第61話 『貴族と平民の違い』
2025-05-09公開
〔王国歴378年 主地神月1日〕
「儂の目にはエリクソン卿の先進型鎧兵には知性が有る様に見えるのだが、みんなはどうだ?」
ミカル・レンホルム男爵が自分の従士たちに向かって問い掛けた。
レンホルム男爵は最初から先進型鎧兵に対しての評価が高かったが、この言葉には驚いた。
骸兵種は人型の魔獣ながら、最上位と言える剣装鎧兵でも知性というか賢さというか、そういう部分が無いと世間では見做されている。
極端に言えば、小さな野獣にさえ賢さにおいて劣るという評価だ。
何故なら、全ての骸兵種に個体差という揺らぎが無いからだ。
全ての個体が、その時の状況に対して同じ行動するから、群れで連携して襲って来る事も無い。
偶々複数の骸兵種と対峙する状況になっても、ある程度の経験が有れば少しも怖くない。
だから、一部を金属で補強された鎧を装備していて、剣を持ち、その上剣技も使って来る剣装鎧兵でさえ6級相当の脅威度しか無い。
『骸兵種に意外性無し。対処は容易』と言われる所以だ。
それなのに、レンホルム男爵はナナゴウたちを観察して、知性が宿っている事を言い当てた訳だ。
うん、素直に驚いた。
「レンホルム男爵がそう判断する根拠を伺っても?」
「なに、簡単な事だ。動きが人間臭いのだよ。特にこの先進型鎧兵は顕著だな」
そう言ってレンホルム男爵が指差したのはナナゴウだった。
「それと、こっちの先進型鎧兵もそうだな。残りの3体に関しては、この2体ほど顕著ではないかな」
おお、ナナゴウとヨンゴウの2体と、サンジュウゴウ、サンジュウイチゴウ、サンジュウニゴウの3体を完全に見分けている。
その言葉を裏付ける様に、ナナゴウとヨンゴウが顔を見合わせて首を傾げている。
そういう所だぞ。
「さすがレンホルム男爵ですね。仰る通り、この2体は最初期から使役している特別な先進型鎧兵です。もう少し詳しく言うと個性が芽生え始めている段階ですね」
「やはりな。王都では誰も気付かなかった様だが、それを踏まえるとエリクソン卿の恩寵がヤバいという可能性が高いって事だな」
いや、ヤバいのはレンホルム男爵だろう。
ここまで見抜かれるのは想定外だ。
かなり有能だと言える。
レンホルム男爵ならグスタフソン領を任せても安心出来るだろう。
グスタフソン領は新興の開拓村にも拘らず、ダンジョンまで領地に含まれるかなり特殊な環境だ。
トーマス・グスタフソン遠境爵と俺が居なくなるグスタフソン領を任せるなら、まさしく最適な人選と言って良い。
うーん、今回の人事を見れば、やはり国王の周辺にかなり優秀な人材が居ると考えて間違いないだろう。
「参考までに聞きたいのですが、レンホルム男爵から見て、どれくらいヤバい恩寵だと思いますか?」
「先進型鎧兵が増えれば、戦力が倍々、いや、それ以上の掛け算で戦力が増えると考えて良いだろう。指揮系統が確立出来るからな。下手すれば膨大になる維持経費が掛からないという、本来なら不可能な理想の軍が出来上がってしまうな」
思わず、返事が遅れた。
「それはヤバいですね。僕自身の身の安全が心配になる位に」
間諜だったり、腹の探り合いだったり、謀反だったり、謀殺だったり、そういう言葉が平然と使われる神経が磨り減る状況に一直線というところだ。
「まあ、これ以上は仮定の話としても言えんが、疑いを掛けられない様に気を付ける方が良いな」
「ええ、細心の注意を払って、忠誠心を疑われない様に気を付ける事にします」
レンホルム男爵は俺の言葉に頷いた後で付け加えた。
「エリクソン卿が有利な点はカールソン子爵閣下の血筋という点だな。それに元は騎士爵位の貴族家出身というのも見逃せん。高位の貴族家の場合、周囲に対する影響力が大きいからな。それと、逆に平民出身ならどう見られるかというと、忠誠心を抱く教育がされていないから危険と見られかねん」
なるほど。
さすが平民が多い討伐遊撃隊で頭角を現した武人だ。
俺では持ちえない物の見方をしている。
いや、人生経験の差だな。
レンホルム男爵はかなり有能なんだろう。
もしかすれば、更に出世する道筋が敷かれているのかもしれないな。
こういう、『背中を任せても安心出来る』人物が出世してくれた方が国家にとっても有意義だと思う。
特にバラゴラ戦役で旧家が頼りにならない現実を見てしまうとな。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
この小説はその時のノリだけで書いていますので、もし以前に書いた部分との矛盾が有る様ならば、①温かい目になる②時間が有り余っていたらmrtk宛にやんわりと知らせる③見なかった事にする④辻褄が合う設定を考察する、の中から対処をお選び下さいませ\(^o^)/
 




