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第23話 アンリミテッド開幕――「延長」と「罠」とEGOISTS

 そして数日後。

 第2回、GENESISクエスト開始日がやって来た。

 新たに判明した条件としては、同じものもあれば変わっているものもある。

 何度でも受注可能だが、クエスト中に戦闘不能になれば、脱落となるので注意。

 複数パーティへの参加は不可。

 期間は3日で、その間は他のタイトルに侵攻不能。

 前回と違って、早期クリア報酬はない。

 また、期間の途中で参加を打ち切ることも、ないようだ。

 ただし、スコア下位5%のパーティは脱落。

 そして何より――


「まさか、アップデート権利1回なんて報酬があるとはなぁ」

「ホントだよね、ゼロさん。 これは是が非でも、トップを取らないと!」

「確かに魅力的な報酬ではありますが、優先するべきは生存です。 Aliceさん、スコアを意識し過ぎて回復を怠らないように、気を付けて下さい」

「わかってるよ、ケーキちゃん! 心配してくれて、有難う~!」

「……戦力が減るのが困るだけです」


 夕焼けに彩られる、CBOの拠点である町。

 笑顔のAliceに礼を言われたケーキは、顔を赤くしてプイっとそっぽを向いた。

 そんな彼女に、Aliceとゼロは顔を見合わせて苦笑している。

 一方の雪夜も微笑ましく思いながら、彼らの会話を脳内で反芻した。

 アップデート権利1回。

 これを得ることが出来れば、使い方によってはかなり有利になる。

 とは言え、この報酬を与えられるのは、スコアトップのパーティが所属するタイトルのみ。

 途轍もなく競争率が高いのは、言うまでもないだろう。

 それゆえに雪夜は、ケーキと同じく無理をしない方針ではあるが、別の思惑もあった。


「ケーキの言う通り、安全が最優先だ。 ただし、その範囲で最高のスコアを目指すぞ」

「お、雪夜やる気だな。 やっぱ、アップデート権が欲しいか?」

「それもあるが、根本的には違う。 俺は、このクエストを楽しみたいだけだ、ゼロ」

「あはは! 流石は雪夜くんだね~! どんなときでもゲームを楽しもうって姿勢、良いと思うな!」

「そうですね、Aliceさん。 わたしも雪夜さんには、常に戦いを楽しんで欲しいと思います」

「言っておくが、お気楽でいる訳じゃないぞ? 何度も言うように、生き残るのが最優先だ。 しかしこれで、EGOISTSとして活動する大義名分が出来たな……」


 ややホッとしたように、小さく息をつく雪夜。

 EGOISTSを仲間として考えられるようになった彼だが、生存戦争で勝ち抜く為には、自分たちは別のパーティで参加するべきではないかと言う思いもある。

 何故なら、100点のパーティが1つと50点のパーティが3つよりも、70点のパーティが4つの方が、結果的に多くのプレイヤーが助かるからだ。

 しかし、今回のルールなら話は違って来る。

 突出したパーティを作ってトップを取る価値がある以上、彼らが文句を言われる筋合いはない。

 クリスタルの近くに集まった雪夜たちは、いつもの如く目立っており、周囲から多数の視線を集めていた。

 だが、普段は雪夜に対する厳しい眼差しが多い中、今日は何かを期待しているものが多い。

 説明する必要もなさそうだが、彼らがスコアトップを取ることを望んでいる。

 そのことを察した彼は、プレッシャーを感じると同時に安堵していた訳だが、仲間たちは笑い飛ばした。


「最初から、雪夜さんが気にする必要などありません。 誰とパーティを組むかは、プレイヤーの自由なのですから」

「だよね、ケーキちゃん! EGOISTSは仲間なんだから、誰が何と言おうとこれからも一緒だよ!」

「まぁ、よほどのことがない限り、わざわざ別れなくて良いと思うぜ? そんなことをしたら、お前の言うゲームを楽しむってところからズレそうだしな」


 胸に手を当てて、微笑を湛えるケーキ。

 胸の前で両手を握り、上機嫌に笑うAlice。

 頭の後ろで手を組んで、快活な笑みを浮かべるゼロ。

 仲間たちに後押しされた雪夜は苦笑し、改めて宣言する。


「そうだな。 生き残る為に遊び尽くす……それが俺たちEGOISTSだ」

「うんうん! それで良いんだよ! 雪夜くんも、やっと素直になって来たね~」

