第79話 『人類の最も古いパートナー』
2025-06-27公開
〔王国歴378年 主地神月34日〕
「エリクソン卿、あの『イヌ』とかいう鎧獣だったか、譲ってくれないだろうか? 昨日丸1日、従士たちにダンジョンで試験運用させてみたが、実に使い勝手が良いという報告を受けた。可能なら追加も欲しい。もちろん、費用は払わさせてもらう」
今朝、「昼食を一緒にどうか?」というミカル・レンホルム男爵からのお誘いの伝言を持った使者が来て、その際に仕事上の頼み事をしたいと伝えられたが、イヌの件とは言っていなかったけどな。
事の発端は、ネコはともかく、我が家に12頭ものイヌを留め置く場所が無いから、2頭を残し、トーマス・グスタフソン遠境爵とレンホルム男爵にそれぞれ4頭ずつ、『チベタニアの旋風』に2頭を預けた事だった。
初めて手に入れた獣型のスケルトンの価値が分からないから、ついでに使い勝手の評価の頼んでいたんだ。
移動の準備が先に終わっていた『チベタニアの旋風』からも同様の意見が上がっている事から、思ったよりも役に立つと好評な様だ。
「そうしたいのはやまやまなんですが、明後日にはここを出発するので、追加で再現する時間が取れるかどうか?」
そう答えながら、エレムに確認をした。
『どうだろう? 何とかなるか? ついでに、役に立つのが分かったので新領にも多目に連れて行きたいので、最大でどれくらい再現出来る?』
『今、手持ちの剣装鎧兵の魂殻が128個有る。『ネコ』の方は1個で2匹を再現出来るとは言え、状況によっては『イヌ』よりももっと数が必要になる可能性を無視出来ないので、その再現用に3/4を残し、残り1/4の内の16個は更に予備に廻すから16個を新たに再現に廻そう。完成は明日の日の出くらいだろう』
という事は、手元に居る4頭に加えて16頭が追加されるので20頭を確保した上で、預けた4頭をそのまま移譲するのが良いだろう。
指示権も設定済みだし、グスタフソン遠境爵にもそのまま移譲すれば分かり易くて良いか。
うん、そうしよう。
「それでは、お預けした4頭を移譲します」
「おお、それは助かる。本当に感謝する」
レンホルム男爵が嬉しそうな表情で謝意を述べて来た。
「その代わり、お代は弾んで下さいね」
「勿論だ」
異世界の記憶では『犬』は至る所に居る愛玩獣だった。
『人類の最初の友達』とか『人類の最も古いパートナー』とか、そういう位置付けだった筈だ。
まあ、そう言う事を知っていたとしても、俺はそれを再現しようとは思わなかっただろうが、エレムは違った。
『猫』は分かる。
マウゼの様な小型の野獣まで魔獣化する可能性が有るのなら、対抗策を用意しなければ、驚くほど手を焼く未来になってしまう。
もちろん、小型の罠も有効だからそちらも用意をしておくが、魔獣化する事が分かった後で手作業で製造する分、後手に回るだろう。
その点、『ネコ』はエレムが短期間且つ大量に再現するし、効果も考えれば対抗策の完成形と言える。
対する『イヌ』は手持ちの戦力にほんの少し上乗せするだけと言える。
単体での脅威度は剣角鹿の魔獣の7級か、上を見て森林魔狼単体と同じ6級相当だろう。
『犬』としては大型としても、森林魔狼と比べれば一回り小さいからな。
だが、半ば失念していたが、『犬』は多彩な役割を熟せる超有能な愛玩獣だった。
「ケイサツケン」、「グンヨウケン」、「モウドウケン」、「カイジョケン」、「バンケン」、「ボクヨウケン」、「サイガイキュウジョケン」、「タンチケン」、「ソリヒキケン」、「トウケン」、「セラピーケン」等々・・・
異世界の普人は、恩寵の「魔獣使い」も無しにこれだけの芸を仕込む。
凄い熱意と言うべきか?
いや、やはり『犬』を褒めるべきだろう。
で、エレム曰く、ヤツは『イヌ』にそれらの役割を全てぶち込んだらしい。
剣装鎧兵の魂殻は、他の魔獣よりも命令を書き込める量が多く、色々な機能や能力を付与し易いらしい。
まあ、2足歩行でバランスを取りながら、まともな剣術を使えるという事から、魂殻の容量に余裕が有るというのは当たり前と言えば当たり前だが。
あと、嗅覚の代わりに魔力探知と気配探知を魂殻に書き込んだと言っていたから、探知能力は飛び抜けている。
どう考えても、下手な討伐士と組むよりも遥かに有能だろう。
一昨日連れて帰って来てから確かめたが、コミュニケーション能力はこちらの言葉をある程度理解し、更に20近くの単語を発声出来るから、異世界の『犬』よりも遥かに優れる。
加えてボディランゲージは更に多い。
うん、確かに討伐士なら欲しくなるな。
強さはそれなりだが、なんと言っても有能過ぎるからな。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
 




