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第4話 グループチャット

 現実に帰還した雪夜は、ゲームデバイスを外して大きく息をついた。

 致し方ないかもしれないが、流れでチームリーダーになったことを、甚だ不本意に思っている。

 面倒だから――などと言った理由ではない。

 纏める自信がないから――でもない。

 むしろ彼はゲームにおいて、仲間を引っ張って行く能力を持っていると言えた。

 しかし――


「何の因果だろうな……」


 腕を顔の前に翳した雪夜が、ポツリと呟く。

 その声には、辛そうな色が含まれていた。

 とは言え、決まったものはどうしようもない。

 そう割り切った彼が次に考えたのは、ケーキのこと。

 貴音が現れてから、明らかに様子がおかしくなった彼女が、気になっている。

 だが、これに関しても今は出来ることが――


「……いや」


 あるかもしれない。

 ベッドから身を起こした雪夜はパソコンを立ち上げ、貴音が言っていたアプリをチェックした。

 念の為にウイルスなどの有無を調べ、問題ないことを確認してからインストール。

 一応、パソコンとスマートフォン両方に入れた。

 添付されていた使用方法を読み、一通り把握してから起動する。

 すると、既にいくつものチャットが行われていたが、今のところAliceとゼロの雑談のみ。

 初対面のはずの2人が仲良くしているのを見て、自身のコミュニケーション能力不足を痛感した雪夜。

 普段は、朱里や宗隆とたまにやり取りする程度の為、微かに緊張しながら彼は文字を入力して送信した。


『取り敢えず入った』

『あ! 雪夜くん遅い!』

『おー、やっと来たか。 Aliceちゃんが待ってたぜ』

『ゼロさん!? 変なことを言わないで!』

『照れるな照れるな。 別に友だちを待つのは、おかしなことじゃねぇだろ?』

『友だち……そ、そうだね! 友だちなんだから、待ってて当然だよね!』

『そうそう。 あとは、ケーキちゃんと貴音ちゃんだけだな』


 Aliceとゼロは絵文字や顔文字を多用しているので、実際の文章は違うが、要するにこんな内容だ。

 特にAliceは今どきの女子校生らしく、かなり独特な表現をしている。

 それゆえに雪夜は読解に難儀している――かと言えば、そうでもない。

 何故なら彼には、朱里との経験があるからだ。

 彼女もAliceに負けないくらい今どき(?)なので、雪夜にその辺りの耐性は付いている。

 一方のゼロも知識として知っており、問題なくやり取り出来ていた。

 そうして最初の挨拶以降、雪夜が沈黙を保っていると、Aliceからのチャットが表示された――のだが――


『雪夜くん、もうご飯は食べた?』

『食べた』

『何を食べたの?』

『鯖の味噌煮』

『へぇ~、良いね! 買って来たの?』

『手作り』

『え!? 雪夜くん料理出来るの!?』

『それなりに』

『うわ~、意外! ……でもないかも? 雪夜くんって、何でも出来そうだし』

『それはない』

『あはは、謙遜しなくて良いよ~』

『事実だ』


 雪夜の返答は、何とも冷たい感じだった。

 断っておくと、彼に悪気はない。

 単に、必要最低限で済ます、癖が付いているだけのこと。

 もっとも、朱里や宗隆は慣れているが、そのことを知らないAliceはトーンダウンした。


『雪夜くん、怒ってる……?』

『いいや』

『でも、何かつっけんどんだし……』

『気のせいだ』

『そうかなぁ……』

『これが俺の普通だ』

『そう言われると、そんな気がするかも……』

『Aliceちゃん、気にすんなって。 こいつは、こう言う奴なんだよ』

『ゼロさん……。 う~ん、もっと和気藹々としたのを期待してたんだけど、無理っぽいね~』

『無理だ』

『雪夜くん、断言しないでよ~!』

『そんなことより、GENESISクエストだ。 今のところ何も情報はなさそうだが、2人は何か見付けたか?』

『うわ~……。 急に饒舌になったね。 あたしは何もないかな~』

『ホント、生存戦争になると本気だな。 俺もまだ特に収穫なしだ』

『わかった。 恐らく明日以降に、情報が公開されて行くはずだ。 気付いたら教えてくれ』

『はいは~い』

『オッケーだぜ!』


 雪夜の態度が冷たいことを、Aliceは不満ながら受け入れた。

 ゼロに関しては、最初からこんなものだと思っている。

 そうして確認を終えた雪夜は、僅かに迷ってからアプリを閉じようとしたが――


『お邪魔します』

『お、皆揃ってるね』


 ケーキと貴音が入って来た。

 それを見た雪夜は、もうしばし様子を見ることに決める。

 対するAliceたちは、ここぞとばかりに盛り上がり始めた。


『いらっしゃい、ケーキちゃん、貴音ちゃん! 遅かったね!』


 しばし、空白の時間。


『少し設定に手間取ったので、貴音ちゃんに手伝ってもらっていました』

『うん? そんな複雑な設定あったっけ?』


 またしても、静寂。

 ただし、先ほどよりは多少短い。


『わたしは機械に疎いのです』

『ふ~ん?』


 ケーキの言葉をAliceは不思議に思いつつ、踏み込んで問い質しはしない。

 真実を話すなら、CBO内にしか存在出来ないケーキがアプリに加入する為に、少々時間が掛かったのだ。

 何はともあれEGOISTSが揃ったことをAliceは喜び、テンション高くチャットを続ける。


『こうしてると、ホントに友だちって感じがするね! ゲームとか関係なく!』

『まぁ、現実で普通にチャットしてる訳だしな』

『だよね、ゼロさん! 皆のリアルも気になるけど……そこは聞かないでおく! あたしも、答えられないし!』

『そりゃそうだろ。 ましてや俺なんて、今日が初めましてなんだからよ』

『あはは! でも、ゼロさんって話し易いから、あんまり初対面って感じしないね~』

『おっとAliceちゃん! 俺に惚れちゃったかな!?』

『そんな訳ないでしょ!?』

『そこまで全力で否定しなくて良いじゃねぇか……』

『ふふ、楽しそうだね。 わたしはどちらかと言うと監督役だけど、適当に会話には入らせてもらうから。 勿論、GENESISクエストでわかったことがあれば、すぐに連絡するよ』

