第94話 『記憶の先の楽園』
2025-09-18公開
〔王国歴378年 従地神月 24日〕
「栄えているという風景じゃ・・・・ない・・・・・」
モンソン姉妹の内の姉のエルサが、獣車の窓から外を見てポツリと漏らした。
俺たちは、グスタフソン遠境爵が寄越してくれた護衛隊と共に、グスタフソン遠境爵領を進んでいた。
昔は畑だったと思われる草原が広がっている。
侵略する前に農業に力を入れろよと思うが、後継者争いという愚行に力を入れた末路なんだろう。
引き連れて来ている獣車の揺れは、エイディジェイクス王国内の街道を征く時よりも大きい。
今思い返せば、異世界の『にほん』という国はとんでもない国だったと分かる。
俺の記憶では、土を固めただけの道というのはほとんど思い出せない。
大概が『あすふぁると』という道専用の舗装材で覆われていた。
しかも人が歩く道は違う舗装材の『せめんと』で覆われていた。
獣車と比べるのも悲しくなるが、積載量が多くて、何倍も速い『じどうしゃ』が大量に走っていた。
街には『まんしょん』とか『びる』とか『すーぱー』とかの大きな建物があちらこちらに在り、食べ物は驚く程多い種類が食べきれない程に出回っていた。
全ての子供が学び舎に通い、大きくなったらこちらには無い沢山の仕事に就いていた。
あの光景に行き着くまでに、この世界ではあと何世代必要かなんて想像も出来ない。
ただ、天陽神様が異世界の知識を時々人類に植え付ける理由は、何となく推測出来る。
傲慢な行いに依って、天陽神様の不興を買った事も有る普人だが、発展する可能性も十分に有ると示してくれているんだと思う。
俺とモンソン姉妹の3人だけしか証拠は無いが、3人とも『にほん』という国の、『21せいき』という時代の異世界の記憶を植え付けられている事から、きっと参考にするには最適なんだろう。
知った『にほん』の歴史の中では、国が乱れた時代や戦火に塗れた時代も有ったし、記憶の後の時代では戦乱に巻き込まれた可能性も有る。
だが、それでも、恩寵も賜れない異世界人でもあそこまで発展出来るなら、俺たち普人なら神意に沿う事でもう少し先まで行けるかもしれないな。
「でも、日本じゃ北海道でしか見れない景色かも。ま、私も写真でしか見た事ないけど」
エルサがしばらくして再度呟いて、こっちを見た。
「そうだな」
俺はクイーンの上で短く答えた。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
うーん、本格的に執筆意欲が復活するにはもうちょい時間が掛かるかも・・・・・
 




