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第19話 玄関前の約束

 立ち直った雪夜は、即座に警察に連絡を入れて、高史と正文を引き取ってもらった。

 朱里と2人で軽く事情聴取は受けたものの、さほど時間は掛からず済んでいる。

 ただし雪夜は、刃物を相手に立ち向かったことに関しては、注意を受けていた。

 それについては朱里の方が怒っていたが、彼には彼の事情がある。

 その場では謝罪していたものの、恐らく似たようなことがあれば、同じ決断を下すだろう。

 幼馴染である朱里は漠然と、そのことを察していた。

 しかし、雪夜の断固たる決意を感じ取って、言葉を飲み込まざるを得ない。

 事情聴取を終えた彼らは、パトカーで自宅近くまで送ってもらい、今に至る。

 雪夜の家の前で向かい合った2人の間に、重い沈黙が落ちていた。

 それぞれ言いたいことはあるが、何から言うべきか迷っている。

 だが雪夜は時間を考えて、先に解決しておくべき問題があると判断した。


「俺がプレイしているのがCBOだと言うことは、知っているな?」

「……うん」

「そして、朱里がプレイしているのはSCO……合っているか?」

「……合ってるよ」

「ここ最近の行動は、アルドとカインの襲撃を知っていたからか?」

「……ガルフォードが話してるのを、たまたま聞いたの」

「なるほど……。 奴らの動きを知るには、それなりに中枢にいなければならない。 恐らく朱里は……七剣星じゃないのか?」

「……そうだよ」

「そうか……」


 そこで言葉を切った雪夜は、俯いて立つ朱里を見据えた。

 何かを恐れているようで、心細そうにしている。

 それでも、避けては通れない道だ。


「朱里、決闘しよう」

「え……?」

「どちらが勝っても、恨みっこなしだ」

「で、でも……あたしは、セツ兄と戦いたくないよ……」

「俺だってそうだ。 だが、CBOとSCOには因縁がある。 そして、互いに主力である以上、どちらにせよぶつかる可能性はあるはずだ。 それなら今のうちに、誰にも邪魔をされないところで決着を付けよう」

「セツ兄……」

「手加減しようなんて考えるなよ? 俺はCBOを守る為に、全力で行く。 だから朱里も、本気で来い」

「……わかったよ。 場所はどうする?」

「俺がSCOに行っても良いが……」

「それはやめた方が良いね。 こっちは安全エリア近くも、かなり警戒してるから」

「やはりそうか。 だったら、済まないがこちらに来てくれるか? CBOの防衛は、本拠地とその周辺だけだ。 他タイトルが少数で移動して来ただけでは、気付くことは出来ない。 そこで待ち合わせしよう」

「りょーかいだよ。 はぁ……覚悟はしてたけど、遂にセツ兄と戦うんだね……」


 すっかり暗くなった空を見上げて、悲しそうに呟く朱里。

 雪夜としても思いは同じだったが、敢えてふざけたように言ってのける。


「それは違う」

「え?」

「朱里の相手はCBOプレイヤー雪夜であって、如月雪夜じゃない。 俺はあくまでも、何があってもお前の味方だ。 だから、遠慮なく戦えば良い」

「……屁理屈にしか聞こえないけど」

「屁理屈も理屈だ」

「あはは! じゃあ、そうさせてもらおうかな」

「ただし、防衛が優先だ。 もし侵攻があった場合は、全力でSCOを守れ。 俺も、CBOを守る。 だから、そうだな……待ち合わせ時間は21時30分頃にしよう。 その段階から攻めて来ることは、ほぼあり得ないからな」

