第62話 『凱旋』
2025-05-15公開
〔王国歴378年 主地神月4日〕
「さすがに2ヵ月近くも離れるとは思わなかったな」
グスタフソン領の開拓村の防獣柵が見えて来たところで、トーマス・グスタフソン遠境爵がポツリと零したが、俺も同意見だ。
出発したのが天陽神月の8日だったからな。
しかも、帰ってもゆっくりと出来ない事は確定だ。
「まあ、全員が無事に帰って来れたんですから、良しとしましょう」
「そうだな。望外の出世も果たした事だしな」
「そうですよ」
グスタフソン遠境爵とウィッセル第2騎士爵、ヨハン第3騎士爵の3人がちょっと疲れた声で会話をしているのを聞きながら、俺も少々感傷的になった。
「受け入れ準備は大丈夫なんだろうな?」
「問題無いかと。マイヤー筆頭騎士爵が万事整えてくれている筈です」
ヨハン第3騎士爵がグスタフソン遠境爵の問い掛けに答えたが、何気にこの帰還の旅で1番働いたのは彼だろう。
なんせ、常に先駆けを任されたし、昨日も先行してグスタフソン領に早駆けして、伝達事項を伝えた後はすぐに戻って来たんだからな。
俺がグスタフソン領に向けて旅するのは2度目だが、前回とは大違いだ。
前回は同行者がリリー、アルマとエッサの2人、それに加えて行商人3人という人数は多いが普通の商隊だった。
それが、今回は複数の貴族様とその配下と、更にはオマケの団体さんだ。
遠境爵が1名、男爵が2名(うち1名が俺だ)、騎士爵が2名、ついでに従士が9名なんだから、余りにも違い過ぎる。
その他にも、ミカル・レンホルム男爵が連れて来た職人が10人、商隊が丁稚含めて7人だから、総数は30人を超える。
まあ、ほとんどがレンホルム男爵が連れて来たんだが。
そのレンホルム男爵は隊列後方の民間人の団体と進んでいる。
新たに任せられる事になった領地に初めて足を踏み入れるのだが、グスタフソン遠境爵の凱旋という慶事を優先する気なのだろう。
そういった配慮が出来る貴族はどれだけ居るのだろう?
門の前で出迎えを受けたが、凱旋は熱狂的な歓迎を受けた。
何と言っても、事前に国王の使者が領主の活躍を伝えていたんだ。誇らしい気持ちにもなる。
更に、前代未聞と言って良い程の陞爵を果たした事も続いて伝えられたのだから、まさに英雄だ。
その英雄の凱旋を祝わない訳が無い。
だが、これが普通の騎士爵領なら、ここまでは盛り上がらないだろう。
多少は盛り上がるだろうが、ここまで熱狂的にはならない。
ここ、グスタフソン領は近郊にダンジョンが発見されたおかげで討伐士が集まって来ていて、これからも集まるだろうという繁栄確実な開拓村なのだ。勢いが有る。
その上、領主が討伐士上がりの立志伝の持ち主という事も有り、自分達も後に続く事を夢見ている点も大きい。
上昇志向の空気が濃いって事だ。
それに、討伐士の事が分かっているから、痒い所に手が届くという治世をするという事もあって、領主のグスタフソン遠境爵の人気も高いしな。
グスタフソン遠境爵が気さくな性格で、開拓民は勿論、討伐士区画に住んでいる討伐士や職人、商人とも意思疎通が出来ているから身近な存在という点も大きいか。
まあ、そんな事はどうでも良い。
俺の姿を見付けて、ホッとした表情の後で見せたリリーの笑顔に比べれば、本当に些細な事だ。
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