第12話 悪
夜も更けた時間帯、まだまだ騒がしい繁華街。
一般的な高校生が近寄ることは少ないが、必ずしもそうとは言い難い。
そしてここにも2人、例外的な者たちがいる。
1人は身長170㎝そこそこで、茶髪にピアスと言う、わかり易い不良少年。
名前は仙道高史と言い、アルドの現実での姿だ。
もう1人も身長は同じくらいで、ソフトモヒカンに高史と同じピアス。
カインの現実での姿で、名前は須藤正文。
両者とも柄が良さそうには見えないが、しっかりと中身も素行が悪い。
2人は高校生ながら非行を繰り返しており、近所では有名である。
しかし、SCOで賞金を得られるようになってからは、比較的大人しくなっていた。
悪事を働かなくても多額の金が手に入るのだから、当然の成り行きと言えばその通り。
ところが、雪夜とAliceによって脱落させられ、この間の剣技大会に出場することは出来なかった。
その収入を当てにしていた彼らは、欲しいものが手に入らない現実に苛立っており、再び非行少年へと逆戻りしようとしている。
そのとき――
「ん?」
「どうした、高史?」
「いや、知らねぇ番号から電話が入った」
「あん? 無視すれば良いんじゃね?」
「そうだな。 そんなことより、どうする? その辺の奴から、金を集めに行くか?」
「それでも良いんだけどよ、どうせショボい金にしかならねぇだろ?」
「だよなぁ。 くそ! Aliceの野郎さえいなけりゃ、こんなことにはならなかったのによ!」
「落ち着けって。 まぁ、俺も雪夜とケーキのことは、今でも恨んでるけどな」
「CBOにあんな奴らがいるなんて、聞いてなかったぞ!? ちくしょう!」
「だから、落ち着けって。 ムカつくけどよ、今更何を言ったって……」
そこで、正文の言葉が途切れる。
高史が訝しそうにしていると、正文がスマートフォンを取り出して問い掛けた。
「なぁ高史、お前に掛かって来た番号って、これか?」
「あ? お、そうそう。 そいつだ。 なんだ、正文にも掛かって来たのかよ」
「これってもしかして……生存戦争関係じゃねぇ?」
「マジで!? 俺たち、復活出来んのか!?」
「早まるなよ。 でも、出てみる価値はありそうだぜ」
「おっしゃ! スピーカーフォンで頼む!」
「おうよ」
そう言って正文は応答し、スピーカーをオンにした。
すると、聞こえて来たのは――
『くく、俺を待たせるなんざ、良い度胸じゃねぇか。 アルド、カイン?』
「ガ、ガルフォードさん!? どうして、俺たちの番号を知ってるんですか!?」
『鷺沼に頼んだら快く教えてくれたぜ、アルド。 カイン、テメェもだ』
「そ、そうだったんですね。 知っていれば、もっと早く出たんですけど……」
『別に、そこは気にしちゃいねぇよ。 そんなことより、テメェらに話がある』
「話? もしかして、俺たち復帰出来るんですか!?」
『アルド、残念ながらそいつは無理だ。 いろいろ手は尽くしたが、方法は見付からなかった』
これは嘘だ。
ガルフォードは、アルドとカインのことなど、とっくに見限っている。
「そ、そうですか……。 じゃあ、話と言うのは……?」
『なぁに、ちょっと頼みがあってな。 テメェらにとっても、悪くねぇと思うぜ? 結論から言うと、雪夜を痛い目に遭わせて、生存戦争から手を引かせて欲しいんだよ』
「雪夜を!? ですが、俺たちにはあいつの居場所がわかりませんが……」
『心配すんな、カイン。 俺がバッチリ調べておいたからよ。 あとは、テメェらに実行してもらうだけだ』
「マ、マジですか……。 そりゃ、俺たちもあいつには恨みはありますけど、流石にリスクがデカいと言うか……」
『ビビってんじゃねぇぞ、アルド。 別に殺そうってんじゃねぇんだ。 ちょっと脅すくらいなんだから、大したことじゃねぇよ。 それに、何もタダ働きしろなんて言わねぇしな』
