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第69話 『討伐士区画視察』

2025-05-31公開



〔王国歴378年 主地神月オウツゼウルラーザ5日〕



「では、募集の件は頼んだぞ。ニックからの推薦なら信頼出来るからな」

「多分、幾つかのパーティが応募すると思いますよ。年齢的にそろそろ『上がり』にしようか迷っているヤツラを知っていますしね」

「それは助かるな。なんせ、従士を45人も集めるんて伝手が無ければきついからな」

「都度、連絡を入れます」

「ああ、待っている」



 トーマス・グスタフソン遠境爵と討伐士組合組合長が、会館を出る前に言葉を交わしていた。

 もちろん、先進型鎧兵アドバンスド・スケルトン貸与の件も有るが、今日、討伐士組合を訪ねた理由の1つが従士募集の件だ。


 討伐士になるヤツの3割くらいは、戦闘の際に有利に働く恩寵を賜ったからという理由だが、残りの7割は色々な事情から討伐士になっている。


 戦闘に有利な恩寵を賜ったヤツらは、40歳になる頃には5級から4級になっていて、貯めた資金で新たな生活を始める事が多い。

 やはり体の衰えを実感すると、いつまでも現役にしがみつく危険性に気付かざるを得ないからだ。

 そして、意外なほど討伐士の生活を見切るのも上手い。

 多分だが、恩寵の影響が良い方向に出るのだろう。

 最初から最後まで恵まれている層と言える。


 まあ、そういうヤツらの中にも太く短くというヤツらも居るには居るが、そういうヤツらは40歳まで生き延びる事が出来ない。

 いや、生き延びても碌な余生を送っていないと言うべきか?

 どうしても後遺症が残るケガをする事が多く、収入が激減するからだ。

 そして、50歳になる前に酒におぼれて死んで逝く。


 中には若いうちから他人よりも多くの蓄えを溜め込む事に成功して、引退後は悠々自適な余生を目指す奴らも居るが、実感としては100人に1人というところだな。

 

 恩寵が戦闘向きでは無いにも拘わらず、討伐士になるヤツら、例えば、実家は農家や商家だが、次男三男四男で自分で人生を切り開く必要が有ったヤツらが1番多い。

 意外とこういうヤツらはしぶとい。

 無理な討伐をせずに、自分の実力に見合った、大体7級から6級の脅威度の魔獣ゴレーザー・ディエランを討伐して、蓄えもしっかりと残す。

 そして40歳になる前には第2の人生を歩みだす。


 だが、元々他の職業に就いていたけど、事情が有って討伐士になるヤツらも結構居たりする。

 勤めていた商家が潰れたとか、災害で農地が使えなくなったとか、借金で取り上げられたとかだ。

 こういう層は歳を取ってから転向したせいも有り、大体8級から7級止まりだ。

 それでも、倹約すればギリギリ4人家族なら生活が出来るので、討伐士が最後の生命線だと言える。  

 

 ちなみにトーマス・グスタフソン遠境爵は徒士かち家の生まれだが、戦闘に役立つ恩寵を賜れずに消去法で討伐士になった。

 ただし、普通なら討伐士の道を選ばないし、むしろ逆の道に進む方が苦労が少なかったと思う。

 何故なら賜った恩寵は『分析(中)』という、学者向きの恩寵だったからだ。

 まあ、最後は3級まで昇格して騎士爵に叙爵されて、今では遠境爵という子爵位と伯爵位の間の高位貴族にまで登り詰めたのだから、恩寵を使いこなしたと言えるだろう。 




「良い町になりそうだな」

「ええ。開拓村と討伐士区画の分離がしっかりとしているせいか、統治が行き渡っていますね。開拓村を立ち上げて2年や3年でここまで土台を築き上げたグスタフソン閣下の手腕はお見事の一言ですね」


 今日最後の予定の討伐士区画視察を始めて直ぐに交わされたミカル・レンホルム男爵と従士の会話だ。

 

 ダンジョンを見付けてから、構想を立ち上げたとは思えない程に討伐士区画は発展している。

 1年と経たずにここまで形にした手腕は褒められるべきだ。

 

「エリクソン卿、近くに先進型鎧兵アドバンスド・スケルトンは居ないだろうか? 一度話してみたいのだが?」

「少々お待ちください」


 確認すると討伐士区画を巡回中のニジュウニゴウが1番近くて、特に予定が無かったので呼ぶ事にした。


「レンホルム卿、今呼びましたので、すぐにやって来ます」


 そう答えると、レンホルム男爵がビックリした顔をした。

 うん、周りの従士もだな。


「居場所が分かる上に、命令も直接下さなくても良いのだろうか?」

「ええ、少々離れていても大丈夫ですよ」

「失礼ながらエリクソン卿の恩寵の事を調べさせて貰ったが、ここまで強力な恩寵と言う記録は無かった。これまでの者との違いは何なのだろうか?」

「それは、僕が『現世神様の友パティウィン・ド・スピリウス』だからでしょう。聞き慣れない称号でしょうが、僕以前には公式に認められた者は居ない筈です」


 まあ、居たとしても多分負担に耐えかねて、漏れなく病死か変死へ一直線だっただろうけどな。 


 それと、『現世神様の友パティウィン・ド・スピリウス』よりも『戦鬼』の方が王都では有名な筈だ。

 ノルドマン侯爵にもそう呼ばれたし、単純に分かり易い称号、いや、二つ名だからな。

 


「あ、来ましたよ。悪いなニジュウニゴウ」

「ノーサー」

「用事が有るのはこちらのレンホルム閣下だ。可能な限りお応えする様に」

「イエスサー」


 俺の正面で直立不動でやりとりしたニジュウニゴウが、惚れ惚れする様な方向転換をしてレンホルム男爵の方を向いた。



 いやあ、驚きの余り呆然としているレンホルム男爵と従士一行は中々な見物みものだったな。

 





お読み頂き、誠に有難う御座います。




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