスとロウリは愕然としており、ガルフォードは忌々しそうに表情を歪めていた。

 そんな彼らに比してフレンたちは落ち着いており、想いを語る。


「これは、ロランさんとイヴさんが、僕たちに託したものだ。 受け取った以上、責任は果たす」

「本当はSCOを守る為だけに使いたかったけど、ここで負ける訳には行かないからね!」

「ちッ! 奴らがエクスカリバーとフラガラッハをどこに隠したかと思ってたが、まさか時限式のプレゼントを利用したとはな」

「そう言うことだ、ガルフォード。 僕たちも驚いたが、彼らにはお前の考えなどお見通しだったらしい」


 時限式のプレゼント。

 これは本来、プレイヤー間でサプライズを行いたい場合などに利用されるシステムで、指定した日時にアイテムを譲渡出来る。

 ガルフォードの策略に勘付いていたロランたちは、エクスカリバーとフラガラッハをプレゼントに設定して保管し、THOへは別の武器で乗り込んだのだ。

 その結果として脱落したものの、最悪の事態は免れ、こうしてフレンたちに受け継がれている。

 状況を把握したガルフォードは舌打ちし、苛立った様子で吐き捨てた。


「くそったれ。 だが、関係ねぇよ。 ここでテメェらを始末すれば、結局手に入るんだからな」

「そうはさせないよ! 勝つのは、あたしたちなんだから! フレン様、行きましょう!」

「うん、アリエッタちゃん。 ガルフォード、今度こそお前を倒す。 この聖剣に誓ってな」

「あー、メンドクセェ。 ロランとイヴめ、マジで余計なことしやがって。 ゲンス、ロウリ、小娘相手にいつまで遊んでやがる。 サッサと落として手伝いやがれ」

「は、はい!」

「す、すぐに倒します!」


 ガルフォードに一喝されたゲンスとロウリだが、完全に腰が引けていた。

 ジュワユーズだけでも手強かったアリエッタが、フラガラッハまで持ったのだから当然と言えば当然。

 援護は期待出来ないと悟ったガルフォードは、またしても舌打ちしたが、諦めた訳ではない。

 エクスカリバーも装備したフレンは脅威だが、2度の強化を施されたラグナロクなら太刀打ち出来ると考えている。

 そうして、完全本気モードになったガルフォードに、全ての手札を明かしたフレンとアリエッタが挑むのだった。

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