世界を救う旅を終えて両想いになったらと思ったら彼氏がモテすぎる件について
皆様はじめまして。
私はシエラ=ロベラッティ。19歳。
もともとはそこらへんにいる普通の女の子でした。
3年前、ある日、ひょんなことから世界を救う勇者の1人に選ばれ、7人の仲間と世界中を旅をしてきました。
なんだかんだあってまぁ世界は無事で、私たちの旅も終わったわけです。
そして、仲間のうちの1人、クラウドと、その、めでたく、お付き合いをはじめたわけなのですが……。
「良い飲みっぷりだ兄ちゃん!! ほらこれも飲め!!」
「今日は大活躍だったからな、俺たちのおごりだ、たくさん食べろよ!!」
どうしてこうなるのーーーー!!!!
◆◆◆
世界を救う旅を終えて、少し前から私たちは冒険者として2人で世界各地を回っていた。
クラウドは剣士、私は魔法使いとして。
ただし私は回復系の魔法はまだ使えないので、ヒーラーというより、こう、爆発担当というか、陽動担当というか。
クラウドはもともと剣の腕は立つし、魔法と組み合わせた攻撃もできる。
そして、悔しいが、顔が良い。
すっと通った鼻筋に、切れ長の目と深緑の瞳は年齢に似合わぬ落ち着きをたたえている。
服の上からではあまり分からないが、均整の取れた体つきをして……いやいや、別にいやらしくないし。
で、話を戻すと、色々な町に立ち寄っては、冒険者ギルドに登録をして、魔物退治をしている。
正直、ある程度の難易度であれば2人でいけちゃうんだけど、難易度の高い仕事に挑むパーティーに助っ人として入らせてもらって、高難易度の仕事も請け負っている。
そして今日も、森に出る狼の群れとスライムの討伐に出ていた。
それぞれは大したことはないが、いかんせん数が多いらしく、複数のパーティーが参戦している。
今回は私たちと、他2組。
街の商工会に所属しているマッチョなおじさん4人組と、それから私たちと同じように冒険者をしている男女5人組。
今私たちは、狼の群れがいる洞窟にチームとして向かっていた。
「ねぇクラウド、大丈夫かな」
一応ギルドで打ち合わせをしたとはいえ、いやむしろ打ち合わせをしたからこそ私は心配なのである。
「そうだな、今回は狼の素早さに対応することと、スライムの隠密性への対応が全然別物だからな」
「いや、うん、まぁ……そう、だね」
あーーークラウド!! あんたは何も!! 分かっちゃいない!!
私は持っているロッドを思わず振り回しそうになったが、悔しいので我慢。
するとクラウドは何かを勘違いしたのか、ふっと笑って、
「まぁ今回は群れが洞窟にいるから、お前の爆発技は使えないから気をつけろよ」
頭をぽんぽんと撫でてきた。
ぶわわわわわわ、と私の顔が一気に熱くなるのが分かった。
世界を救う旅の時にはこんなことなかったのに、いざ、好き合っていると分かってから、クラウドはこういう何気ないことをさらっとやってくるようになったのだ。
心臓に悪い~~ドキドキする~~顔が良いことを自覚しろ~~!!
心の中で恨み言を思いつつ、しかーし私は忘れていない。
「あ、あの、シエラさん。一緒に頑張りましょうね」
そう、コイツよコイツこの女。
私の横にすっと来てはにかむ、眼鏡をかけたピンク髪のおさげの女。
たしか年は私の1つ下で、18歳。冒険者パーティーの一人で同じく魔法使い。
水魔法と回復魔法が得意らしく、今回は援護を担当してくれる手筈だ。
私は引きつった笑顔を張り付けて、
「よ、よろしく」
と返すのが精いっぱいだった。
私は現在、猛烈にこのおさげの女を警戒している。
なんでかって? ギルドで打ち合わせしてた時からこの女がずーっとクラウドのことばっかり見てるからだよ!!
