第57話 『レンホルム男爵』
2025-04-23公開
〔王国歴378年 天陽神月34日〕
「しかし、エリクソン卿の先進型鎧兵は、知れば知る程、凄いですな」
クイーンに騎乗している俺の右側を並走しているミカル・レンホルム男爵から声を掛けられたのは、カールソン騎士爵領唯一の村まであと少しという所だった。
俺たちは王都での用事を済ませて、やっとというべき感じで帰途に就いている。
あの祝勝記念パーティー以降のあれこれで、今はとにかく疲れたの一言だ。
何が疲れたって、第一に貴族同士の社交だ。
これをきちんとしなければ、新領への物資の流通で今後に悪影響が出てしまう。
新領に駐留する軍の補給は大丈夫だろうが、それ以外の流通は細いままだろうからな。
ちょっとした嫌がらせで物資に不自由する未来しか見えん。
第二の案件が、今の疲れの主因だが、新領への移封に合わせての新規雇用の手配が大変だったのだ。
なんせ、グスタフソン領から騎士爵位1名と従士3名で遠征に赴いて、今では人数も顔ぶれも変わらずに、遠境爵位1名と騎士爵位2名と男爵位1名という豪華な陣容に変わっている。
グスタフソン領の留守を守っているマイヤー第1従士はそのまま第1騎士爵位に叙爵されるから、トーマス・グスタフソン遠境爵麾下の貴族枠は埋まる。
問題は従士枠だ。
丸々36名を採用しなければならない。
俺も他人事では無い。
男爵位まで上がってしまったので、新たに従士9名を雇い上げなければならない。
王都に居る間に募集を掛けたが、採用は0だ。
まず、応募して来ない。
来ても脛に傷の有るヤツラばかりだった。
理由は分かっていたが、どうしようもなかったんだ。
宮廷雀の嫌がらせだ。
貴族家でくすぶっている即戦力になりそうな経歴の人間が応募しない様に、貴族家に働き掛けていたんだ。
募集を掛けたという事実が必要だったので、時間を無駄にする事は分かっていながらも滞在するしか無かった。
まあ、グスタフソン領に居る討伐士からある程度は雇う予定だから、最悪の事態にはならんだろう。
色々な準備を先行させる為に、ヨハン騎士爵が先駆けでグスタフソン領に先行しているからな。
どっちにしろ、新領でも雇う機会も有るだろうしな。
最悪、従士無しで先進型鎧兵で数だけは埋める気だ。
「お褒め頂き、ありがとうございます、レンホルム男爵。この子たちを手に入れたのは運に助けられましたが、今では自慢の骸兵です」
他の貴族と違って、レンホルム男爵は気さくなので付き合い易い。
まあ、欠点という程では無いが、少々脳筋気味なところは有るが。
で、俺たちの帰郷に同行している理由だが、彼がグスタフソン領の次の領主だからだ。
騎士爵位の次男坊だったが、成人してそのまま平民が多勢を占める王国軍の対魔獣討伐遠征に駆り出される遊撃隊に志願して潜り込んで、実績を積んで、自力で男爵位にまで登りつめた根っからの武人だ。
そういう経歴だから、貴族らしくなくて付き合い易い。
「そう言えば、カールソン閣下の所領はどんなところなのですか?」
今度は俺の反対側を走っている叔父さんに声を掛けた。
念願だった男爵位への陞爵を通り越して、子爵位に二階級特進した叔父さんはレンホルム男爵からは閣下の尊称で呼ばれている。
ちょっと前までは逆の立場だったから、レンホルム男爵にかなり気を使っているせいで表情とか声とかが堅い。
王都に居た時はもっと酷かったが。
「何もない田舎の開拓村です、だ」
失敗しないで話そうと意識し過ぎたせいで、言葉遣いがおかしい事になってしまった。
それじゃ、開拓村の根っからの農民だ。
「まだまだ固いですね。まあ、自分相手に練習して下さい」
こういうところがレンホルム男爵の良い所だ。
さりげなく気遣いが出来る。
「う、うむ、分かった、お言葉に甘えよう」
すぐには慣れないと思うが、少しでも偉そうに話せる様になることを祈っておこう。
ほぼ9か月ぶりの故郷は、特に懐かしさを覚えなかった。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
この作品はその時のノリだけで書いていますので、不整合や不都合が有ればご容赦下さいませm(_ _)m




