第81話 『謁見再び』
2025-07-04公開
〔王国歴378年 従地神月 7日〕
「陛下の御来訪迄時間が空きますので、その間こちらの部屋でお寛ぎ下さい」
そう言って、部屋の扉を開けてくれた中年の侍従次長だが、案内された部屋は中々に豪華な内装をしていた。
前回案内された時はエレムとペテルセン枢機卿の騒動の件も有って、内密に近い形での謁見だったので国王の執務室だったが、少しは扱いが上がったのかもしれない。
案内に礼を言いながら部屋の中央に置かれたソファまで進む。
ソファも造りと装飾が豪奢で、圧迫感が有るくらいの仕上がりだ。
おかげで、リリーもエルサも完全に挙動不審に陥っていた。
クラーラはクラーラで、『ホウホウ』と呟きながら部屋の中を見渡していた。
もしかして、金目の物を見付けようとしているのだろうか?
「リリーもエルサもそんなに緊張していたら、却って無礼を働いてしまうよ。ほら、肩の力を抜いて、ソファに座ろうか」
「サスアニ、こんな場面でもマイペースなエリアスお兄ちゃんにシビレル憧れるぅ・・・」
エルサが絞り出すように戯言を言った効果か、リリーとエルサの顔の強張りが少しだけマシになった。
サッサと座ったクラーラと違って、2人は座ったら何か悪い事が起こると恐れているかの様にゆっくりと腰を降ろして行く。
4人とも座った段階で扉からノックの音が聞こえた。
「どうぞ」と声を掛けたら、「失礼します」と言葉を掛けながら先ほど案内してくれた侍従次長と若い侍従が香草茶を淹れる道具一式をワゴンで運び込んで来た。
「エルサもクラーラも、お手本になるからよく見ておくと良いよ」
と声を掛けると、根が真面目な姉妹が緊張を忘れて真剣な表情で侍従次長の手元を見詰め始めた。
さすが王宮のサーブと言うべきか。
所作が流れる様で、見事としか言い様が無い。
それはそれぞれの前にカップが置かれるまで続き、最後のカップが置かれた瞬間に思わず3人から溜息が出た程だった。
「素晴らしいものを見せて頂きました。有難う御座います」
リリーが代表する様に侍従次長に言葉を掛けると、モンソン姉妹も「有難う御座います」と言いながら頭を下げていた。
「いえ、参考になったのなら幸いです」
と笑顔を浮かべた侍従次長はイケオジってヤツで合っているのだろうか?
どうも最近、エルサによる異世界汚染が進んだ気がする。
王様の訪問は香草茶を飲み終わってしばらくしてからだった。
先にトーマス・グスタフソン遠境爵の謁見を済ませたのだろう。
まあ、厄介な相手を後回しにしたい気持ちも分かる。
意外だったのは王様の取り巻きが同行している事は当然だが、王弟殿下も一緒だった事だ。
そう言えば、殿下には先の戦の時から結構目を掛けて貰っている気がするな。
第一、今回の謁見にモンソン姉妹が同席する事は本来では有り得ない。
同席出来るか打診した俺自身、まあ無理だろうな、と思っていたぐらいだ。
だが、忙しい合間を縫ってわざわざ姉妹を見に来て、一目見て許可を出してくれた。
うん、恩人という事にしておこう。
俺たちは何とか失礼にならない程度で王様と王弟殿下に挨拶を交わした。
「ああ、みんな座ってくれ。儂にも香草茶を淹れてくれ」
王様が少し軽い感じで言った後、茶を所望した。王弟殿下も頼んでいる。
王様は王弟殿下と並んで俺たちと向かい合わせになっているソファに座ると軽く肩を回した。
肩も凝るよな。
今月は激動だった筈だ。
まあ、本来はそんな素振りを見せる事も無いのだろうが、俺を相手にした時は虚飾を纏わない事にした様だ。
「で、現世神様は今も居られるのだろうか?」
「はい。エレム?」
目の前のローテーブルに白い『猫』が出現した。
さすがに室内に居る全員が驚いているが、すぐに跪く為に立ち上がろうとしたところでエレムが制止した。
『そのままで良い。今は非公式の場という事にしておく』
「有難く」
そんなやり取りに関係なく伸びた手がエレムを撫でた。
「シロチャン、久しぶり」
クラーラだった。
エレムは嫌がる事なく手を受け入れている。しかも気持ち良さそうに目を瞑っている。
これにはさすがに俺以外全員が驚いた。
『なに、少し野暮用と言うかお役目が有ったからな』
「そう。シロチャン、えらい偉い」
多分だが、全員が頭の中でツッコミを入れたと思う。
神様の一柱なんだぞ、偉いに決まっているだろう、と。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
 




