第43話 『戦太鼓の調べ』
2025-03-13公開
〔王国歴378年 天陽神月20日〕
「さて、やっと開戦だが、待ちくたびれたと言ったら怒られるかね?」
トーマス・グスタフソン騎士爵が緊張感を漂わせながらも再び問題発言をした。
状況としては、エイディジェイクス王国連合軍とバラゴラ帝国軍が向き合う様に布陣して、合戦が終わったところだ。
口合戦とは、如何に自国には正義が有って、相手国は如何に悪い国かを口上で戦わせる事なんだが、まあ、話の3/4は今回の戦争とはほぼ関係の無い事を無理やり相手国の悪口にして大袈裟に言っているって感じだ。
残りの1/4も下らない事だ。
だから4/4がどうでも良い事だな。
本当に下らない。
強いて言うなら、声を相手の陣地の隅々まで届かせる為に、何気に魔法が使われていたくらいしか興味の引かれないやり取りだった。
最終的に集まったエイディジェイクス王国連合軍本隊は3千人というところか?
元ハールトセン侯爵家長男のロバート・クライフ騎士爵の情報では、67騎士爵家、18男爵家、12子爵家、6伯爵家、3侯爵家が参陣しているから、こんなところだろう。
その内、ある程度頼りになるのは半分くらいだ。
計算上、騎士爵位以上の貴族階級が193人、従士階級が1335人だからな。
半分は上位貴族家の見栄の為に連れられて来た農民兵だ。
個々としては戦力として考えに入れない方が良いだろうが、それでも数は力だ。居ないよりも居た方が良いのだが、指揮系統がしっかりとしていないと連携に問題が出そうだ。
まあ、どうでも良いが、公称では5000人の軍となっている。
一方、バラゴラ帝国軍はエイディジェイクス王国連合軍の2/3という所なので2000人というところだろう。
ただ、農民兵は見当たらない。補給の不安が有るので、分からなくもない編成だ。
そういう訳で、計算出来る兵力としてはバラゴラ帝国軍の方が上回っている。
ただ、こちらは王弟殿下が総司令なんだが、王族も含めて500人程の後衛部隊が最後方に控えているので、戦闘で計算出来る総数としてはどっこいだ。
そうそう、非常に珍しい事に、昨日、王弟殿下と取り巻きの一団が最前線の視察に来た。
どう考えても先進型鎧兵の噂を聞いて、見に来たとしか考えられないが、そこでちょっとした騒動が有った。
ロバート・クライフ騎士爵が王弟殿下の次男と学友だったらしく、視察にも一緒に来たのだが、ハールトセン侯爵家次男、そう、クライフ騎士爵の出来の悪い方の弟で次期侯爵なんだが、クライフ騎士爵を強引に自分たちの陣地に帰らしたのだ。
いやあ、アレは確かにボンクラと言って良い。
特に異世界で『空気を読む』という高等テクニックを目の当たりにして来た俺からしたら、噴き出しそうだった。
その後の空気のシラケた事よ。
王族、特に総司令の王弟殿下に悪印象を抱かせてどうするんだ?
まあ、それはともかく、先進型鎧兵の存在とトーマス・グスタフソン騎士爵の名前はかなり広がっているせいか、直答の許しと、3つも質問をされていた。
宮廷の常識では有り得ない事らしい。
まあ、この国のトップの陛下の次にやんごとなき御方と言葉を交わすには騎士爵位は末端過ぎる。
だから、普通は取り巻きが言葉を中継ぎするのだが、先進型鎧兵を見た瞬間に思わず声を掛けてしまったので、なし崩しで問答を交わしてしまっていた。
もっとも、最後は先進型鎧兵をだしにして、その場の空気を戦意高揚に結び付けていたから、計算づくだったと思うがな。
法螺貝に似た音色の楽器が吹き鳴らされて相手側に進軍する事で戦端が切られた。
防獣柵を取り払ってスッキリした自陣からゆっくりと前進を開始する。
ドラムに似た音色の打楽器がゆっくりとしたリズムで叩き鳴らされ、それで統一した歩調を刻む。
俺たちグスタフソン騎士爵家は前後左右三列の隊形を組んでいる。
最先陣の最も危険な左端を俺が務め、真ん中をウィッセル従士が、右端をヨハン従士が固め、二列目の真ん中にトーマス・グスタフソン騎士爵が陣取る。
その左右を、徒歩で行進するヨンゴウ・サンジュウゴウが固め、三列目の左右をサンジュウイチゴウ・サンジュウニゴウの2体で固めて、その真ん中をナナゴウが馭者を務める獣車が位置取っている。
他の騎士爵家が4人横並びの前後一列だけなので異例の配置だが、最前線の最左翼に配置されたからこその陣形だ。
単独でこれだけ分厚い布陣が出来るのはグスタフソン騎士爵家位なもんだろう。
俺の位置からは、対峙するバラゴラ帝国軍も同じ様に進軍して来る光景が良く見えた。
ハッグに騎乗しているから尚更遠くまで見渡せる。
うん、特等席なんだが、誰も代わりたいと言われなさそうで、売りに出してもあまり人気が出そうにない席だな。
お読み頂き、誠に有難うございます。
 