「そういえば、クラウドさんは騎士団にも所属していたそうですね」
「あぁ、そうだが」
「騎士団って、入団の試験とかも結構厳しいって聞きますけど、大変なお仕事じゃありませんでしたか?」
「あまりそう感じたことはないが。あんたらも冒険者やってると命の危険だってあるだろうよ」
「それはもちろん。でも、私のいた街は騎士団の皆様のおかげで、こうした魔物の被害も少なったですから」
ゆったり優しい声に私も思わず癒される。癒されるけど騙されないぞ。
心の中で勝手に牙をむいておく。
クラウド~、デレデレするなよ~、したら怒るぞ~。
という気持ちで視線を送るが、あの男これっぽっちも気づいてない。
私が敵愾心むき出しでいると、もう一人、今度は違う意味で敵愾心むき出しな男が現れた。
「はっ、そんな騎士様がまたなんで冒険者なんかやってるんだか。どうせ何かやらかしたんだろ」
後ろから憎まれ口を叩いてきたのは、このおさげ女のパーティーのリーダーだ。
名前は全く憶えていないが、この男は20歳でクラウドと同い年。打ち合わせの時からなぜかクラウドを目の敵にしている。
「もう、どうしてそんな喧嘩を売るような言い方するの」
おさげ女がたしなめるが、リーダー男はどこ吹く風で話を続ける。
「エリートぶりやがって。大体、高難易度の仕事ばっかり請け負ってるらしいじゃねーか。そんなに実力をひけらかしたいのかね」
お、コイツ威勢が良いな。などと思ったが、私がこういう喧嘩を買うとあとでクラウドに怒られるので今は黙っておく。むかつくけど。
こりゃクラウドの様子をうかがうか~と彼の顔を見る。
クラウドは眉一つ動かさないでまっすぐ前を見たまま口を開いた。
「悪いな、どうしても今は金が必要なんだ」
さらっと何事もないように言う。
くぅ、さすがクラウド。
あ、おい、おさげ女お前も今かっこいいとか思っただろ顔に出てるぞ。あれ私のだからな。
しかしリーダー男も負けじと言い返す。
「エリートも金に困れば荒稼ぎするってか。そうはなりたくないもんだな」
お、これはやけに突っかかってくるな。どうしたものか、と思ったが、リーダー男の横にすっと別の仲間がきた。
「おいおい、その辺にしておけ。気を悪くさせてすまない」
リーダー男の肩をなだめながら、クラウドにそう声をかけてきた。がたいの良い、柔和な顔つきをしている単髪角刈り風の男だ。
「いや、気にしていない」
クラウドもまた本当に気にしていない顔でさらっと言うので、柔和男はほっとしていたが、リーダー男はまだ怒り心頭といった感じだった。
まぁ、などと私の心中穏やかでない間に、だいぶ森の奥に来たらしく、先頭を歩いていた商工会マッチョおじさん4人の足が止まった。
「さぁ若い奴ら、そろそろ仕事だ。しゃきっとしろよ!」
◆◆◆
狼の群れの巣となっている洞窟の入り口をあと500メートルというところに、私たちはそれぞれ配置につく。
今回は狼の数が増えすぎているので駆除が目的だが、殲滅ではない。
森には森の生態系があり、狼が完全にいなくなってしまうと生態系にも影響が出る。
また、スライムも貴重な資源だし、こちらも数が多いのは問題だが、森や洞窟の掃除屋という側面もある。
そんなわけで洞窟の周りに罠をしかけつつ、魔法でおびき寄せ、罠にかかった狼や漏れた狼を駆除するのが今回の仕事となっている。
ぶっちゃけ私が洞窟ごと爆発させちゃえば殲滅はできちゃうんだけど、それは今回の仕事ではできないというわけだ。
そして狼は警戒心も強い。
巣の周りに知らない匂いが近づいているのを感じとったのか、洞窟から数匹様子を見に出てきた。
狼の毛並みは灰色ではなく、燃えるような赤に近い。
