表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/105

第55話 『パティウィン・ド・スピリウス』

2025-04-18公開



〔王国歴378年 天陽神月ゼントゼウルラーザ27日〕



「ほう、おぬしが戦鬼か。思ったよりも普通じゃのう」



 戦勝記念式典の後で行われている戦勝記念パーティー冒頭に、少しの侮りを含んだ言葉を交えて、そう声を掛けて来たのは初老の男性だった。


 ノルドマン侯爵だったか?

 バラゴラ帝国との紛争で、懲罰モノの戦意に欠ける騎獣突撃をした挙句に碌な戦果も出せずに後退した部隊を送り出した張本人だ。


 ノルドマン侯爵部隊は中年に差し掛かった嫡男が指揮を執っていた。

 ちょっとだけ言葉を交わしたが、凡庸としか言い様の無い人物だったな。

 その父親だから勝手に凡庸な人物と思っていた。


 だが、確かに血の繋がりを感じる顔立ちだが、性格の悪さというか、底意地の悪さというか、そういう醜さが滲み出ているから、ある意味キャラは濃いと言える。


 敢えて異世界で見た動く絵巻風に役を当てるとすると、10作中9作は悪徳な貴族という役柄を与えられるだろう。

 悪徳貴族以外の役柄を与えられた残り1作は人気が出ないだろうがな。



「御初に御目に掛かります」


 貴族教育は受けたが、こんな上位の貴族と邂逅する想定では受けていない。

 せいぜい、男爵位や子爵位相手だ。普通はそれでも問題無いんだがな。

 まあ、王様に謁見して言葉を掛けられる事に比べれば、どうという事の無い差異だ。


 

「ふん、所詮は平民と変わらん育ちという事か。せいぜい王国の為に励む事だな」


 何と言うか、嫌味を言いに来ただけなのだろうか?


「御言葉、肝に銘じて励みます」


 最後にジロリとした目で俺をねめつけた後で、離れようとしたところで、新たに声を掛けられた。



現世神様の友パティウィン・ド・スピリウス、聖徒エリアス・エリクソン様、お会いしとう御座いました」


 聞こえた声からは、さっきのノルドマン侯爵と同じ位の年齢と思えた。


 ただし、ノルドマン侯爵と真逆で、声音には俺に向けた大きな敬意が感じられる。

 何故か下の方から聞こえたので、声がした方に視線を下向けると、諸神教のかなり上位の聖職者と思しき人物が片膝を付いて見上げていた。



 周囲が凍り付いた。


 諸神教の枢機卿ともあろう人物が、男爵位に陞爵しょうしゃくしたばかりの討伐士上がりの成り上がり者に跪いているのだ。

 しかも、明らかに枢機卿自身よりも上位の聖職者として遇している。

 跪いているのは彼だけでは無かった。

 同行している大司教や司教たちも枢機卿の後ろで同じ様に跪いていた。



現世神様スピリウスの御機嫌は如何でしょうか?」



 最初の声掛けは聞き間違いと無理やりに納得させられたが、さすがに連続で尊敬の気持ちを込めた声を聞けば、最初の言葉も聞いた通りだと認識せざるをえなくなる。



 やられた・・・


 これまで諸神教会からの接触が無かったから、動くとしたら精霊の存在を公表してからだと認識していた。

 それもこっそりとだ。

 だが、こんな人目の有る場で、劇的な演出をして来るとはさすがに読めなかった。


 

 半ば、やけくそになりながら、俺は言葉を発した。

 もちろん、立ったままでは見栄えが悪いので同時に跪きながらだ。

 


「エレム、顕現しても良いぞ。せっかく挨拶に来てくれたんだ。姿を現して差し上げろ」


 


 俺の隣に聖なる光の柱が発生した。

 パーティー会場を照らしていた照明の明かりが、柔らかな光で上書きされる。

 いつものサイズではなく、俺の2倍は有る大きさで顕現した。


『久しいな、ペテルセン』



 諸神教の上位の聖職者くらいしか聞いた事の無い精霊の声がパーティー会場に響いた。


 自然と、その場に居た者は、跪いてこうべを垂れていた。



「再び現世神様スピリウスとの拝謁の機会を得た事、ペテルセンは恐悦至極で御座います」


 ペテルセンと呼ばれた枢機卿は更に頭を下げた。


『良い。頭を上げよ。老けたな、そちも。で、どうだ? 我がわらべは?』

「只人には扱いかねる御力を得ながらも、それに溺れる事なく、ごく普通に振舞うなど、私めには到底出来かねる事。さすが現世神様スピリウスの御目にかなった人物で御座います」

『そちの言葉、我が童も喜んでおろう。どうだ?』


 いきなり振られてもな。


「御意」


 俺の表情と言葉の乖離が面白かったのか、声には出さなかったが、エレムが笑った。


 

「おお、現世神様スピリウスの御笑みを初めて拝見しましたで御座います。このペテルセン、いつ主地神オウツゼウル様の懐に逝っても悔いは御座いませんぞ」

『そうじゃ、主地神オウツゼウル様の御意志は聞いたか? もし未だなら伝えておこう。滅びを避けよ、との事じゃ』

「これは有難い御言葉を賜りまして御座います。このペテルセン、主地神オウツゼウル様の懐に今すぐに逝っても悔いは御座いません」


 エレムがパーティー会場を見渡した。


『さすがにこれ以上の顕現は、人の限界を越えよう。ペテルセン、また縁が有れば会おうぞ』



 エレムがいつもの様に姿を隠すと、パーティー会場のあちらこちらで意識を失う者が続出した。



 

 ノルドマン侯爵もその1人だった。





お読み頂き、誠に有難う御座います。


 今さらですが、この作品はその時のノリで書いています。

 もし、設定が矛盾していたらゴメンなさい m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