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第74話 『資金稼ぎ』

2025-06-12公開



〔王国歴378年 主地神月オウツゼウルラーザ25日〕



「閣下、モルサさんが来られました」



 フレット・スタール従士が俺を呼びに来たのは照明の魔道具に使う発光部の、約束していた数の最後を仕上げたのと同時だった。

 危なかった。

 途中から製作速度を上げたから間に合ったが、ギリギリまでどうなるか分からないのは精神に来るな。

 ちょっと多いな、と思いながらも何とかなるだろうと軽い気持ちで請け負ったが、次回の出荷数は抑えよう。

 

 最後の方は同じ姿勢を長時間続けたせいで肩が凝ったので、腕を回しながら居間に向かった。

 出来上がったばかりの発光体30個は、フレット・スタール従士が運んでくれるから手ぶらだ。



「いらっしゃい、モルサさん。儲かっている?」

「毎度お世話になります。商いの方はボチボチですね」

「またまたー。儲かって仕方ないって顔をしているよ」

「閣下には負けますです、はい」


 と、いつものやりとりをしながら、ソファに座る。

 モルサさんとは、この開拓村にやって来た時に護衛の仕事を請け負った時からの付き合いだ。

 その時の縁で、俺しか作れない照明の魔道具の発光体を独占契約を結んで卸している。

 モルサさんとあの時の行商人2人を合わせた3人で組んで、俺の照明の魔道具を売り捌いている。

 

「まあ、座ってよ」

「では、失礼して」


 フレットが荷物を置いて、香草茶を淹れる準備を始めた。

 彼も実家が子爵家だから貴族の暮らしというモノを経験していて、香草茶には幼い頃から馴染みが有るので美味しく淹れてくれる。

 まあ、本当は淹れる方ではなく飲む方が本職だったのだが、どうやら美味しく淹れる秘訣を侍女に聞いた事が有るらしく、見よう見真似で淹れているらしいが、器用なんだろうな。意外な程に美味い。

 もしかしたら、「真眼【小】」の効果かもしれないな。


 もし、エルサ・モンソンとクラーラの姉妹が在宅なら2人の仕事なんだが、今日はリリーにくっ付いて、グスタフソン遠境爵家にお邪魔している。

 そこで、リリーも含めて、王家が派遣してくれた教育係からグスタフソン遠境爵家長女のアイナちゃん共々淑女教育を受けている。

 リリーも実家で叔父さんが手配した教育係から初歩の淑女教育を受けていたが、さすがに騎士爵位家用の教育と男爵位家用の教育では違いが有り過ぎて、再教育の意味でも一緒に教育を受けている。


 まあ、モンソン姉妹に関しては、グスタフソン遠境爵の好意だ。

 同年代の女の子が居なかった長女のアイナちゃんと仲良くなった事が1番の理由だがな。

 そうそう、グスタフソン遠境爵が言っていたが、モンソン姉妹は勉強をする事に慣れているみたいで、アイナちゃんの刺激になっているそうだ。

 きっと異世界で集団で教育を受けた記憶が原因だろう。

 俺の場合は他人の人生を眺めていただけだが、彼女たちは自分で実体験したのと同じ効果が有るからな。



「相変わらず、フレット様が淹れくれる茶は香りが立っていますね。やはりコツが有るのでしょうね」

「お湯の温度と室温と香草の開き具合をしっかりと見極める事ですね」


 「真眼【小】」の効果だった。

 ちょっとした事にも効果が有るから、視覚系の恩寵で1・2を争う人気なんだろうな。



「それで、閣下、次回の要望数なんですが、50個は無理でしょうか?」

「たった今、最後の出荷分が出来上がったばかりなんだ。30個でもきつかったので次回は逆にもう少し余裕を持った個数に抑えたいのだけど?」

「そうですか、仕方ないですね。こちらも無理を言っているのは分かっていますから、25個で如何でしょうか?」

「それなら何とかなるかな。ではいつも通り5日後に25個という事で」

「はい、有難う御座います」


 そう言ってモルサさんは深々と頭を下げた。

 通常の貴族相手の礼儀では無いが、俺が以前と同じ様に付き合いたいと言ったから無礼には当たらない。


「まあ、それがここでの最後かな。新領に行って落ち着けば再び造り始める気だけど、どうするの?」

「その事なんですが、ジョージカ領に伝手が有る商人がまだ見つかっていないのです。こちらとしても折角の縁なので、なんとかしたいと思ってはいるんですが」

「そっか、元は他国だから難しいか。あちらに行って、使える人材が居るかだな。居れば、頼んでみるよ。その前にスタール子爵領に出向いているカレル従士が当てを見付けていないか確認しておく」

「お手数をお掛けします」

「いやお礼には及ばないよ。貴重な現金収入源だからね」



 そう、この内職はかなり儲かる。

 全く新しい画期的な商品で、競争相手は皆無で、しかも貴族家がこぞって買い求める商品だからだ。

 最初の構想ではこの開拓村で照明器具の完成品にまで加工してから出荷しようと思っていたが、転封のせいでそんな余裕が無くなった。

 仕方ないから、俺しか作れない発光体に絞って取引をしている。

 装飾を施した照明器具本体や、スタンド、吊り具などの周辺機材は3人に丸投げだ。

 

 そして、稼いだ金を新領の開発に回す予定だ。

 カレル・スタール従士を実家が在るスタール子爵領に送り出して、資材の買い付けに当たらせている。

 やはりこの兄弟を採用して当たりだったな。


 普通なら雇ったばかりの人間に大金を任せる様な事は危険過ぎてしない。

 だが、この兄弟に関しては心配不要だ。

 エレムの姿を視るだけで、他では味わえない至福感が得られるらしく、裏切る事なんて半分死ぬ様なもんだそうだ。

 カレル従士はエレムから離れているのでは? という疑問の声が上がりそうだが、それに関しても問題無い。

 なんと、エレムが自分の分体を生み出して、カレル従士と行動を共にしているからだ。

 おかげで、スタール領に居るカレル従士との連絡も可能になって、異世界で言う「ほうれんそう」が可能になった。



 ほんと、エレム様サマだな。






お読み頂き、誠に有難う御座います。



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