第52話 『個性の芽生え』
2025-04-08公開
〔王国歴378年 天陽神月20日〕
『くそ、水の壁で防がれた!』
『魔法士は各自の判断で第2射を放て!』
『弓兵! 第2射急げ!』
『殿下が安全な所まで避難する時間を何としてでも稼ぐぞ!』
『そこ、物資は諦めろ! 今は時間稼ぎに専念しろ!』
どうやら、敵の上層部はここまで進撃される事を想定していなかった様だ。
今更ながら、撤退に舵を切り始めている。
それと、「殿下」という言葉が出るという事は、どうやら敵の総大将は帝室に繋がる、もしかすれば帝位継承権持ちの可能性が高い。
判断が遅過ぎるのは、取り巻きの責任だな。
バラゴラ帝国は建国80年のかなり若い国だ。
元々、エイディジェイクス王国の半分くらいの国力の、ごく普通の王国だったのが、3代前の王が出来者で外征に力を入れ出して、周囲の土着勢力を併合した事で帝国への道を歩み出した。
今の第4代バグズズ帝も数年前までは堅実な治世をしてみせて、国力を大きく伸ばしたので賢帝と呼ばれていたんだよな。
それが、ここ数年は表に出ていない。
少なくとも話は流れて来ていない。
そこから考えられる事は、健康状態が悪く、お決まりの継承争いが勃発しているという可能性が高いって事だ。
現に、無理してエイディジェイクス王国に侵攻している。
誰か知らないが、跡目争いで優位に立とうとして、始めた蛮行だろう。
まあ、誰か知らないが、愚行の責任は取って貰う。
「クライフ騎士爵、フランセン騎士爵、カールソン騎士爵、先進型鎧兵を突撃させて、一気に崩します! 遅れずについて来て下さい!」
ヨンゴウ、ナナゴウ、サンジュウゴウ、サンジュウイチゴウ、サンジュウニゴウの出力を更に上げる。
継戦可能時間はその分短くなるが、ここは一気呵成に攻め込むべきだ。
頼むぞ、みんな。
気付くと、ナナゴウの思念? 感情? が更にはっきりと感じられる気がする。
メチャクチャ気合が入っている。
うーん、ヨンゴウからも似た感じを感じるな。
一方、サンジュウゴウ、サンジュウイチゴウ、サンジュウニゴウの3体からはそういう感情の様なものは何も感じない。
まあ、その3体は量産を前提として生み出された先進型鎧兵だからな。
色々と試す土台として時間を掛けて個別に育て上げた1桁ナンバーズと違ってエレムの教育を簡素化しているからな。
もしかすれば、ナナゴウとヨンゴウだけでなく、他の1桁ナンバーズも感情という要素を獲得する可能性が有るな。
嫌な想像をしてしまった。
アルマとエッサの2人に分け与えたニゴウ、サンゴウ、ゴゴウ、ロクゴウは飼い主に似て脳筋に育っているんじゃないか?
今後、会う事が有れば、念入りに確認しなければならんな。
『くそ、何としてでも止めろ! ここを抜かれたら殿下が危うい!』
『俺が一瞬でも止めるから、魔法士はそこを突け!』
どうでも良い事に思考を割いている間にも、先進型鎧兵の進撃は激しさを増していた。
帝国軍もここに来て死に物狂いで阻止行動に出始めた。
魔法士が味方の被害を無視して至近距離で火系の魔法を放ち始めたのだ。
戦闘状態でなければきっと効果は有っただろうが、魔力をガンガン流している現状では先進型鎧兵に損傷を与えられないだろう。
なんせ平常状態時は稼働する為の魔力しか纏わないから、熱に弱い異世界の金属A7075は火系の魔法で溶けてしまったり、変形してしまったりしてしまう。
まあ、弱点と言えば弱点だが、不意打ちさえ喰らわなければ、問題が無い弱点だな。
帝国軍の奮闘も空しく、遂にナナゴウが一際豪奢な鎧を着込んだ騎士を騎獣から引きずり下ろした。
周囲の帝国兵が何とかして取り戻そうとするが、支援に入った4体によって阻止されている。
「クライフ騎士爵、敵将を確保しましたので、周りの帝国兵に投降を呼びかけて下さい!」
一瞬、俺と視線を合わせたロバート・クライフ騎士爵が頷いて、声を張り上げた。
なかなか堂に入った宣告だ。
まあ、魔法士も弓兵もあちこちに居る状況なので、俺はいつでも撃てる様に火系の中級魔法を30ほど発動して、帝国軍の暴発を抑えている。
こうして、帝国軍の侵攻は失敗に終わった。
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