「21時30分ね、りょーかい。 こうなると、侵攻して来てくれた方が良いなって思っちゃうけど……」

「先延ばしにしても良いことはない。 いずれ戦わなければならないなら、早く決着を付けるべきだ」

「ふふ、セツ兄らしいね。 うん。 あたしも、モヤモヤしたままじゃ嫌だし」

「そう言うことだな。 じゃあ、またあとで」

「うん! セツ兄……じゃなくて、雪夜くん! 絶対負けないから!」

「こちらのセリフだ」


 そう言って笑顔を交換した2人は、踵を返して家に入って行った。

 本心では戦いたくない。

 しかし、今後も関係を続けて行く為には、やるしかないだろう。

 雪夜は厳しい面持ちで、朱里は僅かばかりの涙を瞳に溜めて。

 ドアの施錠を確認した雪夜は、簡単に夕食を済ませ、時間ギリギリにCBOにログインする。

 変わらない街並みに、いつも通りの刺すような視線。

 だが、これらを感じるのも今日が最後かもしれないと思うと、中々感慨深いものがあった。

 そして何より――


「皆、こんばんは」

「あ! 雪夜くん、こんばんは!」

「お待ちしていました」

「今日もギリギリじゃねぇか」


 EGOISTSのメンバーと一緒にいられるのも、最後かもしれない。

 そう考えた雪夜は、自然と言葉が出て来た。


「皆、写真を撮らないか?」

「は? 写真?」

「そうだ、ゼロ。 以前の集合写真には、俺は入れなかったからな」

「ど、どうしたの、雪夜くん? そんなこと、今まで1回も言ったことなかったのに……」

「言っただろう、心境の変化があったと。 勿論、無理にとは言わないが」

「無理なんてことないよ! 皆も良いよね!?」

「おうよ、Aliceちゃん! ケーキちゃんも、構わねぇよな?」

「……はい」


 雪夜の態度に、何かしらの違和感を覚えたケーキ。

 ただし、正体は判然とせず、大人しく提案を受け入れた。

 そうして、貴音を除いたEGOISTSは集合写真を撮り、それを眺めた雪夜は優しく微笑む。

 極めて短い時間だったので、仲間たちには気付かれなかったが。

 すると、やがて19時になったものの、CBOに挑んで来るタイトルはない。

 雪夜は侵攻配信を検索してみたが、SCOに攻め込んでいるところもなさそうである。

 それはつまり、朱里との決闘が現実味を帯びたと言うこと。

 緊張感を高めながら、雪夜は念の為に確認しておくことにした。


「ケーキ、Alice、最近身の回りで変わったことはなかったか?」

「身の回りで、ですか……? わたしは特に……」

「あったよ!」

「本当か、Alice。 何があった?」


 高史たちは手を出していないと言っていたが、実は嘘だったのではないか。

 そう考えた雪夜は、険しい顔で尋ね掛けたが――


「雪夜くんが、優しくなった! ……はちょっと違うか。 何て言うか、柔らかくなった!」

「……それだけか?」

「それだけって何!? あたしにとっては、大きな出来事なんだからね!?」

「そうか……」


 プンスカ怒るAliceを見た雪夜は、これ以上ないほど脱力した。

 対するケーキは、その発想に至らなかったことを悔しがり、ゼロは面白がってニヤニヤしている。

 何はともあれ、大きな心配事の1つが解決して息をついた雪夜は、続いての行動に出た。


「ゼロ、少し話がある」

「ん? 俺に?」

「そうだ。 ケーキとAliceは、ここで待っていてくれ」

「な~に? 男の子同士で内緒話とか、何かいやらしい~」

「そう言うのじゃない。 ゼロ、来てくれ」

「良くわかんねぇが……しょうがねぇなぁ」


 何やら楽しそうなAliceと、不思議そうにしているケーキから離れ、誰にも聞かれない位置まで来た雪夜は、真剣な面持ちでゼロと向かい合う。

 そんな雪夜をゼロは不審に思っていたが、彼は1つ息をついてから語り出した。


「俺は今日、脱落するかもしれない」

「……穏やかじゃねぇな。 詳しく話せよ」

「そのつもりだ。 ただし、このことは俺とお前だけの秘密にして欲しい」

「話を聞く前に言いたくはねぇが……わかったよ」

「助かる。 実は――」


 それから雪夜は、SCOの七剣星が自分の知り合いだと判明したことを明かし、1対1で決着を付ける約束をしたことも教えた。

 一方のゼロは厳しい顔付きで聞いていたが、後頭部を掻きながら深く溜息をついて言い放つ。


「はぁ……お前も難儀な奴だな。 出来れば、約束する前に相談して欲しかったぜ」

「すまない……」

「まぁ、仕方ねぇな。 それで? 俺に話して、何をさせようってんだ?」

「それなんだが、もし俺が戻って来なかったときは――」

「やだね」

「……最後まで聞いてくれないか?」

「聞く価値がねぇよ。 雪夜が戻って来ないなんて、あり得ねぇからな」


 そう言って腕を組み、快活な笑みを浮かべるゼロ。

 どこまでも強気な彼に雪夜は目を丸くしたが、すぐに表情を改めて言い返した。


「どこにそんな確証がある? 相手は七剣星だぞ? それも恐らく、アルドやカインなどとは違う、本当の意味でSCOのトッププレイヤーだ」

「それが何だってんだ? そんなもん、関係ねぇよ。 お前が負けるなんて、あり得ねぇ」

「……どうして、そう言い切れる? 相手の実力も不確かな状況で」

「簡単な話だ。 ケーキちゃんとAliceちゃんが、いるからだよ」

「何……?」

「お前が、あの2人を置いて脱落する訳がねぇ。 ただそれだけのことだ」


 ふざけるな。

 雪夜の喉元にはこの言葉があったが、口に出すことは出来なかった。

 ゼロが笑みを消して、真剣な顔をしているのもあったが、何より自分が納得してしまっている。

 嘆息した雪夜は苦笑をこぼし、淡々と言葉を紡いだ。


「そうだな。 俺は、彼女たちを置いて脱落する訳には行かない」

「それで良いんだよ。 お前には、まだまだ頑張ってもらわねぇとな。 俺が楽を出来ねぇじゃねぇか」

「本音が出てるぞ」

「おっとしまった」

「まったく……だが、感謝する。 お陰で、改めて決意することが出来た。 俺は……彼女を倒して、戻って来る」

「おう、待ってるぜ。 まぁ、お前がいきなりいなくなったら騒ぐだろうから、それを宥めるくらいはしておいてやるよ」

「有難う。 ……そろそろ時間だ。 では、行って来る」

「あぁ、行って来い。 またあとでな!」

「……あぁ、また会おう」


 笑顔でサムズアップして来たゼロに、雪夜も苦笑気味に返す。

 そうして密かに町を出た彼は、朱里との待ち合わせ場所に向かった。

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