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プロローグ NEXT STAGE

 GENESISの拠点である、薄暗い部屋。

 いつもの如く定例会議を行っていたが、今日は少しばかり様子が違う。

 今のところは誰もその話題に触れていないが、確認事項などを全て終わらせ、ようやく本題に取り掛かった。


『まさか、SCOがCBOに負けるとはね。 正直、予想してなかったよ』

『負けたと言うには早いですよ、三。 あくまでも侵攻を阻止したのであって、SCOは未だ健在です』

『だとしても四、これは由々しき事態よ。 4大タイトル以外が淘汰される前提で考えていた、わたしたちにとってはね』

『落ち着け、二。 まだ七剣星は3人残っている。 そう簡単に、落とされはしないはずだ』

『わかっているわ、一。 実際、その後のSCOは安定しているしね。 流石に侵攻は出来ないようだけれど』

『その代わりに、MLOとBKOが張り切っているようだね。 ここ数日の撃破数は、かなりのものだ』

『そうだな、三。 予定とは違うが、4大タイトルが他のタイトルを殲滅する流れ自体は、続いていると見て良いだろう』

『一の言う通りです。 CBOも、あれ以降は何も動きはなく、ましてや打って出る気配はありません。 最後まで残ったとしても、4大タイトルに蹂躙される未来は避けられないでしょう』


