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第64話 『捨てられ姉妹』

2025-05-18公開



〔王国歴378年 主地神月オウツゼウルラーザ4日〕



「あ、お兄様に言わなくてはいけない事を忘れていました」



 そう言って、リリーがソファから立ち上がって、そそくさとソファの横に姿勢を正して立った。

 俺もこの後に何が行われるか分かったので、立ち上がってその向かいに立って言葉を待つ。



「この度の男爵位への叙爵じょしゃく、謹んでお慶び申し上げます。お兄様の征く道が神々の祝福を受けます事、心よりお祈り申し上げます」


 そう言って、異世界で言うカーテシーをしてくれた。


「丁寧なお祝いに心より感謝を」


 そう言ってこれまた異世界で言うボウ・アンド・スクレープを返した。


 お祝いの応答が終わると同時に、お互いに恥ずかしくなってしまうのは仕方が無い。

 何と言うか、根っからの貴族では無いと2人とも思っているからだ。

 だから、微苦笑をお互いに浮かべた。



「す、凄い。オキゾクサマダァ」

「リリーおねえちゃん、かっこよかったです」


 あ、そう言えば、この姉妹を忘れていたな。

 もう一度ソファアに座り直すが、慣れない事をしたせいで喉が渇いたな。 

 リリーも同じ思いだったのか、「お茶を用意するのを忘れていました。すぐに用意しますね」と言って、キッチンに向かった。


「詳しい話はリリーを交えてするけど、取り敢えず先に2人の希望を聞いておきたい。どうだろう?」


 姉のエルサが座り直して姿勢を正した。

 その動作を見て、妹のクラーラも真似をする。

 それだけで2人の仲が良い事が分かる。


「お父さんに捨てられたので、生きて行く為にバイトをしたいんです。私たちでも出来る仕事が有れば、紹介して下さい」

「ばいとしてはたらきます」


 そう言って、姉妹揃ってお辞儀をされた。

 2人とも真面目な性格なんだろう。

 何気に聞き捨てならない事も言っていたが、その辺りはどうなんだろう?

 いや、俺の経験から考えても、厄介払いされたのだろう。

 その上で、希望を捨てていないという事は、エレムが救ったという事か?


「分かった。姉妹が一緒に居れる様に考えておくよ」



 そのタイミングでリリーが4人分のコップと小さな皿と香草茶を淹れたガラス製のピッチャーを持って来た。


「エレム、飲むか?」


 答えは『折角だから貰おうか』という思念と、ニャーという鳴声だった。

 意外と仔猫に扮する事を気に入っているのか?


「リリー、エレムにも香草茶を分けてくれ」

「はい。でも熱いからエレムちゃんは冷ましてから飲んで下さいね」


 意味も無く『ネコジタ』という言葉が思い浮かんだが、多分、リリーは知らない言葉だろう。



「リリー、2人の希望を訊いたが、働きたいという事だった。この領で仕事を紹介をする事は出来なくはないが、俺たち兄妹は新しい領地に向かわなくてはならない。事情が有る2人の事を見守る事が出来ないのならば紹介しても無責任になると思う。そこで、2人も新しい領地に連れて行こうと思う。仕事内容はリリーのお手伝いという事でどうだろうか?」


 

 その俺の提案は3人にとって、一番良い内容だった様だ。


 よほど、一緒に居たかったのだろう。

 3人とも喜んで、笑顔で抱き合っている。


 

 エレムはリリーの言いつけを守って、小皿の香草茶が冷めるのをじっと見つめて待っていた。





お読み頂き、誠に有難う御座います。




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