第84話 『戦鬼』
2025-07-19公開
〔王国歴378年 従地神月 7日〕
『それはこの幼子に訊く方が早いぞ』
白猫の姿でクラーラの膝の上で丸まっているエレムに声を掛けたが、返って来た答えは当分姿を消さないという遠回しなモノだった。
「シロチャンはどこにもいかないもん」
当分の間は白猫姿で顕現し続ける事が確定した。
『そう言う事だ。明後日の出立式も我はこのままでいるぞ。その方がわずらわしくないからな』
「そうだな」
謁見の場で初めて知らされたが、明後日は朝から王都内を行進する事になっていた。
戦なら出陣式となるのだろうが、新たに拝領した領地に向かうので出立式という名の式典を開催するそうだ。
まあ、侵略を跳ね返して領土を得たのだから国威高揚の為にも行う予定だったらしい。
そして、俺が先進型鎧兵を22体も引き連れて来た事を知ると、行進の順番を最後に持って来る事に決まった。
政というヤツだ。
明日、エイディジェイクス王国内の諸神教の全教会で一斉に新たな聖典のお披露目と、重大な発表が有る事は信徒に伝えられている。
大地の揺れとその後に起こる魔獣の大氾濫について、遂に一般に公開する事になったのだ。
そこで発生する不安を出立式で軽減する事が狙いだったが、先進型鎧兵の隊列を見せる事でさらに効果的になるだろう。
なんせ、俺と先進型鎧兵の武名は鳴り響いているからな。
ついた二つ名がよりによって「戦鬼」だからな。
異名の元になった魔獣は、今では絶滅したと思われる人型の野獣が魔獣化したものだ。
異世界の知識を知っているから分かるが、普人と誓人とは遥か昔に枝分かれした原人だったのだろう。
諸神教の聖典に載っている鋼兵と違って、実際の目撃談は無い。
無いが、魔獣の群れに絶滅させられた都市に残された白骨化した2体の死骸が見付かって、存在だけは伝承として残されている。
およそ普人の1.5倍ほどの長身で、頭部に1本の立派な角が生えていた。
見付かった現場では、鎧を着た夥しい普人の白骨死体が取り囲んでいたらしい。
無数の矢の鏃や数十本の折れた剣も見付かっていた。
どう見ても戦いの現場だったらしい。
ここからは俺くらいしか知らない事だが、確かに高身長だったが、魔獣化する前の角は短く、樹上の小動物を主に食べる、肉食寄りの雑食だったそうだ。
大きな森林の奥が生息場所で、決して平野部に出て来る様な習性では無かった為に普人の目に晒されたのは、滅びた都市で見付かった死骸2体のみだった。
まあ、俺もエレムに聞いただけだが。
魔獣化したものなのか、していないかも伝承では分からないので、異世界の二ホンに伝わっている鬼と同じ様に空想上の生き物だった「人あらざる人」と言う意味の『鬼』が一般的には使われる。
で、俺の場合はそれに戦を付けて呼ばれる。
どんだけ戦闘狂だと思われているんだか。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
相変わらず、執筆画面での遅延が酷くて、通常の3倍~4倍くらいの時間が掛かります。
不思議な事に、前書きと後書きは普通に書き込めるんですよね。
は!? もしや、もう書くのを止めろという天の意思なのかも(-。-)y-゜゜゜