『頼んだ、貴音ちゃん』

『あ! 雪夜くん! 消えたと思ったらいたんだね!』

『もう消える』

『え~。 もうちょっと話そうよ~』

『明日も早いんだ』

『そうなの? 何か用事でもあるんだ?』

『リアル詮索』

『そんな5文字で拒否しなくても……。 わかった、聞かないよ~だ』

『はは、やっぱり雪夜は面白ぇな! ……と、ケーキちゃん、いるか?』


 数秒の間。


『はい』

『おぉ、こっちは女版雪夜って感じがするな。 何か言いたいこととかあったら、流れを切ってでも発言してくれよ? 俺たちに遠慮はいらねぇからな』

『はい』

『ケーキちゃんも、必要最低限って感じだね……。 まぁ、慣れて来たら変わるかもだし、焦らなくて良いか!』

『そうよ、Aliceちゃん。 ケーキちゃんはアプリ自体に慣れてないところもあるし、大目に見てあげてね』

『は~い、貴音ちゃん! あ! 雪夜くん、もういない?』

『いる』

『良かった~……。 言うの忘れてたから!』

『何をだ?』

『お休み~! また明日ね!』

『お休み』

『俺も言っておくか。 お休み、雪夜!』

『お休み』

『ふふ、じゃあわたしも。 お休み、雪夜くん』

『お休み』

『わ、わた、わたし、わたしもも、おお、おや、お休みな、さささ、さい、せ、せせ、雪夜、さん』

『落ち着け、ケーキ。 お休み』


 その一言を最後に、雪夜はアプリを閉じた。

 それから就寝準備を整え、ベッドに横になる。

 大きく深呼吸して、ゆっくりと体から力を抜いた。

 慣れないことをして、かなり疲れている。

 すぐにやって来た眠気に、大人しく身を委ねようとして――


「……」


 半ば強引に、起き上がった。

 多少ボンヤリする頭を軽く振って、意識を取り戻す。

 そして思い浮かべたのは、1人の少女。

 放っておいても大丈夫だと言う思いと、どうしても気になると言う気持ち。

 その結果として雪夜は嘆息すると、スマートフォンを手に取ってアプリを開いた。

 まだ会話は続いているようだったが、彼は共通のルームには入らず、個別チャットの機能を立ち上げる。

 そして、数秒躊躇ってから文字を打ち込み、更に悩んでから送信した。


『起きているか?』


 柄にもなくソワソワする雪夜。

 すると、間もなくして――


『お、おおお、おき、おきて、おきてい、起きています』


 ケーキから返信があった。

 その文面から、彼女が慌てていたことを察した雪夜は、思わず苦笑を浮かべる。

 どうしたものかと彼は思ったが、取り敢えず釘を刺しておくことにした。


『返信はゆっくりで構わない。 急いで打ち間違えるより、時間が掛かっても正確な方が良いからな』


 その後、暫く反応はなかったが、雪夜は辛抱強く待った。

 するとようやくして、短文が返って来る。


『わかりました、有難うございます』


 それを見た雪夜は再度苦笑し、表情を改めてから本題に取り掛かった。

 ここからのやり取りは、かなり時間を置いて行われていることを、念頭に置いて欲しい。


『貴音ちゃんから接触があったあと、様子がおかしかったが、何かあったのか?』

『いいえ、少し驚いていただけです。 ご心配を掛けて、すみませんでした』

『謝らなくて良い。 何もないなら、それが1番だ』

『有難うございます。 心配を掛けたことは申し訳ないですが、気に掛けてもらえて嬉しいです』

『仮にもリーダーだからな。 メンバーの状態を管理するのも、仕事のうちだ』

『仕事ですか』

『役割と言い換えることも出来る』

『役割ですか』

『そうだ』

『そうですか』


 ケーキの文面は――自分を棚に上げて――極めて淡白だと雪夜は思ったが、そこから大きな不満を感じている。

 その理由にも見当は付いているものの、だからと言って望んでいる言葉を投げ掛けるつもりはなかった。

 だが――


『また明日』

『はい』

『ケーキ』

『はい』

『装備、似合っていた』


 これに関しては、偽らざる本心。

 恋愛感情云々は関係なく、純粋にそう思った。

 だからこそ、雪夜も伝えることが出来たのだが、チャットを送信してから後悔し始めている。

 何故なら、それまでとは比べ物にならない時間待っても、反応がないからだ。

 自分が失策してしまったと思った雪夜だが、今更なかったことには出来ない。

 諦めた彼は溜息をついて、アプリを閉じる。

 そうして今度こそ雪夜が眠りに就いた、数時間後――


『――』

『有難うございます』


 1つのチャットが削除され、そのあとに簡潔な礼が述べられた。

 翌日、いつも通り早朝に目覚めた雪夜はそれを見て、首を傾げることになる。

 ケーキが最初に何と打ったかは、彼女しか知らない。

ここまで有難うございます。

面白かったら、押せるところだけ(ブックマーク/☆評価/リアクション)で充分に嬉しいです。

気に入ったセリフがあれば一言感想だけでも、とても励みになります。

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