「俺は前から素直だぞ、Alice」

「え……? 何それ……? ギャグのつもり……?」

「本気で言った訳じゃないが……そこまで引いた反応をされると、傷付くぞ」

「はは! 相変わらず面白ぇな、お前ら。 なぁ、ケーキちゃん?」

「わ、わたしは雪夜さんのこと、素直だと……思いますよ?」

「……無理をするな、ケーキ。 自分でも違うと思っているからな」


 盛大に目を泳がせているケーキに、溜息をついた雪夜。

 緊迫した周囲のプレイヤーたちに比して、彼らは非常に落ち着いていた。

 やや気が抜け過ぎな気もしなくもないが。

 それでも準備は怠っておらず、各自装備やアイテムの確認は終わっている。

 すると遂に、そのときがやって来た。


「おっと、始まったな」

「だね~。 さぁ、ここからは真面目に行こう~!」


 ゼロとAliceの言葉を聞いて、雪夜も気を引き締める。

 サイレン音が鳴って夕暮れの空が赤く染まり、GENESISクエストがスタートした。

 雪夜が視線を向けると、全員が力強く頷き返す。

 それを確認した雪夜は、淀みない動作でアンリミテッドクエストを受注した。

 即座に4人が飛ばされた先は、どことなく和風な雰囲気のエリア。

 鳥居のようなものや桜の木があり、足元は石畳と砂利が敷き詰められている。

 神社をイメージすると、近いかもしれない。

 もっとも、形は円形の広い空間で、出口はない。

 丘のような場所にあるのか、全周囲を見渡すと、どこまでも青い空が広がっていた。

 ジェネシス・タイタンのときと一転して、随分と爽やかだと感じる雪夜たち。

 だからと言って気を抜いている者はおらず、即座に戦闘態勢に入っている。

 視界の右上には、『5:00』の制限時間が表示されていた。

 一通りの情報を咀嚼した雪夜は、鋭い声を発する。


「手筈通りに頼む」

「はい、雪夜さん」

「お任せあれ!」

「安全第一な!」


 ゼロが言い終わると同時に、空間にカウントダウンの数字が表示された。

 5――4――3――2――1――


「行くぞ」


 開始。

 瞬間、夥しい量のモンスターが出現する。

 顔に札が張り付けられた武士のような外見で、武器は刀、槍、弓の3パターン。

 レベルは全員当然60。

 初見の敵ではあるが、彼らにとってはある程度予定通り。


「Alice」

「はいは~い!」


 雪夜に呼び掛けられたAliceが【マルチ・ゲイン】を使ってから、【ウィンド・スライサー】を発動した。

 『魔導士』のアーツの中で最も範囲が広く、ほとんどの武士を巻き込んでいる。

 その上で高火力を出せる彼女は、あっと言う間にモンスターを斬り刻んだ。

 それに伴って上昇したスコアを雪夜が確認したところ、1体につき100ポイント。

 基準がサッパリわからないが、覚えておいて損はない。

 同時に彼は、Aliceの攻撃範囲から逃れた個体に、【瞬影】で接近して【閃裂】で仕留める。

 視線を転じると、ケーキとゼロもそれぞれ撃破していた。

 これが彼らのパターンの1つで、大量のモンスターが出て来た際はAliceを主力とし、撃ち漏らしを雪夜たちが掃討する。

 貴音に相談した結果としても、序盤はそう言う傾向にあると言う話になっていた。

 実際その通りで、最初の30秒くらいは同じ展開が続く。

 このままなら楽だが、当然そうは問屋が卸さない。


「あ! 来たよ~!」

「オッケー、Aliceちゃん!」


 今までは武士たちが間断なく現れていたが、突如としてリポップがなくなった。

 それを見たAliceは声を上げ、応えたゼロが最後の1体を始末する。

 そのとき――


「……! これか」

「そのようですね」


 雪夜の呟きを聞き逃さず、ケーキが返事する。

 彼らの視界の上部には、文字が映っていた。

 内容は、『10秒以内に対象を破壊せよ』。

 その対象とは何だと思った雪夜たちだが、すぐに答えは与えられる。

 空間の北西辺りに、巨大な球体が生成された。

 最も近くにいたケーキは攻撃を始め、雪夜たちも全速力で詰め寄る。

 どれだけのダメージを与えれば良いかわからないので、ひとまず全力で攻撃するEGOISTS。

 【閃裂】と【爪牙】を繰り返す雪夜。

 チャージした【ジャンピング・スラスト】を放つケーキ。

 周りの邪魔をしないように、【グラン・ランサー】を選択したAlice。

