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第26話 新勢力

 ロランたちが脱落したあと、防衛時間を終えてすぐに、フレンとアリエッタはガルフォードの居城を訪れた。

 フレンは怒りの形相で、アリエッタは硬い面持ち。

 彼らが何をしに来たかは、語るまでもないだろう。

 大きめの扉を乱暴に開いたフレンが、断りもなく中に入り、目当ての人物を視界に収めた。

 王座のような椅子に腰掛けた、ガルフォード。

 両隣には、ニヤついたアルドとカインの姿もある。

 しかし、フレンは2人を完全に無視して、ガルフォードに言葉を叩き付けた。


「どう言うことだ?」

「いきなりだな。 何のことだよ?」

「とぼけるな! どうして、ロランさんたちは脱落した!? 貴様が何かしたんだろう!?」

「おいおい、とんだ濡れ衣だぜ。 あいつらを脱落させたのは、THOの連中だろ? 俺に当たんなよ」

「ふざけるな! THOが万全の態勢で待ち構えていたのは、情報が漏れていたからに決まっている! 貴様の仕業だろう!?」

「やれやれ、お前が俺を嫌ってるのは知ってるけどよ、いくら何でも決め付け過ぎじゃねぇか? ロランたちが牽制に行くのを知ってた奴なら、他にもいくらでもいるじゃねぇか。 大体、あいつらを脱落させて、俺に何の得があるってんだ?」

「……ロランさんたちが脱落すれば、エクスカリバーとフラガラッハの所持者が空白になる。 そうなれば、新たな使い手が現れるかもしれない。 そして、そのプレイヤーが貴様にとって都合の良い者なら、実質SCOを好きなように出来る。 違うか?」

「くく、妄想が過ぎるぜ、フレン。 確かに奴らがいなくなれば、エクスカリバーとフラガラッハが別の奴の物になる可能性はある。 けどよ、お前も知っての通り『レジェンドソード』を手に入れるのは、そう簡単なことじゃねぇ。 クソ強ぇモンスターを、死ぬほど狩らねぇといけねぇからな。 しかもそれが、俺にとって都合の良いプレイヤー? どんな確率だよって感じだぜ。 まぁ、そう言う奇跡も、起きるときは起きるかもしれねぇけどなぁ」

