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第24話 落星

 最初のGENESISクエストが終了して、早くも3日。

 今日もクリスタルを守っている雪夜たちだが、相変わらずCBOは平穏。

 ただし、少なからずプレイヤーたちに変化が生まれていた。

 GENESISクエストが、思った以上に厳しい内容だったのもあるが、傲岸不遜――に見える――な雪夜を目の敵にして、自分たちも強くなるべく躍起になっている。

 そのことにケーキとAliceは心を痛めていたが、彼自身はそれで良いと思っていた。

 自分が孤立しているのは元からなのだから、今更何を感じることもない。

 本心はともかく、表面上そう考えていた雪夜は今の立場を受け入れ、CBOが生き残ることを最優先にしている。

 一方でケーキはAliceに頼み込んで、ライズクエストに連れて行ってもらい、着実にレベリングを進めていた。

 彼女にとってAliceに頭を下げるのは、屈辱でしかなかったが、それで雪夜に並べるなら、プライドなどいくらでも捨てる覚悟。

 ケーキの想いを受け取ったAliceは快く承諾し、防衛が終われば2人でライズクエストに行くのが、日課となりつつある。

 ゼロとはあれ以降会っておらず、ケーキたちに話してもいない。

 現時点では戦力として数え難い彼を、当てにする訳には行かないからだ。

 そうして21時を回り、今日も残り1時間が切った辺りで、それは起こる。


「ど、どうなってんの、これ!?」

「わかんねぇよ! まさか、SCOがいきなりTHOに攻め込んだのか!?」

「それにしては、戦力が半端過ぎるよ! このままだと、全滅じゃない!?」


 周囲のプレイヤーの声が耳を通って脳に情報が届いた瞬間、雪夜は素早くウィンドウを開いてアプリを立ち上げた。

 そこに映っていたのは、確かにSCOとTHOの戦い。

 だが――


「妙だな……」

「せ、雪夜くん、何が妙なの?」


 険しい顔をした雪夜の呟きに、Aliceが困惑して問い掛ける。

 ケーキも平常心を失っているようで、何が起きているのかわからないらしい。

 彼とてそれは同じだが、大きな違和感があった。


「第二星と第三星が攻め込んでいることにも驚いたが、THOを落とすには戦力が足りなさ過ぎる。 いくら彼らでも、勝ち目はない。 そんなことがわからないはずはないんだが……」


 そこで言葉を切った雪夜はハッと目を見開き、別のウィンドウを開く。

 彼の様子にケーキとAliceは顔を見合わせていたが、構わず操作を続けた。

 そうして表示した画面には、録画された映像が流れており、開戦当初の様子が映し出されている。

 それを見た雪夜は全てを察し、苦々しい表情で声を絞り出す。


「はめられたのか……」

「どう言うことですか、雪夜さん?」

「第二星と第三星は、誰かの策略にはまったようだ。 THOには恐らく、牽制程度の目的で向かったんだろうが、そこを大軍で待ち伏せされたらしい。 完全に動きを読んだ上での行動で、情報が漏れていたとしか思えないな」

