第77話 『先進型鎧兵戦闘部隊』
2025-06-20公開
〔王国歴378年 主地神月29日〕
「うわ、そんだけ数が揃ったら凄い迫力だな。何体居るんだ?」
今日も今日とて門番をしているブロノ従士が驚きの余り、思わず声を上げた。
移封が決まって大急ぎで先進型鎧兵を量産と言って良いくらいに再現して来たが、みんなの目に触れたのは飛び飛びの間隔で開拓村に連れて帰って来た開拓用と警備用の先進型鎧兵8体だけだからな。
今日はダンジョンでの訓練最終日という事で、ダンジョン第8階層に留めていた戦闘用の先進型鎧兵全てを連れ帰って来ている。
「12体ですよ。ダンジョンに籠って特訓をさせていたんですが、さすがにそろそろ引き揚げておかないと、ちょっと回収の時間を作れなくなりそうでしたからね」
「ああ、そうだな。おっと、いつもの癖でエリクソン閣下に偉そうな口をきいてしまった。謝罪を」
「受け入れます。まあ、僕たちの仲ですから気にしないで下さい」
「いえいえ、やはりお貴族様には敬意を示さないとですね、示しが付かない訳でして。あ、それとせっかくなのでちょっとだけ教育させて貰って良いですか?」
「いいですよ」
なんというか、貴族相手が慣れていないからか変な敬語だが、ブロノ従士自身の後任者が傍に居るからけじめを付けたいのだろう。
そして、その後任君はまだ若い男性だ。
確か、最近来た7級か8級の討伐士の3人組パーティの1人だった筈だ。
なるほど、パーティ丸ごと引き込んだな。その方が楽だしな。
「そして、さっきも言ったが、ここで怪しい人物が入村する事と危険な物の持ち込みを阻止するのが一番大きな仕事だ。お前たちも来た時に確認されただろう? ただし、今回はエリアス・エリクソン男爵閣下なので、討伐士として扱わずに貴族として扱う。そして貴族かどうかの見極めだが、普通は盾に家の紋章が入っているか、身に付けた物に描かれているからそれを見逃がすな。今回で言えば、エリクソン男爵家の紋章は先進型鎧兵のシルエットを背景にした剣と盾だが、盾にも入っているし、閣下の胸甲にも刻まれているだろ? 在住していない貴族が来る場合は、事前に先ぶれが来るので、家の名前と爵位を教えて貰える。大急ぎでこの名鑑からその家の紋章を探し出せ。討伐士の場合は怪しいと思ったら必ず討伐士免状か等級メダルを確認しろ。その他の商人や技術屋や入植希望者は村長が発行している入村許可証を持っている筈だ。何も持っていないヤツは入村させるな。分かったか?」
おお、ブロノ従士が真面目に指導役をしている。
と言っても、俺たちが来た時は何も確認していなかった事は後任君には内緒だ。
あの頃はまだ、開村して間が無い、ただの開拓村だったからな。
「お待たせしました。それではお通り下さい」
そう言って、ブロノ従士が後任君2号に合図を送って、門を開けてくれた。
これも合図によって開け方に違いが有る。
わざと罠に嵌める事も有るからな。
ちょっと後任君2号の顔が引き攣っているのは見逃がして上げよう。
今は先進型鎧兵たちは最低限の魔力しか通していないから、脅威度3級が放つ威圧感は出ていない。
出てはいないが、素で怖がってもおかしくない。
なんせ、武名高き先進型鎧兵が12体も居るんだからな。
結局、新領に連れて行ける先進型鎧兵は総計で22体に留まった。
リリーの警護はゼロゴウとサンジュウキュウゴウの2体が引き受ける。
開拓用兼土地開発用兼建設用にジュウヨンゴウ、ジュウゴゴウ、ジュウロクゴウ、ジュウナナゴウという新規に再現した4体。
警備用兼治安維持用にゴジュウゴウ、ゴジュウイチゴウ、ゴジュウニゴウ、ゴジュウサンゴウの新規再現組4体。
戦闘部隊としては3個小隊の12体。
第1小隊はイチゴウが、サンジュウサンゴウ、サンジュウヨンゴウ、サンジュウゴゴウを指揮する。
第4小隊はヨンゴウが、サンジュウゴウ、サンジュウイチゴウ、サンジュウニゴウを指揮する。
第7小隊はナナゴウが、サンジュウロクゴウ、サンジュウナナゴウ、サンジュウハチゴウを指揮する。
うん、どっかの国を攻めようとすれば、問題無く首都を陥落させられる戦力だな。
しかも、矮竜一族のリーダーのダドがくれた魔骸に換装すれば、さらに魔法、すなわち火力が強化されるので、どう考えても過剰戦力だ。
これでも、戦力として不安が有るんだから困ったものだ。
まあ、俺が統治する事になるチベタニア盆地は、四方八方から魔獣に襲われるという地獄になる予定の地だからな。
俺が考えていた、ユルユルと討伐士稼業で老後の資金を稼ぐ未来は、どこに行ったのだろう?
お読み頂き、誠に有難う御座います。