「と、と言うと……?」
『くく、期待した声をしてんな、カイン。 察しの通り、金をくれてやる。 優勝賞金の30%でどうだ?』
「さ、30%!? や、やります! やらせて下さい! なぁ、正文!?」
「おう、高史! 雪夜に復讐出来て、しかも金がもらえるんだ! こんな上手い話が、他にあるかよ!」
テンションを高めている2人に、ガルフォードは嘲笑を浮かべていた。
自分たちが、どれだけ危ない橋を渡ろうとしているか、全くわかっていない。
だが、彼がそれを指摘するようなことはなく、敢えて明るい声で言い放つ。
『そうかそうか、やってくれるか。 流石、俺の側近だっただけはあるぜ。 じゃあ、あとで詳細を送るから、上手くやれよ』
「はい! 任せて下さい!」
「俺と高史が、完璧にやり遂げてみせます!」
『おう、期待してるぜ。 じゃあな』
通話を切ったガルフォードは、雪夜の住所や通っている高校などの情報を、正文のスマートフォンに転送した。
そして、その履歴を消去する。
あとは、彼らが動くのを待つだけだ。
高層マンションの最上階から地上を見下ろしながら、ニヤリと笑うガルフォード。
本名は、橘光一郎。
190㎝近い巨躯に、引き締まった体。
ドレッドヘアーが野性味を感じさせる。
年齢は30歳手前くらいで、常に煙草を手放さないほどのヘビースモーカー。
プロゲーマーなので、就職はしていないが、大会賞金で裕福な暮らしをしている。
金への執着が強く、ゲームをしているのはあくまでも金が目的だが、実力は本物。
勝つ為に手段を選ばない性格なのは、これまでの戦いぶりからも明らか。
今回も高史と正文を使い、盤外戦術で雪夜を落とそうとしている。
とは言え、成功したらラッキー程度の考えで、失敗しても構わないと考えていた。
何故なら――
「どうせ、もう役に立たねぇんだ。 どうせなら、最後まで使ってやらねぇとなぁ」
今の高史と正文に、使い捨ての駒以上の価値などないのだから。
まだ年端も行かない少年たちを、躊躇なく悪の道に引き摺り込む。
それが、橘光一郎――ガルフォードと言う男だ。
そのとき、彼のスマートフォンが震えた、それを感じた光一郎はニヤリと笑って応答する。
「鷺沼か、どうだった?」
『お前の言った通り、あの条件なら通りそうだ。 だが……本当に実行するのか? あまりにもリスキーだぞ?』
「良いんだよ。 今回はフレンに追い詰められたからな、やっぱりまだ完全じゃねぇ。 ラグナロクの強化は必須だ」
『だからと言って、ラグナロクだけの為に2回目のアップデート権まで使うのは……』
「ガタガタうるせぇぞ。 他の奴らが脱落しようが、俺が残れば済む話だろうが。 下手に力を分散させて、中途半端な強化をする方が勿体ないぜ。 だからこそテメェも、1回目は『レジェンドソード』だけの強化をしたんだろ?」
『それは、確かにそうだが……』
「良いから、言われた通りにしろ。 そうしないなら、俺は生存戦争から下りるぜ? 別にSCO以外にも、金を稼ぐ方法はあるんだからよ」
『わ、わかった、言う通りにする! だから、何としてでもSCOを勝たせてくれ!』
「ふん、最初からそう言えば良かったんだ。 じゃあ、頼んだぜ」
一方的に通話を切った光一郎は、新しい煙草を取り出して火を点けた。
その顔には邪悪な笑みが浮かんでおり、どこまでも傲岸不遜に言い捨てる。
「今度こそ、俺に勝てる奴なんざいなくなった。 4大タイトルだろうがCBOだろうが、纏めて蹴散らしてやるぜ。 そのあとは、完全体のラグナロクで荒稼ぎしてやる」
結局のところ、光一郎の興味はそこに集約させる。
こうして彼が暗躍する中、連休の初日が訪れた。
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