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第19話 悲しい役回り

 町に帰って来た雪夜たちは、真っ先に周囲の喧騒を感じた。

 大きく分けると2パターン。

 1つは、ジェネシス・タイタンに挑むべく、最終確認をしているパーティたち。

 もう1つは、状況を窺っているのか、どことなく落ち着きをなくしている者たち。

 その様子をひとしきり眺めた雪夜は、平坦な声でケーキたちに告げた。


「じゃあ、あとは頼んだ」

「わかったけど……雪夜くんは本当にそれで良いの?」

「俺から言い出したことだ。 良いに決まっているだろう、Alice」

「ですが、それでは雪夜さんが……」

「気にするな、ケーキ。 俺は最初から、そのつもりだった。 さぁ、他のパーティが出発する前に、行って来てくれ」


 その言葉を置き去りに、少女たちに背を向ける雪夜。

 そんな彼を2人は黙って見つめていたが、やがて自分たちの役割を果たすべく足を踏み出す。

 彼女たちが向かったのは、いつの間にかプレイヤーが集まる場所となった、クリスタルだ。

 GENESISクエストの期間は、侵攻の心配がないにもかかわらず、今日も大勢の人影が見える。

 それを確認したAliceはケーキと顔を見合わせ、大声を張り上げた。


「はい! ちゅうも~く! ジェネシス・タイタンの情報を教えるから、集まれる人は集まって~!」


 Aliceの呼び掛けを聞いたプレイヤーたちは驚きつつ、大慌てで殺到する。

 まさに挑もうとしていたパーティも、様子を見ていたパーティも関係ない。

 誰しもが、少しでも情報を欲している状況だった。

 これこそ、雪夜が2人に頼んだこと。

 出来る限りのプレイヤーを救う為に、ジェネシス・タイタンの情報を共有する。

 特に最後の3連コンボに関しては、知らなければ多くの犠牲者を出したはずだ。

 可能ならクエストの様子を録画したかった雪夜だが、試そうとしたところGENESIS側に防止されていた。

 他のプレイヤーに興味はないが、戦力が減るのは困る――と言うのが、彼の主張。

 しかし、ケーキたちはそれが本心ではないと、気付いていた。

 そうして、あらかたプレイヤーが集まったのを確認したAliceは、丁寧かつわかり易く説明を始める。

 ケーキは基本的に黙っていたが、時折補足していた。

 また、他の『剣士』の参考にするべく、ジェネシス・タイタンの攻撃をガードする、タイミングを伝授する。

 これによって、ジャストガードは無理でも、ガードの成功率は格段に上昇した。

 こうして情報を得たプレイヤーたちは、Aliceたちに感謝を告げて去って行く。

 士気が高くなり、最終的にCBOプレイヤーが脱落した割合は、全ゲームで最も低くなるのだった。

 ただし――


「いや~、やっぱAliceちゃんは天使だな! 強くて可愛い上に、優しいと来たら完璧だろ!」

「ケーキちゃんも忘れるなよ? 冷たい雰囲気だけどよ、しっかり手助けしてくれたじゃねぇか!」

「本当だよね! どうなることかと思ったけど、今なら行けるかもって思えるよ!」

「それに比べて、ベルセルクは薄情だよなぁ。 まぁ、あいつにそんなこと期待してねぇけど」

「だな。 最強のベルセルク様には、俺たち庶民の気持ちなんてわからねぇって」

「どーせ、自分だけでも残れば良いとか思ってんじゃない? あたしたちのことなんて、どうでも良いのよ」

「くそ! 腹立つなぁ! こうなったら意地でも生き残って、あいつを見返してやろうぜ!」

「そうだよ! あたしたちだって、伊達に高難易度ゲームをしてるんじゃないって、思い知らせてやろう!」


 雪夜に対するCBOプレイヤーの感情は、悪化の一途を辿っている。

 これも彼の狙いで、自分への対抗心をプレイヤーのやる気に繋げられるかもしれないと考えていた。

 その思惑は成功した訳だが、なんとも悲しい役回りである。

 雪夜の悪口を聞いたケーキは、咄嗟に反論しようとしたが、Aliceに肩を掴まれた。

 振り向いたケーキは離すように言おうとして――気付く。

 涙目になったAliceの手が、悔しさから震えていることに。

 彼女が必死に我慢していることを察したケーキは、沈痛な面持ちで言葉を飲み込んだ。

 向かい合って俯いた少女たちを、暗澹たる空気が包み込む。

 互いに何も言えず、気まずい沈黙が落ちていたが、先に口火を切ったのはAlice。


「ケーキちゃん、クエスト行かない?」

「……どうしてですか?」

「今からレベリングするんでしょ? 手伝ってあげる」

「必要ありません。 わたしは1人で――」

「そんな場合? 次のGENESISクエストがいつか、わからないんだよ? 侵攻だって、もうすぐ来るかもしれないし。 ケーキちゃんには、少しでも早く強くなってもらわないと困るの。 レベリングのあとには、装備掘りもあるんだからね?」