「貴様ッ!」


 怒りが限界に達したフレンは、抜剣するべく柄に手を掛けた。

 自分ではガルフォードに敵わないとしても、このまま済ませることは出来ない。

 対するガルフォードはニヤリと笑って立ち上がり、フレンを返り討ちにしようとして――


「いい加減にして下さい」


 アリエッタの凛然とした声が、割って入る。

 驚いたフレンは瞠目して振り返り、ガルフォードも意外そうな顔をしていた。

 だが、アリエッタは意に返すことなく、淡々と言葉を続ける。


「七剣星の2人を失ったんですよ? 仲間同士で争ってる場合じゃないです」

「アリエッタちゃん……でも……」

「フレンさんも、少し頭を冷やして下さい。 ロランさんとイヴさんの代わりにSCOを守れるのは、わたしたちだけなんですよ?」

「……ごめん」

「はは。 いつの間にか、随分と言うようになったじゃねぇか、アリエッタ。 テメェの言う通りだ。 他のタイトルに付け入る隙を与えねぇ為にも、ここは一致団結して――」

「それは無理です、ガルフォードさん」

「……何だと?」

「わたしたちは、貴方に対して不信感を持っています。 そんな状態で、一致団結なんて出来るはずがありません」

「アリエッタ、テメェ! 誰に向かって生意気な口を利いてんだ!?」

「黙ってろ、アルド」

「……ッ! ガ、ガルフォードさん、でも!」

「2度は言わねぇぜ?」

「……わかりました」


 アリエッタが無礼を働いたと感じたアルドは噛み付いたが、ガルフォードは静かに窘めた。

 他方、カインも射殺すような視線を、彼女に突き刺している。

 しかし、アリエッタが動じることはなく、真っ向からガルフォードを見据えていた。

 それを受けた彼は表情を引き締め、探るように問い掛ける。


「アリエッタ、テメェの考えはわかった。 だが、どうする? 仲間同士で争ってる場合じゃねぇって言ったのは、テメェ自身だぜ?」

「はい。 ですから、完全に役割を決めましょう。 わたしたちは、ロランさんたちの分も防衛を担当します。 侵攻に関しては、そちらで勝手にして下さい」

「……なるほどな。 手を取り合っての協力はしねぇが、あくまでもSCOの為になら戦うってことか」

「そう言うことです」

「フレン、テメェはどうなんだ? アリエッタと同じ考えか?」

「……正直な気持ちを言うなら、今すぐ貴様を斬りたい。 だが、SCOを存続させる為に、アリエッタちゃんの案に乗ろうと思う」

「そうかよ。 だったら、俺も乗ってやるぜ。 精々、ロランたちの代わりに働いてくれよ」

「言われるまでもありません。 行きましょう、フレンさん」


 そう言ってアリエッタは、踵を返して部屋を出て行った。

 そんな彼女をフレンは、ガルフォードを一瞬睨んでから追い掛ける。

 2人が去ったのを確認したガルフォードは、1つ溜息をついてから口を開いた。


「まったく、あの小娘。 なんか知らねぇがやる気出しやがって、メンドクセェ」

「ガルフォードさん! なんでアリエッタの言うことなんか聞いたんですか!?」

「うるせぇぞ、アルド。 仕方ねぇだろ? 実際、あいつの言う通りにするのが、最善なんだからよ」

「だからって、これじゃあガルフォードさんが舐められるんじゃ……」

「別に気にしねぇよ、カイン。 あんなガキどもにどう思われようが、俺の懐は痛まねぇんだからな。 それに、もうすぐ大会がある。 そのときになれば、嫌でもわかるだろうぜ。 誰がSCOのトップか、思い知らせてやるよ」


 嗜虐的な笑みを浮かべる、ガルフォード。

 彼の迫力に圧倒されたアルドとカインは、息を飲んでいた。

 彼らの反応に気付きつつ、ガルフォードが無視していると――


「お、来たな」


 ウィンドウが開き、着信を知らせるマークが表示される。

 相手はSCO運営である、鷺沼。

 ニヤリと笑ったガルフォードは、一切気負った様子もなく応答したが、相手の勢いは凄まじかった。


『おい、ガルフォード! いったいどうなっている!?』

「うるせぇな。 どいつもこいつも、いきなり怒鳴ってんじゃねぇよ」

『そんなことを言っている場合か! ロランとイヴが脱落したとは、どう言うことだ!? 説明しろ!』

「あぁ、あいつらとは何かとぶつかることが多かったからな。 やり易くする為に、邪魔だから退場してもらったぜ」

『な!? 馬鹿か、お前は!? 自分から主力を減らしてどうする!?』

「だから、うるせぇって。 俺だって、このままで良いとは思ってねぇよ」

『なら、どうするつもりだと言うんだ!?』

「なぁに、ちょっとテメェらの力を借りてぇだけだ」

『何だと……?』

「持ち手がいなくなったエクスカリバーとフラガラッハのドロップ率を、俺が手に入れられるように調整しろ。 そのあと、俺の息が掛かった奴らに渡して、新たな七剣星にしてやる。 フレンとアリエッタも、いずれ始末するつもりだ。 そうすれば、SCOを完全に牛耳ることが出来るからな」

『お前、最初からそれが狙いだったのか……』

「悪い話じゃねぇだろ? 今みたいに軋轢があるよりも、集団としては纏まりがある方が良い。 どの道、テメェらに選択肢はないはずだぜ? このままじゃ、SCOが危ういんだからな」

『ぐ……! 少し待ってろ……』


 ガルフォードに脅された鷺沼が、画面の向こうで何事かを操作し始めた。

 それを見たガルフォードは笑みを深め、計画が1歩進むことを確信している。

 ところが――


『む……?』

「あん? どうした?」

『いや……エクスカリバーとフラガラッハの所持者が、まだロランとイヴになっているぞ』

「何だと……?」

『バグか……? いや、それはない。 だったら、どうして……』


 1人でブツブツ呟き出した鷺沼。

 アルドとカインは顔を見合わせて、頭上に疑問符を浮かべている。

 しかし、ガルフォードは違った。


「あいつら、まさか……」

「どうしたんですか、ガルフォードさん?」

「……気にすんな、アルド。 取り敢えず、エクスカリバーとフラガラッハに関しては保留だ」

『じ、じゃあどうすると言うんだ!? 結局、七剣星を2人失っただけじゃないか!』

「慌てんなよ、鷺沼。 まだ5人も残ってんだ、大した問題じゃねぇ。 そもそも、SCOは他の4大タイトルより戦力が多かったんだ。 これくらいのハンデ、どうってことねぇよ」