「それって……裏切者がいるってこと!?」

「THO側が、何かしらの手段で情報を入手した可能性もあるが……その可能性は低くない。 いずれにせよ、第二星と第三星はここまでかもしれないな」


 録画の方のウィンドウを消した雪夜は、厳しい顔でリアルタイムの配信を眺める。

 ケーキとAliceも緊張した顔付きで、この戦いの結末を見届けようとしていた。











「皆の者、狼狽えるな! 安全エリアまで撤退すれば、我らの勝利だ! それまで、何としてでも生き残れ!」


 イヴの叫びに従って、ロランの軍勢が少しずつ退却を始めている。

 しかし数の差は歴然で、次第に脱落するプレイヤーが増えて行った。

 更にロランたちにとって不利に働いているのは、SCOとTHOのゲームコンセプトの違い。

 ここでTHO、【テクノ・ヘヴン・オンライン】の基本情報を紹介しておこう。

 近未来的な世界観で、彼らが今いる場所もSF色の濃い空間。

 オーバーテクノロジーな兵器で戦えるのが、人気の秘訣。

 アバターはロボットのような姿で、自分の体も含めて、様々なパーツで武装を組み立てられる。

 FPSゲームのように、多人数対多人数のPVPが主流だ。

 PVPの大会も行われており、賞金も出るが、SCOほど高額ではない。

 大雑把な特徴は以上の通りだが、何が問題かと言うと、THOの武器は銃火器が主流だと言うこと。

 接近すればSCO側に有利な反面、このような退却戦を強いられている場合、THOからすればほとんど的でしかない。

 実弾銃、レーザー銃などを始めとして、様々な遠距離武器がロランたちを襲っていた。

 それでも必死に2人は、仲間たちを生かそうと奮闘していたが――


「……ッ!? ぐ……!」

「イヴ!?」


 遥か彼方から飛来したレーザーがロランを貫く寸前、割って入ったイヴが彼を庇って被弾する。

 既にHPゲージがかなり減っていた彼女は、その一撃で戦闘不能になった。

 倒れたイヴを抱き起したロランは、消えゆく彼女の手を握り、はっきりと言い切る。


「イヴ、ここまで良くやった。 あとは任せろ」

「……はい。 ロラン様……ご武運を……」


 最後に笑みを見せたイヴが、脱落して姿を消した。

 歯を食いしばったロランは立ち上がり、柳眉を逆立てて突撃を敢行する。


「おぉぉぉぉぉッ!!!」


 鬼神の如き強さを誇る彼によって、多くのTHOプレイヤーが斬り捨てられ、その間に仲間たちを逃がしていた。

 だが、この数を相手に逃げ切ることが至難だと結論付けたロランは、大声を張り上げる。


「Zenith! いるんだろう!? わたしと取引しろ!」


 突然のことに、CBOプレイヤーもTHOプレイヤーも驚いており、戦場が一時休戦状態になった。

 暫くは、誰も何も言えなかったが――


『俺のことを知っていたか。 流石は第二星と言っておこう』


 力強い男性の声が、空間に響いた。

 それを聞いたロランは一縷の望みに懸けて、慎重に言葉を紡ぐ。


「イヴを撃ったのは『God Weapon』の1つ、『Brionac』だ。 そして、その使い手はTHOトップチームである、TETRAのリーダーZenith。 それくらいのことは知っている」

『ほう……。 思ったよりも詳しいじゃないか。 やはり、侮れんな』


 ロランの言葉を聞いて、Zenithが感心したよな声を漏らす。

 THOの装備入手難易度はCBOほどではないが、この『God Weapon』だけは別で、『レジェンドソード』と同等だ。

 全部で4種類あり、そのうちの1つが『Brionac』。

 射撃系武器が多いTHOの中でも群を抜いて射程が長いが、扱いが難しく、精確に当てるには相当な技量が必要。

 そんな武器を完全に使いこなしているのが、Zenithと言うプレイヤー。

 『God Weapon』を持つ4人で結成されたチーム、TETRAのリーダーでもある。

 ロランもまさか、ここまでの大物が出て来るとは思っていなかったが、だからこそチャンスがあるとも思っていた。


「そちらこそ、直接話さずにアイテムを介することで居場所を隠すとは、冷静だな」

『何せ相手が第二星だからな、どれだけ警戒してもし過ぎと言うことはない。 それより、そろそろ取引とやらの内容を聞こうか。 言っておくが、今はそちらが圧倒的に不利だと言うことを忘れるなよ?』

「わかっている。 こちらの要求は1つだ。 なんとか、この場を見逃してくれないか?」

『それは無理な相談だ。 今ここでお前を逃がせば、何の為に備えていたかわからない。 第三星を落とせたのは大きいが、やはりお前もここで潰しておく』


 ロランの要求を、Zenithは一蹴した。

 そして、話は終わりとばかりに引き金に指を掛けたが、彼はまだ希望を捨てていない。


「早合点するな。 見逃して欲しいのは、わたし以外のSCOプレイヤーだ。 わたしの首はやる」

「ロラン様!?」

「黙っていろ」

「……ッ! はい……」


 近くにいた仲間が悲痛な声を上げたが、ロランは顔すら向けず一言で黙らせた。

 対するZenithは逡巡していたが、やがて答えを出す。


『駄目だな。 お前も他の奴らも、ここで脱落してもらう』

「どうしてもか?」

『どうしてもだ。 そもそも、俺たちに利点がないだろう?』

「そうとは言い切れないぞ」

『何?』

「お前たちがどうしても見逃さないと言うのなら、わたしたちは最後まで抗い続ける。 その場合、負けるのはわたしたちだろう。 だが、そちらもただでは済むまい。 そうなれば、今度はMLOやBKOに狙われるぞ?」

『……なるほどな』

「どうする? SCO最大軍勢の特攻、受けてみるか?」


 ロランが言い放つと同時に、SCOプレイヤーたちが決死の表情で武器を構える。

 全員が差し違える覚悟を持っており、強烈な気迫を感じた。

 それを受けたTHOプレイヤーも緊迫した空気を纏い、まさに一触即発。

 そうして、勝敗の決している死闘が、繰り広げられようとして――


『わかった、飲もう』


 Zenithの一言が遮る。

 今まさに駆け出そうとしていたSCOプレイヤーが立ち止まり、THOプレイヤーは引き金から指を離した。

 なんとか事態が鎮静化したのを察したロランは、内心で嘆息してから告げる。


「行け」

「で、ですが、ロラン様……」

「わたしの苦労を無駄にする気か?」

「……かしこまりました」


 涙ながらに撤退して行く、SCOプレイヤーたち。

 その後ろ姿を見送ったロランは微笑を浮かべ、装備を地面に放りながら声を発する。


「感謝する、Zenith」

『礼には及ばん。 どちらが得か、考えた結果だからな』

「だとしても、仲間を生き残すことが出来て、わたしは満足だ。 ……いつでも良いぞ」

『その信念、尊敬に値する。 第二星ロラン。 お前の活躍は、THOでも語り継がれるだろう。 ……さらばだ』


 敵同士ではあるが、確かに彼らは認め合った。

 しかし、これはゲームであっても戦争。

 躊躇うことなく『Brionac』の引き金を引いたZenithが、ロランの胸を打ち抜き――SCOの第二星は脱落した。

ここまで有難うございます。

面白かったら、押せるところだけ(ブックマーク/☆評価/リアクション)で充分に嬉しいです。

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