「……わかりました。 甚だ不本意ですが、同行を許可します」

「うわ! それが手伝ってもらう人のセリフ!? ホント、可愛くない!」

「別に貴女に、可愛いと思ってもらいたくありません。 わたしは……せ、雪夜さんにだけ……」

「わー! わー! 聞きたくない! もうわかったから、行くよ! いつもはどこでやってるの?」

「……草原の狩場です」

「まぁ、そうなるよね。 でも、それだとそろそろ厳しくない?」

「ですが、あそこ以上に効率の良い場所は……」

「だから、手伝ってあげるって言ってるじゃない。 ライズクエストに行こう!」

「……! わたしは鍵を持っていませんが」

「あたしが持ってるよ。 今のところ他の職業する気ないし、奢ってあげる!」


 にこやかな笑みを湛えるAliceに、不審そうな目を向けるケーキ。

 ライズクエストとは、いわゆる経験値稼ぎに特化したクエストだ。

 ドロップなどはほとんど期待出来ない反面で、莫大な経験値を短時間で獲得可能。

 だが、受注するには『ライズキー』と言う特殊なアイテムが必要で、無制限に行ける訳ではない。

 そして『ライズキー』は、運営から稀に配布される貴重なアイテムで、ユーザー間で高値で取引されている。

 それにもかかわらず、奢ると言うAliceに裏を感じたケーキは、かなり警戒していた。

 対するAliceは苦笑し、自身の想いを伝える。


「随分と疑ってるみたいだけど、別に何もないよ? どうしても納得出来ないって言うなら、ちょっと質問させて欲しいかな」

「……何が聞きたいのですか?」

「う~ん……ケーキちゃんが、CBOに拘る理由とか。 前にもちょっと聞いたけど、良くわかんなかったんだよね」


 Aliceの問に、ケーキはどう答えるか迷った。

 彼女に借りを作りたくはないが、まさか自分の正体を明かす訳には行かない。

 そこでケーキは、今回も曖昧に済ませる。


「わたしにとってCBOは、貴女にとっての家……そんなところです」

「CBOが家……? やっぱり良くわかんないな~。 でも家なら、最悪引っ越しすれば良くない?」

「では、言い換えましょう。 世界、あるいは地球でも良いです。 とにかく、掛け替えのない居場所と思って下さい」

「ケーキちゃん……いくらなんでも、はまり過ぎだと思う。 もう少し、現実も大事にしようよ~」


 このときAliceは冗談半分だったが、半分は間違いなくケーキを想っての言葉だった。

 ところが――


「貴女にわかって欲しいとは言いません。 ただ、紛れもなくCBOは、わたしの唯一の居場所なのです」


 どこまでも真っ直ぐな眼差しでAliceを見据え、断言するケーキ。

 彼女の気迫に押されたAliceは息を飲み、否応なく真剣さを痛感する。

 理解は出来ないが、それでもケーキの覚悟は本物だ。

 そう感じたAliceは1つ溜息をついて、困ったような笑みで宣言する。


「りょーかいだよ、ケーキちゃん。 だったら、あたしも本気で頑張る! 何が何でも、CBOを勝たせようね!」

「……どう言う風の吹き回しですか?」

「別に? あたしだってCBOは好きなんだから、残って欲しいのは一緒ってだけだよ」

「他のタイトルに移っても良いと、言っていませんでしたか?」

「最悪はそうだけど、続けられるなら続けたいもん。 それに雪夜くんと一緒なら、本当に生き残れるかもって思えたし」

「……雪夜さんに頼り切る訳には行きません」

「当然だよ。 だから、その為にもケーキちゃんは強くならないとね。 いくら実力があっても、レベル差とか装備の差は大きいんだから」

「言われるまでもありません。 良いでしょう、そこまで言うなら奢られてあげます」

「わ~……。 清々しいまでの上から目線だね~……。 まぁ、良いや。 行こう!」


 そう言ってAliceはウィンドウを操作し、ケーキにパーティ申請を送る。

 彼女と2人きりと言う事実に、一瞬ケーキは逡巡しつつ、最終的には合意した。

 それを確認したAliceはニコリと笑い、『ライズキー』を使用してクエストを受注する。

 そうして、少女たちがレベリングに精を出していた頃、雪夜は自身のやるべきことに集中していた。

ここまで有難うございます。

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