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第1話 ボディガード

 晴天の下。

 朱里に守られながら、雪夜は無事に学校に辿り着いた。

 彼からすれば当たり前だが、朱里はホッと息をついている。

 彼女の気持ちを知らない雪夜は、内心で首を捻っていたが、一応釘を刺しておいた。


「朱里、今日は休み時間に来なくて良いからな」

「べ、別に、セツ兄に会いに行ってるんじゃないよ! たまたま通り掛かってるだけだから!」

「そう言われると、拒否出来ないが……無理はするなよ?」

「た、たまたま通り掛かってるだけなんだから、無理するも何もないよー」

「はぁ……。 それで、昼食はどうする?」

「仕方ないから、一緒に食べてあげる!」

「何が仕方ないか、説明出来るか?」

「ま、まぁまぁ、細かいことは気にしないで! じゃあ、行こっか!」

「お前の教室は向こうだろう」

「そっちに用があるの!」

「今日もか」

「今日も!」

「……まぁ良い。 行くぞ」

「はーい!」


 まったくもって納得は出来なかったが、雪夜は朱里を連れて教室へ向かった。

 控えめに言って心配し過ぎだが、彼女は校内での警戒も怠らない。

 そうして階段を上がり、2年生のフロアに来ると、雪夜にとって歓迎出来ない事態が待っていた。


「おはよう、如月くん! 今日こそ良い返事をもらうぞ!」


 現生徒会長である、石川。

 最近は大人しいと思っていた雪夜だが、まだ諦めていなかったらしい。

 胸中でウンザリしながら、適当にあしらうべく口を開こうとした、そのとき――


「下がって、セツ兄!」

「うお!?」


 雪夜を押し退けて前に出た朱里が、竹刀を石川に突き付ける。

 途轍もない気迫に押された石川は、身を仰け反らせていたが、彼女は厳しい眼差しを注ぎ続けた。

 廊下にいた他の生徒たちが騒然としており、もう少しで大事件に発展しそうだったが、1人平静を保っていた彼が行動に出る。


「こら」

「痛ッ!?」

「先輩に向かって、何をしているんだ」

「うぅ、だって……」

「だってじゃない。 ちゃんと謝れ。 すみません、石川先輩」

「……すみません」


 朱里の頭を軽く小突いた雪夜が、一緒になって謝罪する。

 彼女はまだ不服そうだったが、ひとまず大人しく従った。

 それを受けた石川が目をパチクリさせていたが、なんとか立ち直って言い放つ。


「よ、良くわからないが、気にしなくて良い。 その代わり……」

「生徒会長の件なら、断ったはずです」

「そ、そこをなんとか! キミほどの人材は、他にいないんだ!」

「俺には関係ありません。 前回も言いましたが、もう誘わないで下さい。 朱里、お前はそろそろ自分の教室に向かえ」

「う、うん……」


 朱里の背を押して促した雪夜は、周囲の生徒たちを無視して教室に入った。

 石川はまだ何か言いたそうだったが、見向きもしない。

 そうして席に着いた雪夜の様子を、複数人のクラスメイトが窺っている。

 相変わらず女子生徒が多い一方で、男子生徒からの注目も増えていた。

 その理由は、生存戦争。

 SCOを撃退したCBOの主力プレイヤーが彼だと、噂が広まっているのだ。

 雪夜としては、別段隠し立てするつもりはなかったものの、微妙に居心地が悪いのも否定出来ない。

 特に、宗隆から距離を取られるようになっており、そのことは少なからず残念に思っている。

 とは言え、CBOをプレイしていることを彼に黙っていたせいだと思っている為、雪夜は致し方ないと諦めていた。

 貴重な友人を失ってしまった訳だが、だからと言って揺らぐ訳には行かない。

 雪夜は無意識に、自分にそう言い聞かせている。

 己も与り知らぬところで傷付きながら、彼はいつも通り授業の準備をしていたのだが――


「よう、雪夜! いつにも増して仏頂面だな!」


 横合いから久しぶりに声を掛けられて、驚きとともに振り向いた。

