第54話 『戦勝記念式典』
2025-04-17公開
〔王国歴378年 天陽神月27日〕
「エリアス・エリクソン騎士爵、前へ」
「は!」
只今、王宮にて戦勝記念式典の真っ最中だ。
そして、王様との謁見という、一種のクライマックスを迎えているのだが、謁見の間に漂う空気が微妙だ。
確かに、勝つには勝った。
バラゴラ帝国の侵攻を挫き、侵攻軍の総指揮官の第3皇子を捕らえ、第3皇子返還の条件と侵攻による被害の賠償として、帝国の領土から王国に隣接する穀倉地帯のアラルカ地方とジョージカ山脈に面するジョージカ地方という、それなりの領土を分捕った。
まあ、ここまでは良い。
空気が微妙な理由として、戦地での論功行賞で、最下級貴族の騎士爵4名と従士1名が、指揮官の王弟殿下から直接に陞爵と叙爵を告げられた事が遠因となっている。
確かに勝ったのは俺が主因だし、俺以外の騎士爵4名も第3皇子を捕らえたり、戦線を支えて勝利に貢献したりと十分な功績が有るから特別な褒賞が有って当然だが、従軍した褒賞が感状だけだった他の貴族家が待遇の違いに不満を募らせているのが直接の原因だ。
簡単に言えば醜いやっかみだな。
そして、それを煽っているのが宮廷雀だ。
5人も同時に陞爵と叙爵された事例が無かったのに、王弟殿下の一存で陞爵と叙爵という、自分たちの物と勝手に思っている利権を侵害された事が気に入らないのだろう。
そんな本音を露わにして、王弟殿下にばれれば不利益を被るから、本心を隠して、代わりに俺たちの功績を貶めようと動いている、というところだな。
おかげで、祝勝ムードは微塵も無く、冷え冷えとした空気が漂っている。
ただ、そんな有象無象の思惑とは関係なく、王様と王弟殿下は連携して、更に踏み込んだ一手を打って来た。
ちなみに、どちらかと言えば武人然としている王弟殿下と違って、王様はいかにも思慮深い政治家、という風貌だ。
好きか嫌いかで言えば、嫌いでは無い、というところか。
で、現在の状況だが、俺たち5名に加え、ロバート・クライフ騎士爵に付き従った忠誠心溢れる3名の騎士爵も王様の前で一緒に跪いている。
「その方達に、新たに得た領地を治める事を、エイディジェイクス王国第22代が王、エドガー3世の名を以って命ず。此度の戦勝で得たアラルカ地方をアラルカ領と定め、新たに遠境伯位を創設し、ロバート・クライフを充てる。その配下として、ジョン・フランセンを子爵位に陞爵、グフタフ・アーケソン、ヘンリク・ベントソン、ヨルゲン・マルメルを男爵位に陞爵して充てる。同じく戦勝で得たジョージカ地方をジョージカ領と定め、新たに遠境爵位を創設し、トーマス・グスタフソンを充てる。その配下としてバルト・カールソンを子爵位に陞爵、エリアス・エリクソンを男爵位に陞爵して充てる。なお、現在の領地は王領として召し上げる。新領地は10年の間、税を免じ、適時王家より支援を与えよう。我が王国の新たな領土を能く治めよ」
「は!」
王命というヤツが下ったので、内心はどうであれ、返事は1つだ。
ただし、事前に内示が有ったと思われるロバート・クライフ遠境伯が更に言葉を足した。
「我ら忠義を以って、陛下の御恩に報いる事を誓いましょう!」
「ふむ、その方らであれば、良きに治めよう。期待しておるぞ」
「は! 有難き御言葉を賜り、身が引き締まる思いです!」
なんにしろ、異世界の言葉でいう「サプライズ」任命によって、謁見の間の空気がとんでもない事になっている。
目障りなヤツラの陞爵は癪だが、今の領地を召し上げられて、敵地と言って良い領地を与えられたのだから苦労する事は確実だ。
考えようによっては、自分たちが手を出すまでも無く、溜飲が下がったと言える。
恵まれた領地の貴族家は分からないだろうが、多数を占める自分の領地運営で苦労している貴族からすれば、正負は負に寄っていると思うだろうな。
だが、俺からしたら、かなり巧妙な一手だと判断出来る。
何故か?
2年後に迫っている北の地の魔獣の大氾濫に備えられるからだ。
諸神教が、エイディジェイクス王家に予想される災害の内容と規模を伝えているのは確実だろう。
エレムに訊いたらある程度教えてくれるだろうが、訊くまでも無い。
もし、これまでと同じ様な政治力学で新領地を分配すると、確実に魔獣の大氾濫で壊滅する。
それでは困るのだ。
新領地には、バラゴラ帝国が大氾濫鎮圧に失敗した時の為の盾になって貰わなければならないのに、その盾が最初から壊滅してどうするって事だ。
さあて、諸神教もそろそろ公表するだろうが、それを知った時の有象無象の貴族家の反応が楽しみだな。
お読み頂き、誠に有難うございます。
だらだらと書き続けていたら、気が付けば10万文字に達していました。
良ければ途中経過の評価をして頂ければ、執筆の糧になる可能性が微小なりとも有るかもしれない気がしないでも無い今日この頃(-。-)y-゜゜゜
 