「あれは炎の魔狼だな。口から火を噴くから気をつけろよ」
クラウドが小声でささやく。
こういうときは大体、考えなしに行動するなよ、と釘を刺しているつもりらしい。
「作戦どおり、俺たちが魔法で罠をしかける。誘導と陽動は任せたぜ」
おじさん達の合図で、それぞれ配置につく。
私たち援護組は、狼や動物が好きな匂いを風魔法で周囲に漂わせ、洞窟の中からおびき出す。
出てきたところをおじさん達が罠の魔法を使い、クラウド達前衛が対処する。
ただし、匂いの魔法を使うと他の魔物やスライムもおびき寄せてしまうのが難点なのだ。
けっこう、狼に集中していると後ろとか上からスライムに襲われてとんでもないことになったりする。
「さて、と」
私もロッドを握りしめる。正直細かい魔法のコントロールはまだ全然できないので、この触媒の力を借りてなんとかやっているところなのだ。
洞窟の入り口に面した少し高い崖に陣取ったおじさんのリーダーが合図を出した。
私たちはいっせいに魔力をこめ、においを風に乗せる。
すると哨戒していた狼たちが私たちのにおいと魔力に気づいたのか、警戒態勢になった。
身を低くし、逆毛立ち、吠え始めた。
しかし仲間の警戒をよそに、洞窟の中からはぞろぞろと狼たちが出てきた。
報告によると、群れの数はおよそ100匹。
普通、狼の群れは10匹前後。
それだけの群れを従えられるということは十分な食料があり、強いリーダーシップのある狼がいるということだ。
しかし、洞窟から姿を現したのは10数匹。リーダーらしき狼もいないし、もう少しおびき出したいところだが、そうは問屋が卸さないというわけだ。
「うわっ!!」
冒険者パーティーの一人の叫び声が聞こえた。
そちらの方角を見れば、なんと巨大なスライムが三匹、彼を取り囲んでいた。
彼はスライムを倒すために爆発魔法を繰り出してしまった。爆発音と炎が上がり、狼たちも一斉にそちらに走り出す。
「アンドリューさん!」
おさげ女の悲鳴に似た声と、彼女の手から放たれた水魔法が狼の一匹を吹っ飛ばした。
その場にいた全員に一気に緊張が走る。
完全に狼たちにこちらの位置もバレたし、茂みに隠れているほかのメンバーの居所も気取られただろう。
私もロッドを構え直す。スライムに囲まれているだけならまだしも、魔法使いが狼まで相手にするのはさすがに死んでしまうだろう。
しかし、それは杞憂だった。
「クラウド!」
視界を深緑の風が通り過ぎた。正反対の配置にいたはずの彼は、すでに狼たちに向かって突っ込んでいた。風のように、雷のように、疾風迅雷とはまさにこれ。
狼と男性の間に割り込み、一気に狼たちを切り上げ、薙ぎ、袈裟斬りにしていく。
私もあっけにとられている場合ではない、ここは一気に畳みかける。
「ファイア・ボール!」
ロッドの先端から魔力を込めてぶっ放す。一発撃つごとに場所を変えるために走る。
そしてクラウドを援護しつつ、洞窟の入り口付近も狙う。罠が使えない、匂いで誘導ももう出来ない以上は、洞窟の中から狼をあぶりだすしかない。
商工会マッチョのおじさんも同じように考えたのか、罠を張る位置から剣を手に前衛に出てきた。
「一気に畳みかけるぞ!」
クラウドの掛け声に鬨の声が上がる。そして――。
◆◆◆
「つーかーれーたー」
酒場のテーブルに突っ伏しながら、私は駄々をこねた。
「ま、今日の判断はよかったと思うぞ。お転婆もせずに偉かったじゃねーか」
「うるさいうるさい、結局最後の方に出てきたボス狼はなにあれ!! なんであんな大きいわけ⁉ あんな巨体がどうやって洞窟に隠れるっていうのよ! あいつ無駄に硬いし!!」
むかっ腹が立って麦酒を思い切り流し込む。仕事のあとはやっぱこれだわー!