 そこに立っていた宗隆は笑顔ながら、微妙に複雑そうな色を残している。

 それでも彼は、雪夜と友人でいる決意を固め、葛藤を振り切った。

 宗隆の想いを漠然と察した雪夜も、苦笑気味に返事を返す。


「お前は、相変わらず元気だな」

「まぁ、それが取り柄みたいなもんだからな。 部活でも、誰より声がデケェんだぜ!」

「それは良いことだと思うが、教室では適度に頼む」

「はは! わかってるよ!」


 さほど期間は空いていないにもかかわらず、雪夜はかなり懐かしい気分になっていた。

 それは宗隆も同じで、ほんの微かに瞳が潤んで見える。

 そのことに雪夜は気付きつつ、敢えて触れずにいた。

 友人と自然に会話出来ることの、有難さ。

 ささやかながら大切な想いを噛み締め、雪夜は宗隆との会話を楽しんだ。

 すると突然、何やら宗隆が視線を彷徨わせ、落ち着きをなくす。

 どうしたのかと思った雪夜が様子を窺っていると、彼は後頭部を掻きながら声を落とした。


「その……すまねぇ」

「何の話だ?」

「いや、ほら、最近態度が悪かっただろ?」

「悪いと言うか……素っ気なかったとは思う」

「う、はっきり言うな……。 でも、そうだな。 お前がCBOの主力だって知って、どう接すれば良いかわかんなかったんだよ」

「それを言うなら、俺の方こそ謝らなければならない。 ゲームデバイスを持っていないと、嘘をついていた訳だからな。 悪かった」

「まぁ確かに、何も感じなかったと言えば嘘になるな。 でも、お前が意味もなくそんな嘘をつく訳ねぇと思ったから、今はもう大丈夫だぜ。 だからこそ、こうやって話してるんだしな」

「そうか……。 有難う」

「はは、礼なんていらねぇよ」


 ニッと歯を見せて、快活な笑みを浮かべる宗隆。

 変に誤魔化すことなく、正直な気持ちをぶつけてくれたことに、雪夜は強く感謝した。

 彼は異性から特別人気がある訳ではないが、雪夜からすれば自分より、よほど良い男だと思っている。

 そうして雪夜が密かに宗隆を称賛していると、彼は悪戯っぽく笑って告げた。


「にしても、痛快だったぜ。 仇を討ってくれてサンキューな!」

「いや、俺は別に……」

「わかってるって、お前がそんなつもりで戦ったんじゃねぇってことはな。 でもよ、やっぱり悔しかったから、スッキリしたぜ。 このまま、突っ走れよ!」

「……そう簡単には行かないだろうが、出来ることはするつもりだ」

「お前がそう言うなら、もう決まったようなもんだな!」

「あまりハードルを上げないでくれ」


 冗談めいて笑う宗隆に、雪夜は苦笑せざるを得ない。

 そんな彼に宗隆は笑みを深めたかと思えば、いきなり話題転換を図った。


「それはそうと、お前と朱里ちゃんって、本当に何もないんだよな? 最近の距離感、ますます近いけどよ」

「距離感が近くなったことは認めるが、俺にも理由はわからない。 だが、恋人じゃないのは確かだ」

「そうかそうか! じゃあ、次の連休って何か予定あるか?」

「いや、これと言って何もない」

「よっしゃ! いや、ダチと一緒に遊びに行こうって話してんだけどよ、良かったら雪夜もどうだ?」

「行けるのは行けるが……部外者の俺が混ざって大丈夫なのか?」

「おいおい、部外者だなんて言うなよ。 俺たちはダチだろ? 他の奴らだって、お前と話したいみてぇだしな」

「そうなのか……。 わかった、それなら参加させてもらう」

「そう来なくちゃな! そろそろ時間だから、詳しい日程はまたあとで教えるぜ!」

「あぁ、またな」


 大きく手を振りながら立ち去る宗隆に対して、軽く手を挙げるに留める雪夜。

 このときの彼は、友人との外出と言うイベントを前にして、柄にもなく気分が高揚していた。

 しかし、雪夜は知らない。

 自分が既に、ある種の面倒ごとに巻き込まれていることを。

ここまで有難うございます。

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