第73話 『チベタニアの旋風』
2025-06-11公開
〔王国歴378年 主地神月11日〕
「エリクソン閣下、ご足労頂き、有難う御座います。応募した討伐士パーティは小会議室で待機しています」
討伐士組合会館に入ると、2日前にも俺を案内してくれた討伐士組合職員が頭を下げながら俺を出迎えてくれた。
もしかして、彼は俺担当として決まっているのだろうか。
今日は新たに従士募集に応募して来た討伐士の面接の為に討伐士組合会館に来ていた。
応募して来たのは、グスタフソン領のダンジョン公開初期から活躍して来た4人組討伐士パーティで、俺自身も顔を知っている。
初期からという事は、未だ俺とアルマとエッサのパーティのヤバさが知られていなくて、甘く見てちょっかいを掛けて来たヤツラを何度か物理的に叩きのめした時代から活躍していたという事だ。
今回応募して来たパーティはそんな頃からダンジョンに入っていて、最近は森林魔狼がうじゃうじゃ居る第8層で活動している実力派だ。
第8層では、薬効の高い薬草や木の実や若芽が何種類も採取可能で、脅威度5級中位の森林魔狼を問題にせずに採取出来るならかなり稼げる。
だから彼らはグスタフソン領討伐士組合で1・2位を争う稼ぎ頭だったんじゃないかな。
どうでも良いが、1つ下の第9層は不人気極まりない。
脅威度4級中位の剣角魔熊が群れで連携して襲って来るからな。
ほとんどのパーティが1度は試すが、攻略不可能として2度と行かない。
どこかのイカレたパーティが原因らしい。
で、そんなパーティが何故、俺の従士募集に応募したかだが、討伐士組合組合長からの紹介書によると将来を見据えて変化を求めているらしい。
うん、分からん。
いや、本当は分かっている。
彼らの来歴を知っていれば、むしろ応募するだろうな、と納得出来るからな。
「パーティ『チベタニアの旋風』の皆さん、エリクソン閣下がお越しです」
討伐士組合職員が小会議室の室内に声を掛けてくれた。
チベタニアとは、今は滅亡した弱小国が名乗っていた国名で、盆地の名前でもある。
バラゴラ帝国が、木材資源を抑えていた旧ジョージカ王国を下した際に、ついでの様に近隣の山脈に在った国(「チベタニア民主国」と名乗っていた。一応国としての機能を持っていて、名前の通りに民主的な国だったらしい)も平らげた。
10年ほど前の事だ。
で、バラゴラ帝国はジョージカ地方とくっ付けた行政区画に押し込めた。
その際に町や村の名を改名したから、今ではチベタニアという名は盆地名にしか残っていない。
その旧チベタニア民主国の出身者4人で結成したパーティが『チベタニアの旋風』だ。
彼らの特徴はもう1つ有って、パーティのメンバーは4人だが、一緒に行動しているのが20人居るという点だ。
多分だが、実力派のパーティなのにこんな辺境と言えるグスタフソン領まで流れて来た理由は安住の地を求めて、という事が大きいのだろう。
「どうぞ、入って貰って下さい」
聞こえた言葉に微かな訛りは有るが、落ち着いた声が返答した。
「失礼しますよ」
と、前回と同じ様にまたしても軽い感じを演出しながら入室すると、4人がこちらに向かって跪いて首を垂れていた。
うん、これは最初から貴族に対する振舞いをするという意思を表しているのだろう。
またまた貴族として振舞わないといけなくなった。
気を付けなければならないんで面倒なんだよな。
「エリアス・エリクソンだ。陛下より男爵位を賜っている。まずは、エリクソン男爵家の従士募集に応募して貰った事にお礼を」
4人はより一層深く首を垂れた。
「では、顔を上げて、着席を」
「有難く」
そう言いながら立ち上がった。
うん、初めてこちらと視線が合った。
「それでは失礼をして」
4人が横一列に並べられたソファに浅く座った。
あれ? 出征前とメンバーが変わっている。
50歳くらいの初老の男性が居なくなり、少女が代わりに入っている。
装備から魔法使いなのは分かるが、どうしたのだろう?
そう言えば、紹介書に女性名が有ったが、気にしていなかったな。
「魔法使いはお年を召した男性だったと記憶しているが?」
「体力的にきつくなったのと、若い世代にも経験を積ませる為にメンバーの入れ替えをしました」
「無事なのだな。長年ご苦労だったと伝えて欲しい」
「お気遣いに感謝を」
さて、本格的に面接に入るとする。
「もし、我が家の従士に成れたら、連れている全員も一緒に移住する気だろうか?」
「はい、そうしたいと思っています」
「従士に応募したのは故郷に戻りたいという事なのだろうか?」
「半ばその通りで、半ば同胞を助けたいという事です」
「なるほど、故郷の現状を知った上での応募か」
「はい、仰る通りです」
領土譲渡に伴う混乱を抑制する為に、王国の騎士団2個が先行でジョージカ地方とアラルカ地方に派遣されているが、碌な統治をされていなかった様で(はっきりと言うと搾取されて荒れていた)、治安を保つ事に苦労をしていた。
大量の流民の発生と荒れた農地を再度立て直すコストを王国に押し付けようとするバラゴラ帝国の狙いは明らかだったが、敢えて王国は受け入れた。
何故なら、来年に迫っている魔獣の大氾濫から本国領土を守る防波堤が必要だったからだ。
だが、誰に荒事を任せるか?
生半可な困難では無い事は明らかだったので候補は皆無だった。
そんな時に起こった侵略戦争で、自身の実力を示した下っ端貴族家達が居た。
人身御供が生まれた瞬間だった。
で、その損な役割を押し付けられた内の1人が俺という訳だ。
「分かった。全員を連れて行ってやる。準備に取り掛かる様に」
お読み頂き、誠に有難う御座います。
 




