第93話 『ルクナ村出発』
2025-09-12公開
〔王国歴378年 従地神月 24日〕
「リリーちゃん、大氾濫が終わったら遊びにおいでね」
「そうだそうだ。いっそ可愛くない兄貴なんて捨てて、こっちに住んだら良いと思うぞ」
アルマとエッサがリリーにちょっかいを掛けているが、魂胆は明らかだ。
なんせ、彼女たち2人の世話を専任で焼いてくれる人間がこの村に居ないからだ。
何故分かったか?
宴会の時に訊かれたからだ。
『前の村ではどうしていたのですか? こっちでは交代で面倒を見ていますが、それでも何故か部屋がゴミだらけになってしまうんです・・・』
真剣に家事力を鍛えるか、いっそ貴族にでもなって何人も雇わないといけないんじゃないか?
「お兄様、また来ましょうね」
リリーが俺の方を見て、笑顔で言った。
その後ろで2人がお願い、と口パクしている。
本当は速攻で断りたかったが、リリーの笑顔を曇らす事は出来ない。
「まずは新領を落ち着かせて、その後で大氾濫の事を片付けてからだな」
アルマとエッサの部屋の片付けは後回しだ。
「そうですね、お貴族様ですものね。領の皆様の為に頑張らないといけないですものね」
2人の表情から夢と希望がポタポタと落ちて行くのが幻視出来た。
「ああ。まあ、余裕が出来たら、交流の一環として訪れて来るのもお貴族様の仕事かもしれないな」
「はい、楽しみにしておきます」
2人の表情は、さっきこぼれ落ちて行った夢と希望が夕立並みに降って来たかの様に笑顔になった。
そういう所だぞ。
強さを求めて頑張ったのと同じくらい真剣に努力すれば、もう少しマシになると思うぞ。
まあ、マシになったからと言って、何か良い事が起こるかは分からんが。
ルクナ村の村長を務めている代官とも挨拶を交わし、精霊のルクナマクスとも挨拶を交わし、見送りに来ている村人たちもお世話になった礼を言い、遂に新領に出発する時が来た。
スタール子爵領でかなりの量の物資を手配したが、この村でも手に入る限りの物資を購入した。
おかげで、引き連れて来た全ての獣車が満載になってしまった。
まあ、この後で手配出来るかと言えば無理だろうから、予備として用意するのは正しい判断だろう。
王都で王弟殿下が矮竜の一族から貰ったウロコや爪、牙を大枚はたいて買ってくれたから資金に余裕が出来ていて助かったな。
特に保存が効く干し肉系が多目に手に入ったのは有難い。
宴会で食べたが、ルクナ村近辺の山中で採れる特産の香辛料が利いて、旧グスタフソン騎士爵領で造っていたビーフジャーキーよりも美味しかったしな。
購入の交渉に当たったスタール兄弟も意外な特産品と言う判断をしたくらいだから、ルクナ村にとっては今後外貨を稼ぐ役に立つだろう。
さあて、次はいよいよジョージカ領だ。
まずは挨拶がてらグスタフソン遠境爵領に寄って、新しいチベタニア盆地の情報が無いかを確認だな。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
9/10公開の92話に続きリハビリ執筆なので短めです。
いよいよ新章に突入ですが、さあてどうなる事やら・・・・・
今後の展開よりもmrtkの書く気力の事、と言うのが笑えません(-。-)y-゜゜゜
 