 SCO対CBOについて、それぞれの意見を交わすGENESIS。

 基本的な見解は近く、大勢に影響はないと考えている。

 ところが――


「いや……。 事態は、思ったよりも深刻かもしれない」


 そう呟いたのは、代表。

 それを聞いた残りの4人から、モニター越しに緊張した気配が伝わって来た。

 しかし代表は、敢えて気付かぬふりをして言葉を続ける。


「CBO全体の戦力も予想を上回っていたが、特にこの3人が突出している」

『雪夜にAlice、ケーキ……だね』

「そうだ、三。 前回のGENESISクエストで、3人パーティながら上位に食い込んだメンバーでもある」

『あのときから気を付けてはいましたが……確かに、彼らは4大タイトルの主力と比べても遜色ありません。 いえ、もしかしたら、それ以上の可能性もあります』

『あまり考えたくはないけれど、四の見立て通りかもしれないわね。 特に雪夜。 彼の強さは、ちょっと普通じゃないわ』

『確かにね、二。 正面からぶつかって、彼に勝てるプレイヤーがどれだけいるか、はっきり言って疑問だよ』


 代表が表示した画面には、雪夜とAlice、ケーキの姿が映っていた。

 やはりと言うべきか、雪夜に注目が集まっているが、代表は沈黙を保っている。

 そのことに気付いた一が、不思議そうに尋ね掛けた。


『どうした、代表? 何か気になることがあるのか?』

「……確かに雪夜も要注意人物だが、もっと気になるのは彼女だ」

『彼女? Aliceのことかしら?』

「いいや、二。 ケーキの方だ。 調べれば調べるほど、彼女には謎が多過ぎる」

『しかし、代表に言われてわたしも調べてみましたが、不審な点はありませんでしたよ? 確かに、常軌を逸した成長速度だとは思いますが』

『僕も四と同意見だ。 代表がケーキに拘る理由がわからないね。 もし何かあるなら、教えてくれないかな?』


 三に問を投げられた代表は、またしても口を閉ざした。

 だが、4人は急かすこともなく返事を待ち、時計の秒針が1回転する頃になって、ようやく代表が重い口を開く。


「今からわたしが言うことは、かなり突拍子もないことだ。 それでも良いか?」


 代表の前置きに、4人は無言で先を促した。

 彼らの顔は見えないが、代表はそれを感じ取り、平坦な声で言葉を紡ぐ。

 対する4人は流石に驚きを禁じ得なかったようだが、否定することなく最後まで話を聞いた。

 話し終えた代表は1つ息を吐き、改めて指示を出す。


「取り敢えず、生存戦争の情勢は見守ろう。 その代わりに、各々ケーキを徹底的に調べてくれ。 ただし、GENESISクエストの準備だけは怠らないように」

『わかった、代表。 もし徒労に終わるとしても、それでお前の気が済むなら無駄ではない』

『そうね、一。 懸念材料は、少しでも取り除くべきだわ』

『一と二は、外側を頼むよ。 ゲーム内は僕と四に任せてくれ』

『そうですね、三。 場合によっては、協力者が必要になるかもしれません』

「有難う、皆。 四、協力者が必要な場合は言ってくれ。 可能な限り、要望には応えよう」

『わかりました』

「では、今日はここまでだ。 2回目のGENESISクエストもある。 大変だろうが、なんとか乗り切ろう」


 代表の言葉を最後に、モニターの電源が落ちた。

 室内に1人残った彼は、いつものように少しばかり虚空を見つめる。

 その顔からは感情が窺い知れなかったが、瞳の奥には怪しい炎が灯っていた。

 こうして生存戦争は、次なるステージへと進む。











 SCOの侵攻をCBOが退けて、既に1週間。

 当初は凄まじい衝撃をゲーム界隈に与えたものの、今ではすっかり沈静化している。

 と言うのも、守りに入ったSCOは相変わらず強大な力を持ち、代わりに台頭して来たMLOとBKOの脅威によって、それどころではなくなったからだ。

 唯一、THOだけは尚も防衛に専念している。

 SCOが侵攻していた頃と同じか、それ以上の勢いで減って行くタイトル。

 このままでは遠くない未来、ほぼ4大タイトルのみになるのではないかと言われていた。

 そんな中、CBOには平穏な日々が戻って来ている。

 毎日緊張感はありながら、結局何も起こらないまま終わっていた。

 SCOを撃退したことで、ますます狙われる可能性が低くなったらしい。

 ただし、だからと言って平和ボケしているかと言えば、決してそのようなことはなかった。

 むしろ、SCOが攻めて来る前よりも、プレイヤーたちのやる気は上がっている。

 その原因となったのが、雪夜の一言。

 自分に頼らなくても良いくらい、強くなれと言われたCBOプレイヤーは奮起し、彼を見返す為にも必死に努力を続けていた。

 どちらかと言えば負の感情かもしれないが、紛れもなく原動力になっている。

 結果として、SCOの侵攻によって減じた戦力を埋めるだけではなく、タイトル自体が以前より強化されていた。

 だからと言って雪夜に感謝するような者はおらず、彼は今もケーキやAlice以外からは、毛嫌いされている。

 しかし、雪夜が気にすることはなく、今の立場を甘んじて受け入れていた。

 本心は別として。

 何はともあれCBOは立ち直り、今なら大抵の相手に勝てるだろうと、雪夜は考えている。

 万全の状態なら、だが。

 もっとも、気を抜ける状況でもない。

 いつ、何が起きるかわからないのが、生存戦争。

 そのことを頭の片隅に置きつつ、無駄に気を張り過ぎないように心掛けている雪夜だが、現実でも無視出来ない変化が起こっていた。

 それは――


「……」


 朝食の席で、チラチラと顔を盗み見て来る朱里。

 本人は気付かれていないつもりかもしれないが、雪夜にはバレバレである。

 しかし、彼は指摘することなく、今まで平然とスルーしていた。

 SCOを撃退したニュースの中には、雪夜の姿も映っている上に、プレイヤー名まで明らかになっている。

 それゆえ、自分を知っている者なら気付いても何らおかしくないと、雪夜は思っていた。

 だが、今の彼女の態度に関しては、不可解に感じている。

 素直に問い質すこともなければ、素知らぬ顔をする訳でもない。

 常に雪夜のことを気にしており、登校中などは周囲に対する警戒もしていた。

 彼はまるでボディガードに守られている気分だったが、朱里からすればまさにその通り。

 ガルフォードの策略を知った彼女は、可能な限り雪夜の傍に張り付き、襲撃に備えていた。

 登校時だけではなく、休み時間にも彼の教室を訪れ、昼食もともに食べる。

 剣道部の練習があるので一緒に下校は出来ないが、終われば猛ダッシュで帰宅して、雪夜の無事を確認していた。

 そんな2人は、完全にカップルとして周囲に認識されているものの、雪夜は気にしておらず、朱里はそれどころではない。

 ただ、このままでは彼女の恋愛に支障が出ると考えた雪夜は、小さく咳払いしてから口を開く。


「朱里」

「何!? もしかして、誰かから何か言われた!? もしそうなら、一緒に警察に――」

「違う、そうじゃない。 と言うか、お前こそどうしたんだ? ここ最近、何か変だぞ?」

「え!? そ、そんなことないよー。 あたしが変なのは、いつものことだしー」

「……自分で言って、悲しくならないか?」

「う……。 と、とにかく! セツ兄は気にしなくて良いの!」

「気にするなと言われてもな。 そこまで露骨だと、どうしても気になる。 悩みがあるなら、俺で良ければ聞くぞ?」

「そ、そんなの……ありませんよ?」

「……何故敬語かつ疑問形なんだ?」

「も、もう良いから! ほら、遅れちゃうから行くよ!」


 逃げるように立ち上がった朱里が、パタパタと小走りで玄関に向かう。

 困った表情でその背中を見つめつつ、溜息をついてあとを追う雪夜。

 こうして幼馴染たちは、今日も並んで通学路を歩んだ。

ここまで有難うございます。

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