 背後と言う概念がなさそうなことに舌打ちしつつ、【五月雨の如く】を繰り出すゼロ。

 4人の全力を受けた球体は、約6秒で破壊された。

 すると、空間に『SUCCESS』の文字が浮かび、制限時間が60秒追加される。

 おおよその仕様を把握した雪夜だが、のんびりしている暇はない。

 ミッションを終えるとすぐに、またしてもモンスターが沸いた。

 だが、敵の種類が微妙に変わっており、武士に混じって大柄な鬼のようなモンスターが数体いる。

 それを見た雪夜たちは視線を交換し、すぐさま行動に出た。

 Aliceは変わらず武士たちを、なるべく纏めて相手にして、鬼は雪夜たちが各個撃破して行く。

 見た目通り、武士よりもかなりタフだったが、彼らが本気を出せばさほど脅威ではない。

 鬼が振り下ろした金棒を紙一重で避けて、カウンターの【閃裂】を繰り出す雪夜。

 金棒をジャストガードで弾き、チャージが完了した【ジャンピング・スラスト】を叩き込むケーキ。

 殴り掛かって来た瞬間に【刹那の刻】を発動し、カウンターで背中を斬り裂くゼロ。

 初見の敵を相手にしても、完璧な立ち回りを見せていた。

 ちなみに、最近のケーキは貴音の助言を受けて、CBO以外のモンスターも学習している。

 それによって、いきなりジャストガードを決めることが出来る、応用力を身に付けていた。

 鬼を倒した際は1,000ポイント増えており、敵の種類によって得られるスコアが違うと、雪夜は確認している。

 その後も彼らは順調にスコアを伸ばして行き、時折課せられるミッションもクリアし続けた。

 当初の制限時間である5分はとっくに過ぎており、30分が経とうとしている。

 それでも制限時間は残り2分を切っており、4人はラストスパートだと思っていたが――


「うん……? 初めて見るタイプだね」

「あぁ、気を付けろ」


 訝し気なAliceに、雪夜が端的に言い返す。

 彼らが見る先にいるのは、大きな目玉に触手が生えたようなモンスター。

 不気味な出で立ちではあるが、今のところ空間の中央に居座って、全周囲をゆっくりと見渡しているだけ。

 そのことを疑問に思いつつ、雪夜は全員の状態をチェックする。

 流石に無被弾ではないが、ここまで戦ってもHPゲージに余裕はあった。

 しかし、長時間戦い続けている、精神的な疲労は計り知れない。

 いろいろと収穫もあったので、そろそろ切り上げても良いと雪夜が考えていたところ、ゼロが行動に出る。


「取り敢えず、仕掛けてみるか!」


 跳躍した彼が、【放たれる暗器】で攻撃した。

 多数の手裏剣が、目玉に突き刺さり――


「……!? 離れろッ!」


 雪夜が叫ぶと同時に、大爆発。

 辛うじて直撃を避けたEGOISTSの面々だが、例外なくHPゲージは半分を切っていた。

 かなり距離があってもこの威力なので、至近距離で受ければ戦闘不能は免れない。

 完全回避は、恐らく不可能な攻撃範囲だ。

 生き残れたことにAliceとゼロは、ホッと息をついていたが、ケーキは厳しい表情で声をこぼす。


「スコアが減っていますね……」

「え!? あ、ホントだ!」

「マジかよ……。 あれ、どうすりゃ良かったんだ……?」


 驚愕したAliceに、呆然としたゼロ。

 ケーキの言う通り、目玉が爆発したことでスコアが100,000減少していた。

 相当な痛手と言わざるを得ず、3人は悔しそうにしていたが――


「良し、今回はここまでだな」


 1人平然としていた雪夜が、淡々と言い放つ。

 ケーキたちはポカンとしていたが、彼はむしろ当然のように告げた。


「初回にしては上出来だろう。 残り時間も少ないし、適当に流してくれ。 帰って反省会をしよう」


 新たに現れた武士と鬼を捌きながら、指示を出す雪夜。

 それを聞いたケーキたちは顔を見合わせ、揃って苦笑する。

 何故かこの1回に懸けていたが、今回は何度でも挑戦出来るのだ。

 雪夜の言う通り、反省するべき点は見直して、次に活かせば良い。

 気を取り直したケーキたちも武士たちを退けながら、制限時間が来るまで過ごす。

 こうして、初めてのアンリミテッドクエストを終えたEGOISTSは、次に向けて作戦を練ることにした。

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