『何を呑気なことを! どこにそんな余裕があると言うんだ!?』

「あー、うるせぇ。 取り敢えず、今日は失せろ。 また近いうちに指示を出すから、大人しく待っとけ」

『お、おい! ガルフォ――』


 鷺沼はまだ何か言おうとしていたが、ガルフォードは問答無用で通信を切った。

 その顔には厳しい表情が浮かんでおり、不安に思ったカインが声を掛ける。


「ガ、ガルフォードさん、大丈夫なんですか?」

「……誰に言ってんだ、カイン? 確かに予定は狂ったが、俺が負けるとでも思ってんのか?」

「い、いえ、そんなつもりは……」

「もう良い。 テメェらは、次の侵攻の準備でもしてろ。 そろそろCBOだろ? 油断すんなよ」

「ま、任せて下さい。 アルド、行こうぜ」

「お、おう」


 ガルフォードのただならぬ様子に違和感を覚えつつ、アルドとカインは逃げるように退室した。

 そんな2人を見送ることもなく、腕を組んで考え込むガルフォード。

 暫くそのまま静寂が続いていたが、唐突に彼は言い放つ。


「ロラン、イヴ……やってくれたな。 あくまでも、俺の言いなりにはならねぇってか。 くく……面白ぇ。 いよいよ俺も、本腰を入れねぇとヤベェかもな」


 誰にともなく声を落とした、ガルフォード。

 その瞳には、怪しく燃え盛る炎が宿っている。

 こうして第一星は、次第に動き始めるのだった。











 ガルフォードの居城をあとにしたアリエッタとフレンは、拠点である城下町に来ていた。

 防衛時間が終わったばかりである為、ここにいる理由はないのだが、なんとなくSCOプレイヤーはこの場所に集まる。

 クリスタルのところまでやって来たアリエッタは、無言でそれを見上げていた。

 彼女が何を考えているのかわからないフレンは、黙って背後に控えている。

 そのまま時計の秒針が3回転する頃になって、クリスタルを見たまま、ようやくアリエッタが口を開いた。


「フレンさん、頑張りましょうね」

「それは勿論だけど……本当に良かったのかい? 十中八九、ロランさんたちはガルフォードに……」

「わかってます。 わたしだって、納得した訳じゃありません。 でも、証拠がない以上、何を言っても無駄ですから」

「でも……」

「切り替えて下さい、フレンさん。 わたしたちには、ロランさんとイヴさんの代わりにSCOを守る、役目があるんですから」


 静かな声で紡がれるアリエッタの言葉を、フレンはどうしても消化出来ずにいた。

 だからこそ、ガルフォードを討つべく彼女を説得しようとして――気付く。

 アリエッタの体が、小刻みに震えていることに。

 ハッとしたフレンは慌てて彼女の前に回り込み、言葉を失った。


「……すみません。 こんなことじゃ駄目だって……わかってるんですけど……」


 顔をクシャクシャにして、とめどなく涙を流すアリエッタ。

 そのときになって、ようやくフレンは理解する。

 気丈に振舞っていた彼女が、本当は耐え難い苦痛を抱えていたことを。

 恐らく、ガルフォードに歯向かっていたときも、相当無理していたのだろう。

 そのことを察したフレンは、自分を殴り飛ばしたくなった。

 恐らく年下だと思われる少女が、ここまで自身を奮い立たせているのに、自分はいつまで引き摺っているのかと。

 奥歯を強く噛み締めたフレンは深呼吸し、アリエッタの肩に手を置いて、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「ごめん、アリエッタちゃん。 僕が間違っていた。 済んだことを嘆いても仕方がない。 これからどうやってSCOを守って行くか、2人で考えよう」

