第66話 『募集』
2025-05-24公開
〔王国歴378年 主地神月5日〕
「エリクソン卿は相変わらず太っ腹よのう。拝領した新領地でも必要になるのは確実なのに、この村の為に先進型鎧兵を12体も残してくれるんだからな。もし、そんなエリクソン卿を主として仕えたいという者が居れば、儂に言って来ると良いぞ。儂もじゃが、エリクソン卿は従士を募集するからのう。もっとも、開拓村の村人で応募する者は少ないだろうがのう。なんせ、書類仕事も有るし、堅苦しいしきたりとか有るでのう。どうじゃ、モト爺、応募せんか?」
俺が先進型鎧兵を12体も残すと宣言した事で歓声が沸いたが、その歓声が落ち着いた時にトーマス・グスタフソン遠境爵位がさりげなく従士募集の話を差し込んだ。
「お誘いは有難いが、儂には無理ですじゃ。書類の紙を相手にするなんて性に合わんですわい。槍で紙に穴を開ける仕事ならなんぼでもするがの。それよりも門番の3人はどうじゃ? 応募せんか? 給料も上がるし、身分も上がるしで、おなごにもてるぞ」
「応募するっス!」
間髪入れずに声を上げたのはブロノさんだ。
25歳独身で、絶賛嫁さん募集中の門番の1人だ。
出会いを求めて、往復2日掛けて隣町まで頻繁に出掛けているが、どうも上手く機会を得る事が出来ない様で、よくボヤいているらしい。
まあまあの顔をしているから、モテそうなんだが、男女の事は、さすがに俺にも分からない。
「おお、最初の応募者が出た様だな。まあ、詳しくはマイヤー筆頭騎士爵が取り仕切るから、近々、ちゃんとした形で告知をする予定だ」
そう言って、村人を見回した後、しみじみとした口調で言葉を続けた。
「儂は領民に恵まれたな。もうしばらくは移封の準備でここに居るが、いざ離れる時は泣きそうだな」
村人もグスタフソン騎士爵だからこそ開拓村に参加した、という人が多かった事は彼らの表情を見れば一目瞭然だ。
「さあて、儂らもこの後、討伐士区画に行く予定だし、皆の仕事をこれ以上止めるのも悪いから、今日の所は解散するとしよう。皆、今日も元気で頑張る様にな」
なんか最後はグダグダ一歩手前だったが、心の中は温かな風が吹いていた。
次に訪れた討伐士区画では、討伐士組合会館に向かった。
発展間違い無しの超優良物件、というか開拓村の討伐仕組合なので、新築された会館の建物は大きい。
俺が以前に活動していた隣町の会館よりも大きい。
開拓村に建造するには不釣合なほど大きい。
道中にすれ違った討伐士たちは俺を見ると色々な反応を示した。
1番多かったのが、『ただでさえ等級詐欺だったのに気が付いたら本物の貴族様になっていて意味が分からない』というモノだ。
戦に行く前も今も、俺の討伐士等級は6級だ。
そして、アルマとエッサの2人と組んだパーティは、グスタフソン・ダンジョン第9層で出て来る剣角魔熊の集団を蹴散らしていた。
ちなみに、剣角魔熊は単体で行動する事が多いが、巨体と身体強化魔法の組み合わせが強力で、脅威度4級の中位という、かなりの強者だ。
だが、グスタフソン・ダンジョン第9層では、3頭とか4頭とかが連れ立って出て来るし、あり得ない事に連携を取った行動もする。
俺たちはそこを中心的に攻めていたが、と言うか連携の練習の為に通いつめていたが、他の討伐士パーティにとっては、地獄の様な階層と言う風に言われていた。
どう考えても5等級2人と6等級1人で構成されたパーティの手に余る。
うーん、改めて考えると、俺の従士募集って、結構いばらの道では無いだろうか?
お読み頂き、誠に有難う御座います。