ごくごくと飲んでいると、クラウドが呆れ顔でじっと見てきた。
「あんま飲むなよ」
「なんでよ」
「なんでもだ。お前こないだ酔って変な男に絡まれてただろ」
「えぇ? そんなこと……」
あるような、ないような。
大体仕事終わりにご飯とお酒をしていると、絡まれるのは大体クラウドの方だ。
獅子奮迅の動きをするもんだから、男も女も――。
「お、やっぱりお二人さんここにいたかー!」
ほらきたー!
私はお決まりの展開にまたテーブルに突っ伏す。
商工会マッチョおじさん4人組と冒険者パーティーご一行様が連れ立って酒場に現れた。
「仕事終わったらギルドからさっさといなくなっちまんだもんな。探したぜー」
「悪かったな。次の街への移動の準備もあったんだ」
「お前らもう移動するのかー⁉」
「もうちょっと俺たちとこの町で仕事しようぜ」
「そ、そうですよクラウドさん! 次回も一緒にパーティー組みましょうよ!」
ワイのワイのワイの。
もちろんずっと2人で旅をしているので、2人きりの場面も多い。
が、なんだかんだ仕事のあとはパーティーを組んだ人と食事をすることも多い。
もちろーん、私だってそれが楽しい時もある。むしろ多い。
でも、こう、今回みたいに明確にクラウドに気があるだろう女と一緒ならば話は違う!!
「今日は大活躍だったからな、俺たちのおごりだ、たくさん食べろよ!!」
マッチョなおじさんのリーダーが威勢よく乾杯する。
私ももちろんしっかり乾杯する。ぐいっと麦酒を飲み干す。
「お、良い飲みっぷりだ! さすがあんな景気の良い魔法使いは違うもんだな!」
「いやいや、私の爆発はあんなもんじゃないのよ。もっとドカーンとできるんだから」
「はぁー、そりゃまた次回の仕事にお目にかかりたいね」
おじさんたちと景気よく話し始めたその瞬間、私は見逃さなかった。
そう、おさげ女がさりげなくクラウドの隣に座ってきたのだ。マッチョおじさん、私、クラウド、おさげ女という具合になった。
「本当にクラウドさんもお疲れ様でした」
すっとおさげ女が麦酒を注ぐ。こいつ、できる。
「いや、ほんとに、クラウドさんのおかげで助かりました」
向かいに座っている冒険者パーティーの魔法使いのひょろ長男性がクラウドにお礼を言う。
「俺、まだ実は実践経験が少なくて。今日も足を引っ張ってしまったのではないかと」
ひょろ長くんは恥ずかしそうに頭をかきながら、ぺこぺことしている。
どうやら本当に実践経験が少ないようだが、そんなのはみんなが通る道。自慢じゃないが私も元々一般人。戦いなんて非日常な普通の女の子だったのだ。気持ちはわかる。
「あの状況じゃ戦わざるを得ない。それに、スライムにすぐ気づけたのは大きかった」
「そうだぜ、兄ちゃん。初心者はスライムに気づかないで後ろからパクり、なんてしょっちゅうあるからよー」
うんうん、私はそんな経験ないけど。
むしろスライムが出るのはこのあたりだけだから、場所によって初心者が引っかかる落とし穴は違うだろうけど。
そんなこんな談笑をしつつ、気づけば皆酒が進み。
「良い飲みっぷりだ兄ちゃん!! ほらこれも飲め!!」
そしてクラウドはどんどん酒を飲まされていた。
ほんのり耳が赤くなっているが、割といつも通りの顔で彼はどんどん麦酒を飲んでいく。
世界を救う旅をしているときには、こんな風にお酒を飲むこともなかったから知らなかったけど、彼はめっぽう強いらしい。
なのでお酒好きな年上男性にはすぐ気に入られる。なんなら酒の経験値も増えて、以前より社交性も増してきているのかもしれない。
