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第44話 『エンゲージ』

2025-03-14公開


〔王国歴378年 天陽神月ゼントゼウルラーザ20日〕



「そろそろだな」



 トーマス・グスタフソン騎士爵がそう呟いた直後に戦太鼓のリズムが変わった。

 それまでのゆったりとした拍子から少し急かされる様な拍子になった。人間で言うなら駆け足くらいの速度に上げるリズムだ。

 戦場の空気が一気に殺気立って来た。

 騎獣ハッグもその空気に影響されて、走りながらもあちらこちらでいななきを上げている。

 俺の愛馬、ではないな、愛獣のハッグはそんな空気など無視して、気持ち良さげに速度を上げた。

 なかなかの大物かもしれない。


 更に戦太鼓のリズムが早くなった。

 聞いているだけで追い立てられる気になって来る。

 俺の愛獣ハッグが益々気持ち良さそうに速度を上げた。

 大物と言うよりもマイペースな性格と走る事が大好きなだけかもしれないな。


 速度としては異世界でいう短距離の徒競走で出す限界に近い。

 後方を走って付いて来ている先進型鎧兵アドバンスド・スケルトンホッグ車の限界にも近い速度だ。

 右側を走るウィッセル従士とヨハン従士を確認すると、危なげなく騎乗している。

 まあ、俺よりは騎乗歴が長いから当然か?

 その先の騎士爵位が形成する第1列にも視線を向けると、直線を維持出来ずに凸凹が出来始めていた。


 やはり合同で訓練をした事が無ければ、練度がばらつくのでこんなものだろう。

 まあ、それを見越して、事前に、もう一速上げずに、この速度を維持して突撃する事は伝達されていた。



 視線を敵のバラゴラ帝国軍に向け直すと、大外へ向けて騎獣部隊100騎ほどが分離するところだった。

 こちらの隊列の横っ腹に横撃を入れる為だろう。 

 その攻撃を喰らうのは俺たちでは無いが、阻止しておいた方が味方の損害を減らせるので、悪目立ちしたくは無いが援護をしておこう。



「エフ・ワン」



 鏖殺魔猿ゴレーザー・ジェノヴ・エイヴィの集落を崩壊させる時にも使った風系の魔法を使う。

 発動の瞬間を目撃されても、何をされたかが分かり難いので最適だろう。

 後列を駆ける味方も多分、俺が起こした魔法現象と思わない筈だ。


 枯草や小石が巻き上がる事で風速がドンドンと上がって行く様がよく分かる。

 十分な風速を得た所で敵騎獣部隊に斜め前から直撃した。

 突風に煽られて1/3ほどが落下して、後続を巻き込んで落下する騎兵を更に増やして行く。

 

 最終的に半分近くを行動不能にしたから十分な戦果と言えるだろう。



 あと20呼吸もしない内に敵の最前列に接触するが、大き目の盾を持った兵を最前列に集めて、騎獣部隊の突撃に備えている様がよく分かる。

 盾と盾の間が少し隙間が有るので、槍を持った第2列が控えているのは確定だろう。


 騎獣部隊の強みは機動力と衝撃力だ。

 この場面ではこちらとしては衝撃力を如何に発揮し続けるか?が課題だし、あちらとしてはそれをどう止めるか?が課題となる。


 大型の魔獣ゴレーザー・ディエランを相手にする事が多いのならば、どうすれば止められるのか? どうすれば仕留められるのか?という問題に対して、やり方を練り上げた上で実践していて当然だ。

 その中で、罠を仕掛ける事が出来ないのならば、槍と盾の組み合わせで止めて仕留めるのは基本中の基本だ。

 もちろん、火炎系や土系の中級魔法が使えるなら、更に効率よく仕留められる可能性が急上昇する。 


 うん、魔法は無いな。何かの魔法が発動する前兆が全く無い。


 ならば、ここまで速度の乗った騎獣ハッグ兵を止める事は難しいだろう。

 何故なら、魔獣ゴレーザー・ディエランと違って、知識を持つ人間が要素に追加されているからだ。

 更に言えば、騎獣ハッグは全身に生えている毛の、任意の面を硬化させる事が可能だからだ。

 これは騎獣ハッグ独自の防御方法で、同じ様な能力を持っている野獣ノナ・ディエランは少ない。

 まあ、魔獣化ゴレーズンした魔獣ゴレーザー・ディエランは結構な確率で持っている能力だが。だから魔獣ゴレーザー・ディエランは厄介なんだよ。



 敵の前衛と中衛の間付近から弓の一斉射が撃ち上がった。

 思ったよりも密度が濃いが、どの辺りに落ちて来るかを判断するとちょうど自分たちの辺りだった。

 一度出したんだから二度目も一緒だろう、と雑に割り切って妨害工作に取り掛かった。



「エフ・ゼロ」


 ちょうど矢が水平になったくらいに突風が矢群を吹き抜けた。

 矢で風を一番受け易い個所は? 矢羽と呼ばれる部分だ。そこに下から突き上げられる様に風が当たったら? 安定を失って重い鏃を下にして落ちてしまう。

 落下速度は乗るが、撃ち出した時の速度とエネルギーは失われる。

 結果、俺たちの前方にぼとぼとと落ちてしまった。




 戦太鼓のリズムが連打に変わった。


槍、構えラッグ・ランガッツ!」


 グスタフソン騎士爵が大声で命令を出した。

 さすが、長年、討伐士のパーティでリーダーとして活躍しただけあって、その声量と気迫は堂に入ったものだった。


槍、突撃ウダー・ランガッツ!」


 騎兵槍ランガッツの扱いなど、正直なところ付け焼刃以外の何物でも無いが、それでも辛うじて及第点を付けて貰えるくらいには突けたと思う。 

 俺が突いた盾は衝撃に耐えられず、完全に横を向いてしまった。

 保持していた腕は折れている筈だ。

 盾の間から突かれた槍はやはり騎獣ハッグの毛のバリアを突破出来ず、逆に跳ね返された槍の勢いにバランスを崩して、第2列の槍兵は腰から崩れた。

 そして、開いた間隙に騎獣ハッグの身体を強引に割り込ませる。

 踏まれたら、骨折か内蔵への損傷は確実だが、さすがにそこまで意識を割る事はしない。 



 騎獣兵最大の武器、衝撃力が敵の最前線を食い破った瞬間だった。






お読み頂き、誠に有難うございます。

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