表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/105

第42話 『模擬戦』

2025-03-07公開



〔王国歴378年 天陽神月ゼントゼウルラーザ17日〕



「何と言うか、人間同士の戦いというのは、存外、のんびりしたものだな」



 トーマス・グスタフソン騎士爵が気の抜けた声で問題発言をした。

 

魔獣ゴレーザー・ディエラン相手なら待ち伏せや不意打ちを狙いつつも、逆に不意打ちを受けて一瞬で生死が別れる経験も多かったからな。一瞬たりとも気が抜けんかったもんだ」


 まあ、その通りでは有るが、その話をして共感してくれる人間はこの周辺一帯では、討伐士上がりの成り立ての騎士爵か、自ら魔獣ゴレーザー・ディエラン狩りをする貴族くらいしか居ないと思う。


 そもそも騎士爵と言えども、日常的な魔獣ゴレーザー・ディエラン討伐の経験をした者は半々というところだろう。

 爵位が上がると共に、現場から遠ざかるのが自然だから男爵位以上になれば騎士爵の更に半分も居るかどうかだろうか?



「リーダー、気が抜けるのも分かりますが、外面にも気を付けて下さいよ。ただでさえ、我がグスタフソン領は新興の家の割に目立っているんですから」

「そうだな。目立つという点では抜きん出ているな」


 割り当てられた場所が最前線の角地という立地

 早々にホッグ車を持ち込んで悠々とした野営地を設営していた点

 鉄パイプを使って、野営地を防獣柵で囲っている点

 騎士爵にも拘らず、徒士かち勢に見える戦力を持って来ている点

 よく見たら、人間の徒士ではなく、彫刻の様な大きな金属製人形だという点

 ダンジョンを発見して最近急速に発展している注目の領地という点


 うん、目立って当然だな。



 駐屯して3日が経つが、目立ったせいで、近辺で野営する騎士爵のまとめ役に勝手に祭り上げられていたりする。


 なんせ、周囲の騎士爵の半数は魔獣ゴレーザー・ディエラン討伐の経験が有るが、個対個(要は喧嘩だな)は別として、多対多という人間同士の本格的な戦いなど経験が無いのだ。

 人間相手の剣術を考えるよりも、魔獣ゴレーザー・ディエラン相手に如何に効率よく狩れるかを磨く方が圧倒的に優先されたのだ。

 人間同士の戦いの訓練を少しでもしておかなければ、活躍どころか命を落としかねない。


 その点、俺はアルマやエッサと共に剣装骸兵ズオゥド・スケルトン時代のゼロゴウと散々対人戦闘、より細かく言えば剣術での戦闘訓練を重ねた。

 おかげで、アドバイス役として引っ張りだこだ。

 顔が売れたせいで、人脈が広がったのは良い事だが、もっとゆっくりしたいものだ。



 それはそれとして、騎士爵位になって数世代も経てば、軟弱になるのも当たり前だ。

 だから、何かと他家を圧倒する力を持っている様に見えるグスタフソン家は、迫る戦いに備えて、縋るよすがになっている訳だ。



 まあ、どうしても目立ってしまう先進型鎧兵アドバンスド・スケルトンに模擬戦を申し込む輩が多く、ことごとく返り討ちにしたのが一番効いていると思うがな。


 今では、人間による多対多の集団戦の経験値を得る絶好の対戦相手として、順番待ちになっているくらいに人気だ。

 おかげで、この3日間で、もう何十という騎士爵家や男爵家と模擬戦をしている。


 なんと言っても生身の人間相手と違って、傷付けても構わないと言うのは経験値を得るのに大きな利点だ。

 まあ、傷付けられる事は殆ど無いんだが。

 それでも、加減をせずに真剣を振り切って良いというのは、人間相手では出来ない事だからな。

 しかも、人間と違ってぶっ通しで模擬戦をしても疲れない。

 ちょこちょこと俺が魂殻スピリクォッドに魔力を充填するだけで細かい傷や金属疲労やフレームの歪みなんかも治るんだから、全力で挑める理想的な練習相手だろうな。


 今日からは、下獣後の徒歩での戦いだけでなく、俺たちの駐屯場所の横に広がっている空き地で、希望する家同士で騎獣に乗った状態での騎獣戦の模擬戦も行われだした。

 まあ、慣れていないので見れたものでは無いが、自主的に訓練するのは良い事だろう。

 


 とはいえ、そろそろ、戦争の時間が迫って来ているのも事実だ。


 

 今朝になってエレムに教えられたが、アルマとエッサが籠るルクナ村がバラゴラ帝国の襲撃を受けたそうだ。

 ルクナ村を守護する精霊のルクナマクス様は、人間同士の争いには不干渉なので、純粋に村人たちの力だけで撃退に成功したらしい。


 20個持たせた『遠距離用石弾魔具』が殊の外効果が有ったらしく、少なくない犠牲を出しながら村の防護柵に取り付こうとしたところに、アルマ、ニゴウ、ゴゴウのチームと、エッサ、サンゴウ、ロクゴウのチームに背後から奇襲を仕掛けられて、散々叩かれたそうだ。

 

 まあ、襲撃して来たバラゴラ帝国の部隊が合計で200人くらいという事から、舐めていたんだろう。

 下手にちょっかいを掛けたはいいが、思わぬ被害を齎した戦力を無視する事が出来ず、残置部隊として50人くらいを抑えに置いて本隊の進軍を再開したそうだ。


 景気付けに小さな村を血祭りに上げて、略奪でもして士気を高めようとして失敗するなんて、絵に描いたようなグダグダな展開だな。

 

 しかも、アルマとエッサが手加減する訳も無く。

 エイディジェイクス王国に当て嵌めると子爵位や伯爵位に相当する中等爵位当主にも人的被害が出たそうだ。

 


 一昔前までのバラゴラ帝国では考えられない劣化具合だ。


 もしかしなくても、バラゴラ帝国は魔獣ゴレーザー・ディエランの大氾濫を乗り越えられないかもしれないな。





お読み頂き、誠に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