そしてギルドの仕事では冷静に大立ち回りをするもんだから、女にだってチヤホヤされる。
「クラウドさんたちは、いつから冒険者になったんですか?」
「冒険者になったのはつい最近だ。旅は、ずっと以前からしていたがな」
「そう、なんですね。お2人はじゃあ以前からお知り合いだったんですね」
「3年ほど前からな。色々なところを旅している」
「3年前! それは大変でしたね。ここ3年くらいはずっと世の中も不安定でしたから」
「そうだな。大変なことも多かったが。そういうあんたらは、どうなんだ?」
そう、以前ならこんな饒舌に話さない彼が、酒という道具を手に入れたことによって人並に話せるようになったのだ。というか愛想は良くないが、変に肩肘張っていない分、人当たりはマイルドなのだ。
そして忘れてはいけないのは、彼は、顔が良い。
これは惚れた弱みなのか、と思う。本当に、男前は世の中にたくさんいるが、こんな真面目で誠意ある男前はなかなかいないのではないか、と思う。
私ばっかり好きなんじゃないのかな。大体私がいるんだから私の前でデレデレするなよ。
そんな思いを込めてじっと横顔を見つめる。
すると、視線に気づいたのか、彼も私をじっと見てくる。しかし、何も言わない。
くやしい……。
◆◆◆
おさげ女は名残惜しそうだったが、各々宿に戻ることになり解散となった。
私たちも宿の部屋に戻り、装備や防具を外しながら、休む準備を整えていく。
お酒と疲労でふわふわしてきた。ベッドにこのまま吸い込まれてしまいたい、とうつらうつら。
すると、自分の体が大きな影に覆われたのが分かった。
「なんにゃこのやろう」
クラウドの頬をつねってみる。端正な顔が若干嫌そうに歪む。
「ふへへ、ざまあみろー!」
なにがざまあみろなのか自分でもよく分からないが、なんとなくおさげ女への面白くない気持ちをぶつけてみた。
クラウドも私の頬に手を伸ばし、ひと撫でしてきたと思えば、次の瞬間思い切りぎゅっとつねってきた。
「いひゃいいひゃい! いひゃいよ!!」
ベッドの上で体をバタバタとさせてささやかな抵抗をする。
クラウドはちょっとむくれた顔をしながら、ぱっと手を離した。
「お前、酒を飲むとちょっと油断しすぎじゃないか」
「ひょっ⁉」
それはこっちのセリフじゃい!と叫びそうになるのをぐっと堪えた。おかげで変な声しか出なかったが。
クラウドはなんじゃそりゃ、という顔をしたが、小さい溜息をついて、
「おっさんたちと仲良く話すのはいいが、距離が近い。肩と肩がぶつかる距離はおかしいだろ」
お前はもっと自覚を持て、と。
え、え、えええええええ。そのセリフそっくりそのままお返ししますけどーー!!!!
あなた男にも女にもモテモテじゃないですかーー!!!
わたし、ちょっとどころじゃなく、その、あの、ヤキモチ、とか、焼いてるんですけど……。
クラウドはやれやれ、と肩をすくめている。
え、うちの彼氏ひょっとしてバカなのか。
こうしちゃおけん、と私はクラウドの両の頬を挟み込んだ。
「クラウドのバカ! そっちこそ、いつもいつも酒場でモテモテじゃんかー!」
このやろー!とついでに腹に頭をタックルしてやった。
「デレデレすんなー! 今日のおさげ女も、さっさと気のない扱いをすればいいのに! 私がいるんだから! ナチュラルすぎる! もっと私を一番大事な感じにしろー!」
「は、はぁ⁉ 俺がいつデレデレしたんだよ」
「うるさい、デレデレしてた! 鼻の下が伸びていたような錯覚を私に与えた! 万死!」
くらえ、愛の頭突き!