「フレンさん……」

「頼りないかもしれないけど……何かあったら、いつでも相談して欲しい。 少なくとも、キミにだけ負担を掛けるようにことには、絶対しないから」

「頼りないなんてことないです! フレンさんがいてくれたから、あたしは頑張ろうって思えるんです! だから、これからもよろしくお願いします!」

「……うん、よろしくね」


 なんとか笑顔を取り戻したアリエッタに安堵しつつ、フレンはややぎこちない笑みを浮かべた。

 彼女のことは決して嫌いではない――と言うよりは好ましく思っているが、どうしても女性そのものに対する苦手意識が強い。

 そうして2人が、何とも言い難い微妙な雰囲気を作っていると――


「フレンさん! アリエッタさん!」


 背後から、緊張した声を掛けられた。

 彼女たちが振り向いた先に立っていたのは、ロランとイヴに付き従っていたプレイヤーたち。

 正確な数を把握している訳じゃないが、生き残った全員が揃っていそうだと2人は思った。

 困惑した様子のアリエッタに対して、フレンも内心では動揺していたが、ここは自分が対応するべきだと考える。


「何でしょうか?」

「お2人に、頼みがあります」

「頼み?」

「はい」


 先頭に立っていた男性プレイヤーはそこで言葉を切り、仲間たちを振り返った。

 すると全員が力強く首を縦に振り、意志を示している。

 それを受けた男性プレイヤーも頷き返し、改めてフレンたちを見据えて言い放った。


「わたしたちを、配下に加えて下さい!」

「配下、ですか?」

「そうです! ロラン様とイヴ様を失った今、あの方たちの跡を継げるのはお2人しかいません! どうか、お願いします!」

『お願いします!』


 男性の懇願に追随して、他のプレイヤーたちも深く頭を下げた。

 一方のアリエッタはどうしたものか困っていたが、フレンは1つ息をついてから告げる。


「それは出来ません」

「な、何故ですか!?」

「僕たちとロランさんたちは、違います。 彼らと同じようにしろと言われても、無理です」

「そ、そんな……」


 フレンに拒否されたプレイヤーたちは、絶望したように俯いた。

 アリエッタとしても受け入れ難いとは思っていたが、彼らの様子を見て心苦しくなっている。

 それでも、フレンが翻意することはなく、冷然とした態度で立っていた――が――


「ですが、ともに戦うことは出来ます。 配下として従えるつもりはありませんが、仲間としてなら一緒に戦って欲しいです」

「……! そ、それで結構です! どうか、わたしたちを導いて下さい!」

「導くつもりはありませんよ。 あくまでも関係は対等です。 そのことを、忘れないで下さい」

「かしこまりました!」


 口ではわかっていると言いながら、ロランの軍勢だった者たちは、フレンを主と崇める気満々だった。

 そのことにフレンは嘆息しつつ、強く止めようとはしていない。

 彼は知らないが、ロランの軍勢の始まりも似たようなものだった。

 そして、このあとの展開も、ほぼ一緒。


「大変なことになりましたね、フレン様」

「そうだね、アリエッタちゃん。 ……今、何て言った?」

「え? 大変なことになりましたね……と言いましたけど?」

「いや、そのあとだよ」

「フレン様?」

「それだよ! なんで様を付けてるの!?」

「だって、わたしはフレン様の副官ですし」

「そう言うのやめてってば! 僕たちは対等な関係なんだから!」

「えー? でも、仮にも大勢を纏めるなら、ある程度指揮系統ははっきりさせた方が良くないですか? 皆さんもそう思いますよね?」


 アリエッタが新たな仲間たちに水を向けると、彼らは示し合わせたかのように頷いた。

 それを見たフレンは盛大に頬を引き攣らせたが、アリエッタはむしろ笑みを深めて言い放つ。


「と言うことで、改めてよろしくお願いしますね、フレン様!」

『よろしくお願いします、フレン様!』


 結局のところ、主に祭り上げられたフレン。

 なんとか覆そうと考えた彼だが、多勢に無勢。

 諦めたフレンは、頭痛を堪えるかのように額を手で押さえながらも、既に今後のことを考え始めている。

 なんだかんだ言いながら、やるとなったからには本気で取り組むのが、フレンと言う青年。

 こうしてロランの軍勢に代わり、フレンの軍勢が誕生した。

ここまで有難うございます。

面白かったら、押せるところだけ(ブックマーク/☆評価/リアクション)で充分に嬉しいです。

気に入ったセリフがあれば一言感想だけでも、とても励みになります。

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