しかしそれはクラウドによって片手で取り押さえられてしまった。
「待て待て。誤解すんな」
「うるさい、誤解をさせるな!」
なんたる理不尽! 我ながら圧倒的理不尽。
だが仕方あるまい。不安にさせるようなことをした貴様が悪いのだ。さっさと天誅を受けよ!
「お前は相変わらず1人でアホだな」
「アホとはなんだアホとは! クラウドのド阿呆め!」
はいはい、分かった分かった、と背中をぽんぽんとされる。
何だ貴様、私は子供じゃないんだぞぅ。そんなことでほだされてたまるかっ。
私が機嫌を損ねた風に見えたのか、クラウドはふっと笑った。
「悪かった。寂しかったんだな?」
…………あちゃー。
こりゃ図星をつかれた。そしてその困り顔な笑顔に私は弱い。
私はそっぽを向いて、こっくりとうなずいた。
「……もっと甘やかせ」
ちょっとだけ、ちょっとだけね。
クラウドは私のものなんだぞーって。言ってやりたい気持ちもある。
自分でも恥ずかしいけど、好きな気持ちを自覚してから、独占欲も丸出しだ。
クラウドは、はいはい、と子供をあやすように私のことを抱きしめながら、背中をやさしくさすってくれる。
こうしていると、すごく幸せな気持ちになる。
そして時々、罪悪感を覚える。
私とクラウドのこの旅は、贖罪なのだ。義務はない旅だった。それでも、私たちは義理を果たすことを選んだ。自分たちの正義を貫いたことで傷つけたかもしれない誰かへの、せめてもの償いなのだ。
私はクラウドの胸に顔をうずめながら、ぎゅっと抱きしめ返す。
クラウドの匂いがする。
世界を救う旅では知らなかった。彼がこんな香りで、こんな優しい人だって。
「……お前、また余計なこと考えてるだろ」
そして、こんな優しい瞳をしているなんて。
いつだってそうだ。私がごちゃごちゃ考えてしまうと、彼はそれを見抜いてくれる。
私を引き留めてくれる。
世界中の誰よりきっと、私のことを見抜いてくれるのだ。
「そうかもしれない。急に不安になる。……でも、クラウドがずっとそばにいてくれるから」
私はさらに力を込めて彼を抱きしめる。
するとクラウドは私の右手をからめとり、私の手の甲を口元にもっていった。
「じゃあ、何も考えなくしてやろうか」
そして不敵な笑みを浮かべた。
「……へ?」
自分でも驚くくらい間抜けな声と顔だったと思う。気づけば耳まで熱くなった。
クラウドは私の背中に手をまわしたまま、ゆっくりと私を押し倒す。
視界がクラウドでいっぱいだ。
あれ、なんだか目が回ってきたぞ。私の彼かっこよすぎ。無理すぎる。
知らないうちにちょっと胸元もはだけている。鎖骨、首元があまりにもいやらしい……!
「ここからは遠慮なく2人だけの時間だな」
少しだけ意地悪く、子供のような無邪気さを孕んで笑う。
あぁ、もう、絶対に勝てない。
私のバカみたいなヤキモチも、しばらくは仕方ないのかもしれない。
観念して、今は思い切り甘えてみよう。
私はそっと目を閉じた。
終
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
世界を救った勇者の後日談として、拙作「リディア」よりクラウドとシエラでした。
本編なしでも脳死で楽しんでいけることを目指しましたが、はてさて。
タイトルを思いついた瞬間、これはギャグだ、と思いながら勢いのまま執筆しました。
15年ほど前から小説を中心とした一次創作畑にいた人間なのですが、最近めっきり創作していなかったので「本当にこれでいいのか…?」と逡巡しながら「ええい、ままよ!」とか書ききりました。
くっついていない2人のもどかしい感じとか、シリアスな感じはぜひ長いかつ未完結ですが本編をお楽しみいただければ幸いです。